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「地域商社」として、地元の有形・無形の魅力を発信する「いろむすび」。

地域全体を豊かに。山菜を軸に、田舎体験旅館や加工食品、直売所を展開。

突然ですが、みなさんは「地域商社」ってご存知ですか? その名の通り、地域の産品や魅力を商材として取り扱う会社のことで、近年、地方創生やU・I・Jターンなどの文脈で、その地域を元気にする有効な方策のひとつとして注目を集めつつあります。その地域ならではの資源を地域ブランドとして磨き上げ、内外に売り込むことで、自分たちだけでなく地域全体を豊かにしていく、そんな取り組みを志す地域商社が一昨年、県北の清流・荒川沿いの一地区に誕生しました。株式会社「いろむすび」さんです。地物の「山菜」を軸とする「田舎暮らし」や「かかさの手仕事」などの魅力を売りに、体験型旅館や食品加工場、直売所などを展開しています。以前は首都圏でバリバリのITエンジニアだった創業者の古林拓也さんに、創業までの経緯や立ち上げ前後の苦労、今後の展望などを伺いました。

 

いろむすび

古林 拓也 Takuya Furubayashi

1981年、京都府京田辺市生まれ。地元の同志社大学、同大学院で電子工学を修め、NTTコミュニケーションズに就職。エンジニアとして情報インフラの整備に携りつつも、30歳前後で社会起業を志すようになり、仕事や子育てと並行しながらグロービス経営大学院で学びMBAを取得。2018年に会社を退職して妻の地元・村上市荒川地区に家族4人で移住し、同地で地域商社「いろむすび」を創業。帰省体験型旅館「いろむすびの宿」、地物食材や加工品の直売所「いろむすび山菜屋」などを展開している。

 

首都圏で暮らしていたバリバリのITエンジニアが、夫人の地元で起業。

――本日はよろしくお願いします。こちらのゲストハウス、普通に集落の中にあるというか、一般住宅と見分けがつかないくらい溶け込んでいますね。少し迷いました(笑)。

古林さん:元々は親類が所有する空き家だったんです。いわゆる「田舎」を持たない方でも、まるでそこにある実家に帰ってきたかのように寛いでもらう「帰省体験」が宿のコンセプトのひとつなので、狙い通りかもしれません(笑)。実際、お客様の6-7割は首都圏から来られる方ですね。あとの2-3割は県都からの方、残り1割くらいは海外からのお客様にもご利用いただいています。

 

――古林さんご自身も、こちらのご出身ではないんですよね?

古林さん:ここは妻の地元ですね。ただ、私の地元も環境としてはそれほど変わらないかもしれません。私自身の出身地は京都の京田辺市というところで、大学院を出るまでそこで過ごしましたが、川があって、山があって、食べ物が美味しくて。

 

――経歴を伺いたいのですが、元は首都圏の大手IT企業でエンジニアだったんですよね?

古林さん:そうです。もともと数学や物理が好きで、大学、大学院では電子工学を専攻しました。研究室では半導体や有機ELなどの技術を世の中に応用する研究が花形テーマでした。そもそも社会に貢献すること自体に関心があって、学生時代は学業の他にボランティアで東南アジアなど海外へ行って当地のコミュニティの支援活動などをしていました。院を出て就職した東京の会社でも、ITエンジニアとして情報技術で社会インフラを支える仕事ができ、大きなやりがいを感じて働いていました。

 

MBAの課程でローカルビジネスの魅力と可能性、課題を実感。

――それがなぜ移住・創業することに?

