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美味しいへぎそばと気遣いで心を和ませる「越後へぎそば処 粋や」。

新潟名物のひとつである「へぎそば」。訪れる人に美味しいへぎそばを提供するだけではなく、素敵な時間を過ごせるよう、ちょっとした心遣いも大切にしているのが「越後へぎそば処 粋や」です。新潟市中央区のショッピングモール「デッキー401」の一角で10年以上営業を続けています。店主の高橋さんに、お店を続ける中で大切にしていることを聞いてきました。

 

 

越後へぎそば処 粋や

高橋 清志 Kiyoshi Takahashi

1963年村上市生まれ。大学卒業後、飲食店を展開する「株式会社安兵衛」(現株式会社クオリス)に入社。その後、東京にある別の会社を経て、十日町にある老舗の蕎麦屋さんに23年間勤務。役員まで務める。2013年に独立し、新潟市中央区で「越後へぎそば処 粋や」をオープン。

 

友人との出会いをきっかけに、そば職人の道へ。

――高橋さんは幼い頃からそば職人に憧れがあったんですか?

高橋さん:いえ、そういうわけではないんです。大学時代に飲食業のアルバイトをしていて、「将来は飲食店で働きたいな」と思ったんですね。人が集える場があるのって、いいじゃないですか。

 

――「人が集まる場所を作りたい」という思いがはじまりだったんですね。

高橋さん:地元が村上なんですけど、高校時代なんかも学校帰りによく行っていたお店があって、そこでマスターがピラフを食べさせてくれたりして。「こういうのいいな」っていうのも頭にありました。

 

 

――じゃあ大学を卒業した後は、飲食業を営む会社に?

高橋さん:当時新潟でいちばん大きい飲食業の会社が「株式会社安兵衛」っていうところだったんです。そこに入社して統括店長をしていました。そこから縁があって東京にある別な会社に入ったときに、十日町にある老舗そば屋さんの2代目と知り合って、友達になったんです。

 

――その出会いがそば職人の道に進むきっかけになったんですね。

高橋さん:そしたら「自分もいずれ店を継ぐんだけど、新潟市内における1号店を作りたい」「その店舗の店長及び、これから展開していくための支配人が欲しい」ということで、僕は誘われたんです。

 

――高橋さんはなんとお返事を?

高橋さん:そば屋になるつもりはなかったので断りました。それで飲食店で店長をやっている友達を何人か紹介したんですけど「何か違う」と。その間にもお店の建設は進んでいくわけですよ。でも、そこの責任者が決まってないと。そんなとき「会社で余ったから使って」と言って、僕のアパートにファックスをくれたんです。そしたら毎日ファックスが送られてくるようになって「うちに来てくれよ」って(笑)

 

――ラブレターですね(笑)

高橋さん:そうやって口説かれて、「じゃあ新潟市内に多店舗展開していきましょうか」っていう話で入社しました。そこから長岡や上越に店舗を展開するお手伝いをしていましたね。

 

元気のないときでも、お店に来たら笑顔になってもらえるように。

――独立されたのは何かきっかけがあったんですか?

高橋さん:そのそば屋には23年勤めて、取締役支配人をやっていたんです。ただ経営的な方針の違いもあって、退職することになりました。そのときに他のおそば屋さんにも「うちに来ないか」と声をかけていただいたんですけど「それは男としてちょっとどうかな」と思って、自分で店を立ち上げたんです。今では前のお店に対して、独立させてくれたことに感謝しています。

 

――「粋や」はどんなおそば屋さんをやりたいと思ってはじめたお店なんでしょうか。

高橋さん:料理が美味しいだけじゃだめですよね。おもてなしの部分だと、お客様がお茶を飲んでいるところを横から見ると、満タンじゃないときは角度が上がるんですよ。あとはお水も出しますけど、今日みたいに寒い日はコップの場所が移動していないと、飲んでいないって分かりますよね。そういうときに「お茶ください」と言われる前に気づいて持って行ってあげると感動するというか、嬉しいじゃないですか。

 

 

