ThingsのWEB記事、そしてMagazineでもご紹介した陶土アクセサリー作家「アルペジオ」のご主人が、小千谷駅前に「珈琲とおみやげの店 アルペジオ」をオープンしました。奥さんと一緒にイベント出店したことをきっかけに、どんどんコーヒーにのめり込んでいったという店主の今井さんに、コーヒーのこと、おみやげも置いている理由などいろいろとお話を聞いてきました。
珈琲とおみやげの店 アルペジオ
今井 一博 Kazuhiro Imai
1981年小千谷市生まれ。長岡造形大学卒業後、飲食業や販売業を展開する朝日商事株式会社へ入社。同社が運営する東京都内の飲食店で経験を積み、新潟市内の「佳肴 あさひ山」では店長を務める。その後、「アルペジオコーヒー」の屋号でイベント出店を重ね、2023年に「珈琲とおみやげの店 アルペジオ」をオープン。日本酒ソムリエの資格を持つ。読書が好き。
——今井さんは、新潟駅南口の「あさひ山」さんで店長をお務めだったんですね。
今井さん:大学時代から朝日酒造のアンテナショップでアルバイトをしていまして。卒業後にそのまま就職しました。朝日酒造の関連会社で、飲食店の展開などをしている朝日商事という会社です。東京にも店舗があったので、新橋、銀座、日本橋とあちこちで働きました。2013年まで東京で過ごして、子どもが生まれる頃に新潟に戻ってきたんです。それから「あさひ山」で店長を任せてもらいました。
——その頃からコーヒーショップにご興味があったんですか?
今井さん:そういうわけではないんですよね。カフェなんてほとんど行ったことはなかったんですけど、たまたま立ち寄った「dAb COFFEE STORE」さんでコーヒーに興味が沸いて。何気なく妻から「和食の仕事以外でやりたいことないの?」と聞かれて思い浮かんだのが、コーヒーでした。
——当時は、将来コーヒーのお店をはじめるなんて思っていないわけですよね。
今井さん:新しい分野に足を踏み入れてみようって感じの軽い気持ちでしたね。でも、「コーヒーやってみようかな」なんて夫婦で話した1週間後に、マルシェイベントへの参加が決定しまして。妻の知人が主催するマルシェで、「コーヒーショップに空きがあるからどうですか」と誘われたんです。
——そんなにすぐ出番がきたなんて。
今井さん:はじめたばかりだったから、豆を挽いてその場で淹れるなんて知りませんでした。できあいのコーヒーを普通に注げばいいのかと思っていたくらい(笑)。それから東京のコーヒーのイベントとか、老舗の喫茶店とか行っていろいろ調べたんです。
——ちなみにはじめてのイベントはどうでしたか?
今井さん:緊張しましたよ。お酒はボトルに完成品が入っているから、開封して注げばいいですけど、コーヒーはお客さまの目の前で完成させて提供しなくちゃいけないですからね。最初はドキドキしました。
——最初のイベントがきっかけで、徐々に露出を増やしていかれたんですか?
今井さん:妻も作家としてイベントに出店しますので、私も一緒に「アルペジオコーヒー」として参加するようになりました。ただ、興味がなくなったらそれはそれでいいやって感じでしたかね。
——ググッとギアが上がったタイミングはあったんでしょうか?
今井さん:コーヒーについていろいろ調べる中で、Xで仲良くなった人がいました。その人たちが東京でイベントをするからというので、私を誘ってくれたんです。そこでふと「自分で豆を焙煎しないと個性が出せないんじゃないか」と思ったんです。人によってはコーヒーの淹れ方で個性を出せるんでしょうですけど、私はまだ初心者だったので、そこまでの技術がなくて。そこから気持ちがけっこう変わったのかなと思います。自分で豆を選んで、焙煎するようになりました。
——お店には7種類のコーヒーが置かれていますよね。最終的にはどんなコーヒーを扱うことに落ち着いたんでしょう?
