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あちらこちらで本の魅力を伝える移動本屋「ブックスはせがわ」。

「移動本屋」として各地のイベントに出店をしたり、長岡市摂田屋の「LIS」や女池の「S.H.S」内で常設店舗を営んでいたりと、一般的な書店とはちょっと違う取り組みをしている「ブックスはせがわ」。今回は新潟市南区白根「ART&COFFEE SHIRONE PRESSO」で開催中の企画にお邪魔し、店主の長谷川さんに「移動本屋」をスタートしたきっかけや本の魅力などいろいろとお話を聞いてきました。

 

移動本屋

長谷川 敏明 Toshiaki Hasegawa

1974年長岡市生まれ。地元の高校を卒業後しばらく都内で暮らす。28歳のときに新潟に戻り、両親が営む書店「ブックスはせがわ」を引き継ぐ。2014年より「移動本屋」としての活動をスタート。

 

外へ出て本の魅力を伝える。書店の2代目がはじめた「移動本屋」。

——「移動本屋」とは面白いことを考えられたもんだなぁ、と思っていたので、長谷川さんにお会いするのをとても楽しみにしていました。どうして「移動本屋」をはじめられたのでしょう?

長谷川さん:僕は長岡の本屋の2代目です。東京でフラフラして、その後28歳のときに父親が体調を崩してしまったので新潟に戻って来ました。それから両親と一緒に本屋の仕事をはじめました。でも、郊外の大型書店やネット通販が勢いを増す中、「ただ書店をやっているだけでいいものだろうか」と悶々とするようになりました。それであるとき、「移動本屋」をやってみようかと思いついたんです。

 

 

——もともとは町の本屋さんからはじまったわけですね。

長谷川さん:本屋として店舗があった頃も、トークイベントやワークショップを開催していました。でもただ待っているだけじゃなくて、外へ出てみるのも面白そうだと思ったんです。ちょうどなんとかマーケットとかマルシェが増えてきた時期で、そういうところで本を販売してみたらどうだろう、という考えが浮かんで。それが「移動本屋」のはじまりですね。

 

——なるほど。いろいろなところで本を販売しようと思いついたわけですね。

長谷川さん:今も、両親の代から継続している、学校や図書館への書籍の納品や雑誌の配達の仕事もあります。ただ、それだけだと味気ないと思いました。「移動本屋」をはじめたおかげで、県内各所からお声をかけてもらったり、メディアに取り上げてもらったりと活動の幅が広がりました。

 

——どんなスケジュールで「移動本屋」として活動しているんですか?

長谷川さん:スポットでイベントに出店させてもらうこともあれば、今回の企画のように場所をお借りしてしばらく展示会のようなかたちを取ることもあります。(※ 2023年1月5日~2月26日まで「ART&COFFEE SHIRONE PRESSO」にて「本を届ける、本を見つける」―ブックスはせがわ ギャラリーが本屋になる Vol.7 ―開催中)

 

誰でも受け入れる場所で、埋れている魅力的な本を届ける。

——「移動本屋」って、あまり前例はなかったのでは?

長谷川さん:おそらくそうでしょうね。はじめは愛車に本を乗っけていろいろなところに行ったら楽しそうだな、という思いでした(笑)。そもそも本屋って特徴がないというか、出しづらいというか……。本屋には特徴はなくていいものだと思っています。でも、人気に関係なく「いい本」を選んで届けるのが「移動本屋」の役割だと考えています。流行っているからいい本、売れているからいい本、という面ももちろんあるのですが、知られていなくても素晴らしい本がたくさんあります。

 

——各所へ持参する本はどんな観点でセレクトするのでしょうか?

長谷川さん:資本力があるわけではないので、品揃えは勝っていません。ただ量は多くなくても、ぎゅっと凝縮して面白みのある本を選ぶようにしています。いわゆるベストセラーばかりではつまらないでしょうし、埋もれている本でもいい本はたくさんあるので、そういう魅力的な本を救ってあげたいという気持ちもあります。

 

——選ぶ書籍には、長谷川さんの趣味が反映されている?

長谷川さん:そう言われることもあるから僕の趣味が現れているのかもしれませんが、どうでしょう……。好みで売上が成立するわけではないので、なんと言えばいいか答えようがないです(笑)。でも出店の度にチョイスは変えていますし、アンテナは張っているつもりです。

 

 

——書店ではない場所で本に出会うと、また新たな発見がありそうですね。

長谷川さん:同じ本屋はひとつもないですし、お客さまが10人来たとして、それぞれ目に留まるものは違います。加えて場所が変わると目の付け所も変わるというのはあるでしょうね。

 

——ちなみに陳列にはどんな狙いが?

長谷川さん:「場の編集」とかっこよく言うこともできますけど、ノリですかね。ノリも大事だと思っているので。でもなんとなく関連付けて置くようにはしています。

 

——推しの本を面陳にすることも?

長谷川さん:それはあまりしないかもしれません。そんなにおすすめしないタイプだと思います。書籍自体からたくさんの情報が発信されているなので、それに加えてポップを付けるようなことはあまりしないです。積極的におすすめはしないというか。お客さまに「いいな」と思う本をキャッチして欲しいという気持ちでいます。

 

——もちろん長谷川さんが知らない本はないわけですよね。

長谷川さん:すべて目は通しています。選んでいるのは自分のアンテナに引っかかったものですが、そんなに強い思想を持っているわけではありません。誰でも受け入れるのが本屋だと思っているので、イデオロギーは強めじゃなくていいと思っています。

 

多様なメディアがある中で、紙の書籍が生む価値とは。

——移動書店をはじめてから、何か変化はありましたか?

長谷川さん:県内だけでもいろいろな場所がありますし、それぞれにコミュニティがあると出店の度に発見があります。それに「移動本屋」をしていると、各地に本が好きな人がいるのが分かって嬉しいです。僕は本を売る側として何か面白いフックが必要だと思って「移動本屋」をはじめました。ちゃんと普通の書店との違いが響くのだろうかと不安があったので、「移動本屋」を面白がってくれる方がいるのはありがたいですね。

 

——今は紙媒体以外にも様々なツールがありますが、紙の本に特別な思いはありますか?

長谷川さん:僕自身スマートフォンを使いますし、紙媒体以外で情報を得ることも多いので、そんなに保守的な気持ちはありません。でもページをめくる動作とか造本の素晴らしさは紙ならではのものじゃないでしょうか。なんだかんだ紙が便利だという気もしますが、考えが何周かして、漫画を何十巻も揃えることなんか、これからはお金持ちだからできる所有の仕方になるかもしれないとも思います。

 

 

——ちなみに読書はもともとお好きでしたか?

長谷川さん:親から「本を読め」と言われていましたが、あまり読んでこなかったですね。ちゃんと読書をするようになったのは30歳くらいからです。池田晶子さんの哲学エッセイを好んで読んでいました。でも本の虫というほど読書量は多くないですよ。

 

——最近、新しい試みをされたとか。

長谷川さん:長岡市摂田屋の「LIS」で書籍と地元作家さんの作品などを扱う常設店舗を持っているんです。観光地になりつつある摂田屋のお土産になるものが欲しいと思いまして、摂田屋と関わりのあるイラストレーターさんとのコラボ手ぬぐいを作りました。地域の魅力を伝える手助けにもなれたらと思っているので、「移動書店」だけでなく、そんなことも始めています。

 

 

 

ブックスはせがわ

 0258-35-2147

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