――そういうさりげない気遣いって嬉しいし、ほっこりします。

高橋さん:前のお店を辞めたときに「人間ってけっこう弱いな」と思ったんです。ポキっと心が折れて、その傷をどうやって直していったらいいのかなっていうときに救われたのが、本に出てくるような言葉だったんですよ。

 

――そのときの高橋さんに刺さる言葉と出会ったんですね。

高橋さん:実は箸袋にメッセージを入れていまして。「情熱は不可能を可能にする」とか「慌てなくていいよ。ゆっくり歩いていれば」とか。僕が言葉を考えて、絵はうちの娘に描いてもらっているんです。嫌なことがあってハッピーじゃないときがあるじゃないですか。でもうちのお店に入ったら温かくなって笑顔で帰っていただける、そのさわりとしてこの箸袋を置いているんです。心が和んでそれから食事に入れる、そんな店を作りたいなって。

 

 

――ご自身が経験したように、何気ない言葉に救われる人がいるといいなと。

高橋さん:小さいことなんですけど、そういうことの積み重ねだと思うんです。一回きりの食事で、思い出になれるような場を提供していくことが、おもてなしのいちばん大事なことなんじゃないかなと。

 

――長年通われているお客さんも多いでしょうね。

高橋さん︰うちには常連さんからお菓子の差し入れがあるんです。僕はその方たちの親戚でもないんですけど「赤ちゃんだった子が30歳になりました」とか「今度結婚するので相手の人を紹介します」とか、そういうようなことがあるのが嬉しくて。地域店というか、そんなそば屋でいたいなと思って11年やっています。

 

 

――おそばのことも教えてください。どんなへぎそばを提供されているんでしょう?

高橋さん:だいたい8対2ぐらいの比率で、そば粉に海藻のふのりをつないで打っています。そばはつなぎが多い方が打ちやすいんですけど、ふのりの量が多いと美味しく食べられない方もいるんですよ。そういう中で、十割そばや二八そばが好きなお客様も美味しく食べられるへぎそばを作りたいなと思って、この割合にしています。

 

――そば粉を自家栽培していると聞いたんですけど……。

高橋さん:全量ではなくて8割〜9割は、北海道の幌加内という、そばの一大産地で作られている「北早生そば」という品種を入れています。あとは佐渡にそば畑があるので、そこで自家栽培しています。はじめたのは2017年ですね。時期になると、定休日は毎週佐渡に行っています。

 

――すごい体力ですね。自家栽培に挑戦されたのは、興味があったから?

高橋さん:そうですね。そば屋をやっている以上は、土地があるんだったら自分でそば粉を作りたいなって。「トレーサビリティ」って言葉がありますけど、「このへぎそばは自分が種をまきました」って言えるといいですよね。それから佐渡には奥さんの実家があって、山を持っているんですよ。春になったら店で山菜の天ぷらを出すんですけど、それは自分の山で採れた山菜なんです。誰がどこで採ったものかが分かると、お客さんも安心するじゃないですか。

 

へぎそばのお店として、新潟の観光資源のひとつになりたい。

――10年以上お店を続けてこられて、その中で変化していった思いはありますか?

高橋さん:何年かやっているうちに、前のお店からの常連さんだけじゃなくて「粋や」自体の常連さんも増えて、県外のお客様もどんどん多くなっていったんです。風光明媚な立地にあるそば屋とは違って、ショッピングセンターの中にあるそば屋なんだけど、ここは観光地化しているんですよね。

 

――人気店ですし、地元の方だけじゃなくて観光の方も多いでしょうね。

高橋さん:新潟を代表する食べ物のひとつであるへぎそばをやっていますから、県外から来た方に「新潟県はいいところだな」と思ってもらえるようにしたいんです。そういう使命感を持って、大げさなことを言うと、新潟の観光資源のひとつになれるようなへぎそば屋を目指したい。もっと平たく言うと、そのお手伝いができるようなへぎそば屋になりたいと思っています。

 

 

 

越後へぎそば処 粋や

新潟市中央区上近江4丁目12-20 デッキー401 1F

TEL:025-282-7288

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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