五頭連峰の麓、五頭温泉郷のひとつである出湯温泉に、新しい喫茶店がオープンしました。その名は「愛着珈琲出湯温泉喫茶室」。実はこのお店、新潟市の古町にあった「カフェ砂場」の3代目オーナー・石川さんがスタートした喫茶店なのです。今回はお店をはじめた経緯や、オープンしたばかりなのに懐かしさ溢れる魅力的な空間の秘密を聞いてきました。
愛着珈琲出湯温泉喫茶室
石川 彰 Akira Ishikawa
1962年新潟市生まれ。コピーライターや塗装業、喫茶店運営など多岐に渡る経歴の持ち主。2018年「愛着珈琲出湯温泉喫茶室」をオープン。読書と映画、そして音楽が好き。
――今日はよろしくお願いします。石川さんは、昔からコーヒーが好きだったんですか?
石川さん:そうですね。予備校時代から自分でコーヒーを淹れたり、喫茶店へ行ったりしていました。
――そうなんですね。どんなキッカケで喫茶店をはじめようと思ったんですか?
石川さん:大学を卒業してからは、コピーライターとして働いてたんです。その当時、よく通っていたのが古町にあった喫茶店「時屋(ときや)」です。このお店は4年くらいで店を閉めてしまって、その後は「コーヒーショップ砂場」として、2代目オーナーが引き継ぎました。このお店も好きで通っていたんですが…。
――もしかして…閉店してしまったとか?
石川さん:はい。でもそのタイミングで「喫茶店をやってみないか?」と2代目オーナーからもちかけられたんです。昔から喫茶店をやりたいとボンヤリ思っていたのもあって、意を決して引き継ぐことにしました。「砂場」というネーミングは気に入っていたから「カフェ砂場」として。カフェといっても、純喫茶なんですけどね(笑)。
――「カフェ砂場」をはじめてから、コピーライターのお仕事は?
石川さん:昼間は奥さんがお店を切り盛りしてくれていたから、コピーライターの仕事は続けて、夜になると姿を変えて喫茶店のマスターをやっていました。ただ、昼も夜も働いて睡眠時間は毎日3時間。体力的には辛かったですね(笑)
――昼も夜も…なかなかハードな生活だったんですね。
石川さん:でもとにかく喫茶店の仕事は楽しかったし、お店を守らなければいけない使命感の方が勝っていたからへっちゃらでした。ただ、15年経ったある日、木工塗装工場を営んでいた親戚のおじさんが亡くなってしまって。人手不足で、急遽、その工場を手伝うことになったんです。それで「カフェ砂場」は閉じることにしました。
――じゃあ、それからしばらくは木工塗装工場で?
石川さん:はい。ただ、ずっと務めるつもりではなくて、工場の体制が落ち着くまでと考えていたから、そう長い期間ではありませんでした。
――落ち着いてから喫茶店を再開するつもりは…。
石川さん:家具とか物が古くなると捨ててしまう文化が日本にはあります。でも、工場での経験とか、アンティークが好きということとかもあって、「大切な物は直してキレイにして使ってあげること」を伝えたくて、喫茶店を再開するのではなくて、家具補修工房「愛着工房いしかわ」をはじめたんです。
――喫茶ではなかったんですね。
石川さん:人生の最終目標は「工房と喫茶店、そして家がひとつの場所に集まる」ことでした。だから、何かを決めるときにはいつもこの目標に向かって動いていて。工場で培った技術や好きな物を考えたときに、工房もしようと思ったんです。だから気持ちが移ったのではなくて、目標に向かったわけです。
――ああ、なるほど。まず工房から、だったと。それでゴールが「愛着珈琲出湯温泉喫茶室」というわけですね。
石川さん:そうなんです。「カフェ砂場」を閉めてから18年後、58歳になったとき、そろそろ終着地点へ向かおうと、この場所で工房と喫茶店、そして家がひとつに集まった「愛着珈琲出湯温泉喫茶室」を2018年にオープンしました。
――それでは「愛着珈琲出湯温泉喫茶室」について教えてください。どんな喫茶店ですか?
石川さん:五頭山の山懐の出湯温泉にあった古民家に手を加えて、長年集めてきたテーブルやイスを配置して、自分の人生の集大成ともいえる喫茶店にしました。若者から年配の方まで誰でも馴染んでもらえる落ち着いた空間です。「カフェ砂場」時代からのネルドリップコーヒーや手作りケーキを楽しんでもらえます。
――「カフェ砂場」のDNAもちゃんと引き継いでいるんですね。
石川さん:はい。あと、新しくスタートした試みとして、近隣の人たちが食事を楽しんでもらえるようにと、平日の昼だけナポリタンやカレーも提供しています。
――おお、ランチも。ところで店内にあるたくさんの本やCDも「カフェ砂場」の時代からですか?
石川さん:CDは「カフェ砂場」からのもので、ジャズやボサノバを中心に1,500枚くらいあります。本は昔から好きで、自分が読んでいた一部を。ちなみに映画のポスターや絵画も「カフェ砂場」から持ってきました。昔に通ってくれた人も多くて、懐かしさを感じてもらえています。
――そのせいもあるんですね。新しいお店なのに落ち着くし、懐かしい雰囲気を感じるんですよね。
石川さん:古民家をリノベーションしているし、家具はアンティーク。それに「カフェ砂場」で培った15年間の時間があるから、きっとタイムマシーンで過去にやって来た、そんなちょっと不思議な空間になっているんだと思います。
――そう、タイムスリップみたいな感覚です。
石川さん:「カフェ砂場」の時間や物、そして人がここにはあります。この場所で、止まっていた時間がもう一度動き出して、はじまったんです。だから新しくても、どこか懐かしい空間が「愛着珈琲出湯温泉喫茶室」なんだと思います。
愛着珈琲出湯温泉喫茶室
新潟県阿賀野市出湯738
0250-62-8686