古町にあるパーキング「タキザワガレージ東堀」の屋上を使って、「8BAN PARK」というイベントが定期的に開催されていることをご存知でしょうか。飲食店や、新潟で活動する人たちが集まるこちらのイベント。主催しているのは、古町の本町8番町周辺のエリアで理想の暮らしを実現しようと活動する「8BANリノベーション」という団体です。次回の開催は7月23日ということで、「自分たちは実験屋」と語る稲葉さんと小林さんに、これまでの取り組みや今回新しく挑戦することについてお話を聞いてきました。
8BANリノベーション
稲葉 一樹 Kazuki Inaba
1986年村上市生まれ。新潟市役所都市政策部係長。現在は「にいがた2km」を担当。「8BANリノベーション」代表。
8BANリノベーション
小林 紘大 Kodai Kobayashi
1987年新潟市生まれ。「株式会社新潟家守舎」代表取締役。遊休不動産活用をテーマに、建築プロデュース業務などを行う。
——まずは「8BANリノベーション」とはどういう団体なのか教えてください。
稲葉さん:本町8番町を中心とした徒歩5分圏内くらいのエリアを、「自分たちの理想の暮らしを自分たちでつくる」という趣旨で、集中的にリノベーションしていこうと活動している団体です。主要メンバーは僕と紘大くんを含めて7人います。
――稲葉さんがチームのリーダーなんですか?
稲葉さん:僕が代表として取りまとめみたいなことはしているんですけど、全員がリーダーなんです。例えば「8BAN PARK」のようなイベントだと、紘大くんがメインで動かしていますし。
小林さん:「8BANリノベーション」という活動の中のひとつに「8BAN PARK」があるようなかたちです。「8BAN○○」という活動を8つしているんです。
稲葉さん:他にも「8BAN DIVE」という活動では、ちょっと年上のメンバーがおすすめのお店を教えて、そこへみんなで飲みに行くということを毎月やっていて。それはメンバーのひとりに飲み会とかお酒が好きな子がいるので、その子をリーダーにして動かしてもらっています。
——「8BANリノベーション」をはじめたのには、何かきっかけがあったんでしょうか。
稲葉さん:3年前に、タキザワガレージの斜め向かいにあるビルの活用方法を考えてほしい、とビルオーナーの娘さんから相談を受けました。その頃僕はまちづくりの勉強をしていたこともあって、ひとつのビルだけで考えるのではなくて、そこから徒歩5分圏内というエリアを指定して、魅力的なところを作っていくという「エリアリノベーション」をやることにしたのがきっかけです。
――小林さんと一緒に活動をはじめることになったのは?
稲葉さん:紘大くんがエリアリノベーションについてよく知っていることも分かっていたので、「一緒にやってくれないか」と最初に声をかけました。
小林さん:私は工務店で住宅設計や住宅の営業をやっていた経験があるので、まちづくりにも関心があって、稼ぎながら町に再投資していくことに憧れがあったんです。そのための手法のひとつとしてエリアリノベーションについて勉強したり、自分でもやってみたりして経験を積んでいっていました。
——「エリア」をリノベーションすることで、町にどんな効果が生まれるんでしょうか。
稲葉さん:町に魅力的なものがあったとしても、それがひとつのエリアに集まっていないと相乗効果がないんですよ。めちゃくちゃお洒落なカフェが山奥にひとつあったとしても、お客さんがそこまで車で行って、カフェを楽しんで、また車で帰るだけだと、実は町にはそこまでいい効果はなくて。
——確かに、その1か所だけに行って帰って終わりですもんね。
稲葉さん:だけど、いいカフェと、おしゃれな雑貨屋さんと、美味しいスイーツのお店が3軒並んでいたら、そこに車で行ったとしても「せっかくなら3軒まわっていこう」となって、より消費が増えるかもしれない。そうでなくても「あの近くに私も出店したい」という人が出てくるかもしれない。だから最初にできたお店が魅力的であればあるほど、そのエリアによりセンスのいいお店が増えていくので、魅力的な町になっていくんじゃないかという考え方です。
小林さん:「8BAN PARK」は人材育成やきっかけづくりの意味もあって、チャレンジしようとする人を応援することでエリアのファンになってもらって、新しく点を打つ人が増えたらいいと思っています。