今井さん:自分の中ではたくさんこだわりがありますけど、お客さまにはあまりそういったところを伝えていないと思います。コーヒー豆の産地と品種、どういった焙煎具合かという情報しかメニューに書いていないので。こだわりはそれほど伝えなくていいかなっていうか、「美味しいコーヒーが飲める店」として皆さんに知ってもらうだけで十分だと思っているんです。
——シンプルなメニュー表記で、選びやすくしてくださっているってことですね。
今井さん:丹精込めて生産してくださっている方がいるので、豆の産地と品種は表記しています。それ以外の情報は私が把握しているので、いくらでもお伝えできますよ。
——たくさんの種類から7つに絞ったんですよね?
今井さん:イベント出店していた頃は、いらっしゃるお客さまの傾向を踏まえて選んでいました。だいたい3種類くらい用意していたんですけど、お店に置くにはもっと充実させたいと思って7種類ご用意しています。ちなみにブレンドではなく、豆単体の味。シングルオリジンを提供しています。
——お話を聞く限り、気軽にお店に入れそうでありがたいです。
今井さん:「こだわりの店」みたいな感じで営業しているつもりではないです。「フラッと入ってみたら美味しいお店だった」っていうのを目指しているっていえばいいのかな。「コーヒーはこんなに魅力的で素晴らしいんですよ」と伝えるのは他のお店にお任せして、うちではシンプルに美味しいコーヒーを楽しんでいただきたいと思います。
——すごく趣があって、素敵なお店ですよね。
今井さん:このお店は50年くらい、母がお土産屋さんをしていたところなんですよ。ここが私の実家なんです。
——えっ。そうなんですか。小千谷駅に近くて、めちゃくちゃ好立地ですね。
今井さん:母から「いつかここで何かしてもらいたい」と言われていたんですけど、私は勤め人でしたし、それほど真剣には考えていませんでした。そうこうしているうちにコロナ禍となって、お酒を提供する仕事がなかなか厳しくなりまして。
——まさに今井さんが少し前までなさっていたお仕事ですね。
今井さん:家族と過ごす時間を増やすためにも、日中の仕事に就こうかなと考えるきっかけでもありました。でもこのお店をはじめたのは結果論というか、その前にコーヒーにハマっていたし、実家であるこのお店をなんとかしなくちゃいけないっていう、いろいろな要素があったんです。お土産と一緒に妻の作品も陳列できますしね。
——それで「珈琲とおみやげの店 アルペジオ」が誕生することになったと。
今井さん:当初は、コーヒーだけのお店にするつもりでいました。でも50年もお土産屋だったので、地元の問屋さんとのつながりがあります。すべてバツっと切って「カフェにします」では、小千谷でお店を営む意味がないと思ったので、地元の会社さんとのお付き合いを保ったまま「珈琲とおみやげの店」にすることにしました。
——お土産品をじっくり見させていただきました。改めて、小千谷には素敵な文化やグルメがあるとわかってびっくりしました。
今井さん:小千谷の銘品って、たくさんあるんですよ。カフェに来られてお土産を買われる人もいますし、お土産を買いに来られた方がコーヒーを楽しんでくださいます。昔からのお客さまが引き続き利用できて、なおかつ若い方にも来てもらえるようなお店になったかなと思っています。
——お話を伺うまでは、駅前だからこの場所を選んだのだと思いました。まさか今井家がご商売をされていた場所だったとは。
今井さん:ほんとうにご先祖さまに感謝ですね(笑)。小千谷の玄関口ですから、地元の方の来店も多くて、すごく嬉しいです。
——これから小千谷を盛り上げるお店になるんじゃないかって期待しちゃいます。
今井さん:そうなれたらいいですよね。観光案内所のような役割もできたらいいなと考えているところです。小千谷には大学、専門学校がないので、高校を卒業すると市外に出る方が多いんです。だから若い方には特に「小千谷は活気づいているんだぞ」って思ってもらいたいですね。「いつか小千谷で何かはじめてみようかな」と考える方の後押しができるお店になれたらいいな。
——オープンされてから、地元の方からはどんな声があったんでしょう?
今井さん:「おぉ。新しいお店ができた」ってびっくりされる方が多いです。今年、小千谷におしゃれな図書館が新しくできるんですよ。それからクラフトビールの醸造所も。ここを中継地点にして、小千谷各地を巡ってもらいたいですね。
珈琲とおみやげの店 アルペジオ
住所/小千谷市東栄1-2-3
営業時間/10:00〜17:00
定休日/火曜日、金曜日