明治35年創業の「野崎製作所」は、農業機械部品や建築金物の設計・開発、量産加工を手がける会社です。今回は、素朴でユニークな動きと、心地よい音色が特徴のオリジナル商品「GRAVIMORPH(グラビモルフ)」について、ブランドマネージャーの渡邉さんに話を伺いました。
株式会社野崎製作所
渡邉 まどか Madoka Watanabe
1987年三条市生まれ。美容専門学校を卒業後、結婚式場でヘアメイクアーティストとして活躍しながら家業である野崎製作所の業務を兼任。2019年に「グラビモルフ」を発売するにあたり、営業兼広報を担うブランドマネージャーに就く。二郎系ラーメンが好きで、1年半で全国44店舗を制覇。
――「グラビモルフ」とはいったいどのような商品なのですか?
渡邉さん:GRAVITATION(重力)とMORPHOLOGY(形態学)という2つの言葉を合わせた造語が「グラビモルフ」です。非常にシンプルなかたちのモノが、重力によってユニークな動きと軽やかな音を奏でる様子を楽しんでいただくアイテムですね。
――癒しのアイテムということであっていますか?
渡邉さん:その通りです。水や炎、草木の揺れといった自然の不規則な動きや音は、昔から日本人を癒してきました。そうした日本人らしい感性をモダンアートに落とし込んだのが「グラビモルフ」です。私たちはこのプロダクトを通して、忙しい現代人に「ゆとりある時間」を持つことを再び大切にしてほしいと考えています。
――なんだか少し難しいですね……。
渡邉さん:わかりにくいですよね(笑)。たとえば、古くは日本庭園で使われている「ししおどし」や夏の「風鈴」も自然の力を利用した音と動きの癒しの文化です。その音や動きが時間を緩やかなものにし、日常生活にゆとりを生み出すアイテムなんです。
――なるほど。「グラビモルフ」ならではの特徴は何でしょうか?
渡邉さん:自然の力のなかでも重力を利用していることです。重力という空間に常にあるものを利用しているため、どこでも動きと音を楽しめます。
――どういう場面で使うといいのでしょうか?
渡邉さん:私は就寝前に利用することが多いですね。一日、外的な刺激を受けて活発になっている交感神経を穏やかにするのが目的です。普段忙しくされているビジネスマンは、ご自宅での晩酌タイムによく利用されるそうです。ヨガインストラクターの方は瞑想前にお使いになるそうですよ。
――「グラビモルフ」はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか?
渡邉さん:愛知教育大学の教授であり、デザイナーの樋口一成先生と弊社の専務である野崎が出会ったことで開発がはじまりました。もともと、樋口先生は子どもの感性の発達を促すアイテムとして、木材でこの不思議な動きをつくっていたんです。「グラビモルフ」よりも動きが不規則で、子どもの感性をくすぐるリズムになっています。それを大人がリラックスするときに使えるようなリズムや音にするために、リニューアルしたいというのがきっかけでした。
――樋口先生と野崎専務はどちらで出会ったのですか?
渡邉さん:金属加工のできる会社を探していた樋口先生が、たまたま弊社に見学に来られたんです。そこでふたりが意気投合して、このプロダクトがスタートしました。
――商品をつくる中で、何が一番大変でしたか?
渡邉さん:バランスですね。比率を出すにも正解がなくて、とにかく試すしかありませんでした。バランスが決まるまでは何度もつくって調整しての繰り返しだったので、そこがいちばん大変で根気のいる作業でした。
――何だか気が遠くなりそうですね……。
渡邉さん:樋口先生がつくった木製の作品を借りて作業を進めましたが、感覚でつくられる方で、図面がありませんでした。なので、まずその比率を出して図面に落とし込みました。木と金属だと比重が違いますし、摩擦力も違います。そのままつくっても理想としている動きにならなくて……。坂道の傾斜やコマの間隔、金属に丸みをつける加工などをその都度試しながら調整していきました。
――その根気強い調整が、「グラビモルフ」のユニークな動きにつながっているんですね。
渡邉さん:細かい調整ができるのは、金属加工の技術があるからこそです。繊細なアイテムなので、数ミリの調整で動きや音が変わります。絶妙なバランスを保つ動きと音をぜひ楽しんでほしいですね。
――「グラビモルフ」はどちらで購入できますか?
渡邉さん:今はECショップがメインです。弊社に来ていただければ直接購入もできます。2019年頃から国内外の展示会に出展しており、そこで購入してくださるお客様もいらっしゃいます。
――国外にも販売しているんですね。注文が多いのはどの国ですか?
渡邉さん:ヨーロッパです。ドイツやイタリアのイベントに出展したときの反応もとても良かったです。日本の職人技や「静」の美しさに魅力を感じてくれる方が多いのだと思います。先日はアジア圏の若い学生さんが購入してくれました。幅広い地域、世代の方が手に取ってくださるのは嬉しいですね。
――野崎製作所は「工場の祭典」に参加するだけでなく、通年でものづくり体験も行っているんですよね。どんなものがつくれるのでしょうか?
渡邉さん:ミニチュア台車のものづくり体験が人気です。ミニ焚き火台や真鍮カードもつくれます。「じゃらん」などの旅行サイトでものづくり体験のコースを組んでいて、旅行のついでに立ち寄ってもらいやすいようにしています。
――体験予約が手軽にできるのはいいですね!
渡邉さん:今後は、もっと体験メニューを増やしていきたいんです。「工場の祭典」のときはどこの会社も盛り上がりますが、通常営業時にはまだお客様は少ないので。観光でのものづくり体験の機会を積極的に増やしていきたいと思います。
――最後に、野崎製作所の今後の展望を教えてください。
渡邉さん:この燕三条地区は、技術も歴史もある素晴らしい会社がたくさんあります。「グラビモルフ」を通じて、この地域には唯一無二の技術をもった会社が集まっていることを知ってほしいです。また、実際に手を動かして体験する機会を提供することで、ものづくりの楽しさをこれからもお伝えしていきたいですね。
野崎製作所
新潟県三条市塚野目2134-1