古林さん:主な理由は…3つ、ですかね。まず1つは、会社員として自分の将来目標を見出しにくくなっていったことです。大きな組織の中の間接部門で役割を分担し物事を動かすためには、組織内の力学(パワーと影響力)を理解しながら、全体をリードしてゆかなければならない。社内の調整には、大変な時間と労力を費やすのですが、自分が本来目指していたこと、例えば人様の成長の背中を押したり、世の中貢献をするという直接的な手触り感に十年経ってもなかなかたどり着けなかった。役職を得ると、組織内での要請事項(MUST)に応えることが大きく膨らみ、自分自身の思いや志を成し遂げる(WANT)ということは次第に萎んでゆくものです。大きな会社でも思いを実現できないことはありませんが、大きなエネルギーを要しました。2つ目は、結婚して家庭を持ち、子どもができたことです。うちは共働きで、上の子が1歳になったら保育園に預けるつもりだったのですが、どこにも入れず、いわゆる待機児童になってしまいまして。それでやむなく認可外の保育施設に預けたのですが、狭いビルの一室で、外の遊び場などは望むこともできない。子供をこの環境で育てることに大変申し訳ない気持ちでした。妻がフルタイムで働き、そのお給料が保育費と家賃で全て消滅しました。妻は働くために子供を預け、子供を預けるために働いてお金を稼ぎ..一体自分たちは何のために働いているのだろうか..とよくわからなくなってしまいました。

 

――そうだったんですね。では3つ目は?

古林さん

2つ目とも関連しますが、東京への一極集中に対する問題意識が高まったことです。きっかけは、他でもない東日本大震災です。私もあの3月11日、帰宅難民となってしまい、仕事の関係もあって自宅に帰れたのは数日後でした。実体験として、それまで何の疑いもなく磐石だと思っていた社会システムの土台が、いかに脆弱なものだったのかをまざまざと実感しました。日本は一極に様々なものが集中しすぎています。場所に縛られず、もっと個々人が自由で独立的に活躍できる世の中であるべきだし、自分もそのロールモデルでありたいと次第に考えるようになりました。…これら3つのことがちょうど30歳前後に重なり、「今のままでは良くない。30代の残りの時間は、幸せな40歳を迎えるための準備期間にしよう」と決意したんです。

 

――それでビジネススクールに?

古林さん:そうです。それから3年間は、仕事と子育てと勉強、三足の草鞋を履く生活でした。またその間は、2人目の子どもの出産もありました。臨月の時は、上の子を寝かしつけた後に少し仮眠して大学院のレポートを書き、朝は仕事の電話会議をしてから子どもを送り、昼は妻の入院している病院に行って…なんていうスケジュールで動いていたこともありました。・・・美談みたいに言ってますが、家族には相当な負担をかけてしまっていました。その頃は父親として50点にもならない位の出来だったかもしれません。

 

――奥様の地元に移住して開業することになったのは?

古林さん:経営大学院では専門知識を活かして社会貢献するプロボノ活動もやっていたんですけど、それで地方へ赴く機会も多くて。活動しているうちに、地方の魅力と可能性、また逆に取り組むべき課題が見えてきたこともあり、修了後はローカルに関わる社会起業家としてやっていきたいと考えたんです。具体的に島根県のNPO法人からマッチングのお話もいただき、当初はそちらに一家で移住して就職するつもりでした。ただ、妻方の親戚で、現在は弊社で活躍してくれている女性に「せっかくなら島根でなくここで何かやらないか」という提案を受けまして。確かによくよく考えてみれば、すぐ身近なところに「空き家」、「山菜」、「田畑」などといった活用されずにいる地域資源がある。私としては「お題」を与えてもらったような感じがして、こちらに来ることにしました。

 

想定客は「かつての自分」? 冬空のような灰色の心を彩り豊かな春色に。

――現在、具体的にはどんな事業を?

