地域がひらかれ、人がつながる。
「オーライ!発酵街道開」
その他
2025.11.20
10月に西区、西蒲区、弥彦村で開催されたイベント「オーライ!発酵街道開」。「発酵街道」と名づけられた各エリアで、発酵にまつわる食材を使ったメニューの提供や、蔵開き、ワークショップなどが行われました。このイベントを企画した新潟市西区役所の五十嵐さんと、以前「潟マルシェ」でお話を聞いた株式会社U・STYLEの松浦さんに、イベントをはじめたきっかけや、イベントのことなど、お話を聞いてきました。
松浦 柊太朗
Shutaro Matsuura(株式会社U・STYLE)
1993年新潟市生まれ。デザイン会社「株式会社U・STYLE」に勤める。デザインのディレクション業務に携わりながら「潟マルシェ」を運営。新潟市西区の「佐潟エリアブランディングプロジェクト」ではディレクターを務める。
五十嵐 圭太
Keita Igarashi(新潟市西区役所)
1980年福島県伊達市出身。地元福島での行政経験を経て2012年に新潟市役所へ入庁。現在は新潟市西区役所の地域課で文化・スポーツを担当。2023年に「佐潟エリアブランディングプロジェクト」を立ち上げる。
地域を見直して見つけた、
「発酵」という地域資源。
――10月4日から13日にわたり、「オーライ!発酵街道開」が開催されました。このイベントができたきっかけを教えてください。
松浦さん:まずは「発酵街道開」のきっかけになった、「佐潟エリアブランディングプロジェクト」についてお話させてください。佐潟を中心に半径5kmくらいのエリアを「佐潟エリア」と名づけまして、このエリアにはどんな地域資源があるのか、いろいろと調べました。そこからこの「佐潟エリア」が目指す8つのビジョンを立てたんです。
――今ある資源に価値を見出して、地域を盛り上げようということですね。
松浦さん:佐潟特有の地形や立地、歴史など、伸ばしていける資源がたくさんあるなかで、日本酒やワイン、ビール、漬物やパンなど、発酵にまつわる食品をつくっているお店がたくさんあることがわかったんです。そこで「発酵」というキーワードをビジョンのひとつとして、「佐潟エリア」のブランディングに取り組むことにしました。
五十嵐さん:最初に「佐潟エリア」のビジョンをつくり、その中のひとつ選んで具体的に動き出していこう、というのがこのプロジェクトの流れでした。そうして企画されたのが「オーライ!発酵街道開」だったんです。でも実は、最初からこういうイベントをしようとは思っていなかったんですけどね。
――ではどのようにイベント化されていったのでしょう。
五十嵐さん:「佐潟エリア」のビジョンをつくったはいいけれど、地域の人にまだ知られていないと感じていて。まずは関わり方を一緒に考えて欲しくて、地域デザインについてのセミナーを開くことからはじめようかな、と思っていたんですよ。でも「そんなことしていると、地域が盛り上がっていくのにすごく時間がかかる」っていうお声をいただいて。「じゃあ、イベントとしてやってみよう」と企画をはじめました。
――そうして「オーライ!発酵街道開」を開催することになったんですね。そもそも「発酵街道」とは具体的には?
松浦さん:かつて西区から西蒲区、弥彦に通っていた「北国街道」付近のエリアのことです。江戸時代につくられた道で、弥彦神社に参拝に行くため、佐渡の金や銀を江戸に運ぶために使われたんです。今、このエリアには酒蔵が8軒、ワイナリーが6軒、漬物屋さんが9軒など、発酵にまつわる場所がたくさんあります。この特徴と「北国街道」の歴史を踏まえて「発酵街道」と名づけました。
五十嵐さん:「佐潟エリアブランディングプロジェクト」は佐潟周辺をひとつのエリアとして捉えていましたが、「発酵街道」は「佐潟エリア」を含めた、より広い範囲をエリアに設定しています。蔵開きのように「発酵街道」というエリアも開いていこう、ということで「オーライ!発酵街道開」という名前にしました。