——これからお店をはじめようとしている出店者さんとかは、「8BAN PARK」をきっかけにそのエリアでの出店を考えるようになるかもしれませんもんね。
稲葉さん:実は僕、最近このエリアに越してきて。「8BANリノベーション」の最初の活動として、まず自分の家をリノベーションしたんですよ。中古マンションを買って、解体とか壁塗りとかもちょっとだけ自分たちでやって。そこに今住んでいるんですけど、徒歩圏エリアにいろんな拠点ができはじめていて。こういう人を増やしたいなと思っています。
——この本町8番町周辺のエリアは、最初におっしゃっていた「理想の暮らし」が実現できそうなエリアだということなんでしょうか。
稲葉さん:魅力的なエリアというのは、「働く」「住む」「遊ぶ」が混在しているエリアなんじゃないかと僕は考えていて。徒歩圏内にある程度買い物できる場所や通いたくなるカフェがある、居酒屋がある、子どもと一緒にいける公園があるとか。そういうことがやりやすいのって、既に商店街があるような、こういう場所なんじゃないかなって。更に、県外とか海外から来た人も訪れたくなるお店とかスポットがあると、町を歩いていても外国の方に道を聞かれるとか、そういう体験が楽しい町になるんじゃないかなと思います。
小林さん:僕らの活動って、都市の魅力とか、数字で測れないところがあるんですよね。チャレンジに寛容かとか、外国の方が歩いていたとか、カップルがいい感じに歩いていたとかって、駅から徒歩何分とか、全面交通量が何人とか、数字では測れない魅力だと思うんですよね。その社会実験を盛大にやっていて。「イベント屋」というより「実験屋」なんです。
——実験、ですか。
小林さん:「理想の暮らしってなんだろう」「これじゃない?」というお試しを繰り返す、答えを探っているみたいなことですね。「サウナが身近にあったらいいな」とか「美味しいものが食べられたらいいな」とか「ビールが飲めたら楽しいな」とか、その延長です。
——タキザワガレージの屋上を使ってイベントをはじめたのはいつからですか?
小林さん:2020年11月が最初です。タキザワガレージさんからの信頼も大事なので、まずは友達に声をかけてコワーキングスペースをやってみました。それから徐々にサウナをやらせてもらったり、飲食をやらせてもらったり、焚火をやらせてもらったり……(笑)。お金があるから信頼を得られるわけじゃないので、何者でもない僕たちが何者かになるためには小さく重ねるしかないかなって思います。屋上でのイベントノウハウもたまりましたね。
——今回の「8BAN PARK」ではどんなことを企画されているんでしょうか。
稲葉さん:今回は民謡流しとコラボする予定です。今の僕らくらいの世代だと、新潟まつりに進んで行こうと思う人ってそんなに多くないと思うんです。だけど本来祭りって、町を盛り上げたい人たちが、団結感やつながりをより深めるためのものなんですよね。だから今回「8BAN PARK」に集まる人たちにまずは民謡流しを楽しんでもらって、そこで知り合った人たちと「新潟まつりの大民謡流しにも参加しよう」という流れを作ることができれば、祭りに関わる人も増えるんじゃないかなと思います。
——おふたりが活動を続けられるモチベーションってどんなところなんでしょう?
稲葉さん:僕の場合はこのエリアに住んでいるので、そのエリアが自分たちの手で少しずつ変わっていく実感というのが何よりの報酬ですね。
小林さん:私の会社のキャッチコピーはまさに「じぶんのまちを、じぶんのことに。」なので、こういう稲葉さんのような人が増えることが大事ですよね。楽しいからっていうのも、もちろんありますよ(笑)
——最後に、この記事を読んでいる方へメッセージがあればお願いします。
小林さん:「8BAN PARK」への関わり方として、単純にお客さんとして来るだけでも楽しいし、ボランティアスタッフとして参加するとか、出店者になるっていう関わり方もありますし、もう少し上げるとリーダーやインターンとか、僕らがいて。だからまずはイベントに来てもらって、そこから徐々に町やコミュニティへの関わりを増やしていって、「じぶんのまちを、じぶんのことに」という人が少しでも増えていったらいいなと思います。
稲葉さん:僕らがやりたいのはやっぱり「場をつくる」ということなんです。「8BAN PARK」もその場のひとつですし、このエリアに物件を持っているんだけど何にも使っていないし壊そうかなっていうときには、一度僕らに相談してくれたら嬉しいですね。
8BANリノベーション