古林さん:体験型旅館「いろむすびの宿」の運営、地物の山菜や野菜を素材にした加工食品の製造、またそれらを販売する直売所「いろむすび山菜屋」やネットショップの運営です。都市部で忙しく働いているような方が、うちに宿泊したりうちの食事を食べてもらったりすることで、心身本来のバランスやリズムを回復してもらいたい、というのが願いです。想定しているお客はズバリ、かつての自分、なのかもしれません(苦笑)。イメージとしては、冬のような灰色だったお客様の心が、弊社のサービスを利用することで彩り豊かな春に変わっていくような。「山菜」はメインの商材であると同時に、その心の春の到来の象徴でもあります。究極的な目標は、人としての尊厳を回復するお手伝いをしたい、ということですね。それは、都会で暮らしていたかつての私が見失っていたものでもあります。

 

――事業を進めるにあたっての苦労は?

古林さん:そうですね・・・たくさんありますが(笑)、うちは「かかさの手仕事」や「帰省体験」といった、本来は数値化・規格化できないものを最大の売りにしています。そういった無形の魅力を、マーケットに乗せるために数値化・規格化すると、本来の魅力が失われてしまいかねません。そのバランスをとるのに最も苦労しています。

 

――具体的には?

古林さん:例えば宿や直売所、通販で提供している山菜を中心とした加工食品は、「かかさ」=地元のお母さん方が各家庭で振るってきた腕を活かして作ってもらっていますが、これを流通に乗せるためには、原料や成分の表示シールを貼らなければいけません。でも、「かかさの手仕事」って基本目分量で、季節や天候によっても味が変わったりするんですよね。本人としては喜んでもらうつもりで多目に作ったりなどもある。かといって商品にするためにレシピ化して厳格に規格化することでお母さん方の持ち味を失ってしまったら、本末転倒なわけで。お母さん方を工業化したいわけではないので。お母さん方のいい意味でのおおらかさ、豪快さ、サービス精神みたいなものをしっかり魅力として活かしつつ、いかに商業ベースでも軌道に乗せることができるか、そこが、より高度な問題解決だと思って取り組んでいます。

 

――なるほど。

古林さん:値付けひとつをとっても、社内では様々な葛藤があります。例えば直売所のお弁当の値段を決める際に、原価を元にして所定の利益率と経営の持続性を確保する目線、お客様の体感価値を丁寧にヒアリングしブランド価値を毀損しないようにするための目線、周辺の同様事業者さんとの競合により過度の価格破壊とエリア内での消耗を回避するなど目線は重要ですが、お客様に値ごろで大きな満足感を得て頂きたいという目線とはせめぎ合いになります。お母さん方の”お客様へ安くてお腹一杯満足をして頂きたい”という思いを汲み取りながら、経営とブランドの持続性をどのように見出してゆくかについてはチャレンジでした。個人的には少し安売りをしすぎていて、地域の豊かな有形無形の資源価値が過小評価されていることを勿体無く感じていました。

 

山菜を媒介に、地域に良質で持続可能な仕組みや関係を築くこと。

――今後の展望をお聞かせください。

古林さん:具体的には自社製品のギフト開発や都市部の高級料理店への取扱促進に力を入れていこうと考えていますが、闇雲に規模を大きくしようとは思っていません。地域内で良質の事業を一事例作り上げ、地域にもっと経済的な還元ができればと考えています。地域の魅力で稼げるようになれば、その分自分たちや地域に対する自信や自負が生まれ、地域全体が元気になります。そうすれば物心両面でより持続的になる。その事例作りができれば。「山菜」はいわば、そのための舞台装置、媒介です。

 

――「山菜」を村上の「鮭」のような存在にしたい?

古林さん:うーん・・・考えたこともなかったですが、確かに、山菜をただ名産品のひとつにしたいわけではないです。それよりも、良質で持続可能な仕組みや関係をこの地域に築く媒介になればいいと思っています。そのためにも、お客様や従業員、地域の方々と顔の見える関係をさらに深めていきたいと思っています。

 

――本日はありがとうございました。

 

 

 

いろむすびの宿

〒959-3121 村上市佐々木808-23

TEL 0254-62-7147

 

いろむすび山菜屋

〒959-3132 村上市坂町2486-2

TEL 0254-62-7147

営業時間:水・木・金曜 11:00‐14:00

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