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お酒がぷくぷく発酵するように。
地域の人もつながり、発酵していく。
――「オーライ!発酵街道開」では20を超える事業者が参加していました。
五十嵐さん:エリアの範囲がとても広かったので、事業者さんに声を掛けるのは大変でした。すごく、走った気がします(笑)。とはいえ、拾いきれなかった事業者さんも多くて。お声がけしたい事業者さんが、たくさんいるのも「発酵街道」ならではの難しさでした。
――イベントのかたちも、長期間にわたり、よくあるイベントとは少し違ったように感じました。
松浦さん:他の地域から人を呼ぶイベントというよりは、地域の人に「こんなお店や場所がある」っていうのを伝えたかったんです。地域の人に発酵をキーワードにしたお店や事業者さんを知ってもらうために、10日間という期間を設けていたんです。これも、僕は地域が「発酵」していると思っていて。
――と、いいますと?
松浦さん:お米と微生物が合わさり、それが混ざってお酒はつくられますよね。地域も、人がつながって、交流することで盛り上がっていく、この過程がまさに発酵している、と言えると思うんです。「オーライ!発酵街道開」は発酵にまつわるイベントを企画していましたが、この企画そのものが、発酵のメタファーになっているなって。
――なるほど。このイベントに参加するということ自体が、地域の発酵になっていると。
五十嵐さん:今回のイベントでは、参加していた事業者さん自ら企画を立ててもらったんです。飲食店であれば、限定メニューを出してもらったり、酒蔵の蔵開きを開催してもらったり……、地域の事業者さんが自主的に参加していたのも、このイベントならではの特徴だったかもしれません。


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「発酵」で地域課題にアプローチ。
おふたりに聞いた、これからのこと。
――イベントを終えて、おふたりの感想を教えてください。
松浦さん:イベントをやるのって大変なんだ、というのが率直な感想です(笑)。このイベントは観光やレジャーを目的としたものではなかったので、とらえどころがなかったんです。でも、それがすごく面白くて。西区役所のスタッフさんが「今まででいちばん面白かった仕事です」って言ってくれるくらい、手応えのあるイベントになりました。
松浦さん:発酵という過程にフォーカスできたのが、僕はすごく良かったと思っています。「発酵」っていう言葉を聞くと、みなさんお酒や味噌みたいな、食べものをイメージする方が多いと思うんです。でもこのイベントでは、発酵にまつわるものを食べたり、買ったりするだけじゃなくて、地域が「発酵」している様子も表現できたと感じています。
――私も実際に行ってみて、エリアの各所で静かに盛り上がっているのがとても印象的で、おふたりの言葉が、とても腑に落ちました。イベント全体を通して、印象に残っていることはありますか?
五十嵐さん:このイベントで、お店と地域の人の交流はもちろん、お店同士の交流もたくさんあって。中には「ずっと気になっていたお店とつながることができた」って言ってくださった方がいて。これは予想してなかったんですが、すごく良い反応だなと思いました。
松浦さん:このエリアは年々、バスの運行量が減っていて課題視されていました。この課題にアプローチしようと、期間中「発酵街道」までのシャトルバスを運行していたんです。そうしたら、これがすごく好評で。毎回、たくさんの方に利用してもらえました。地域が持つ課題にアプローチできたことも、このイベントの大きな収穫でした。
――人のつながりだけでなく、地域がもつ課題に対しても効果があったんですね。今後、このイベントはどう変わっていくのでしょう。
五十嵐さん:「佐潟エリアブランディングプロジェクト」でこの地域のビジョンを立て、ひとつのビジョンにフォーカスしてイベントをする、というのは、ここまでの流れとして計画していました。これからは、地域の人が自主的に動き出せるような土台づくりをしていきたいんです。
松浦さん:今回のイベントで、人やお店が自発的につながってくれることがわかって。次の年に向けて、僕らにできるのはお店や人をつないでいくことだと思うんです。この地域がもっと発酵できるように、僕たちができることをこれからもやっていきたいですね。

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