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岩室で、ゆっくりと流れる時間を楽しむ「一棟貸切りの宿 岩室久元」。

岩室温泉街で2013年にオープンした「灯りの食邸 KOKAJIYA」と、その隣に昨年オープンした「岩室とり蔦」。どちらも古民家を改装して建てられたお食事処です。この2店舗を手掛けた「株式会社リトモ」が、長年放置されていた空き家をリノベーションして、1日1組限定で宿泊できる1棟貸し切りの宿を今年の7月からはじめるんだとか。株式会社リトモ代表取締役の熊倉さんに「一棟貸切りの宿 岩室久元」について、いろいろとお話を聞いてきました。

 

 

岩室久元

熊倉 誠之助 Seinosuke Kumakura

1979年新潟市西区生まれ。株式会社リトモ代表取締役社長。2013年に岩室温泉街で「灯りの食邸 KOKAJIYA」をオープン。「KOKAJIYA」でオーナーシェフを務めるかたわら「岩室とり蔦」や「三条スパイス研究所」を運営。2022年7月に「一棟貸し切りの宿 岩室久元」をオープン。古民家や古道具が大好き。

 

放置されていた空き家に手を入れて、自分のやりたいことを形にしていくことに意味を感じる。

――熊倉さんには数年前、「灯りの食邸 KOKAJIYA」の取材でもお世話になりました。現在はどういったお仕事をされているんですか?

熊倉さん:「株式会社リトモ」という会社で、ここと「KOKAJIYA」と「岩室とり蔦」、「三条スパイス研究所」を経営しています。基本的には「KOKAJIYA」の厨房にいますね。

 

――これまで飲食店を経営されてきて、今度は宿泊施設をやろうと思ったのにはどんなきっかけがあったんでしょうか。

熊倉さん:ここは「KOKAJIYA」や「とり蔦」に来た人が食事をした後に泊まってもらうような流れをイメージして作った場所なんですけど、「オーベルジュみたいに宿泊施設の付いているレストランをやりたいな」とは以前から考えていたんです。1日1組限定で、特別なお客様に対してお料理だけじゃなくて空間や時間も提供したいなって。

 

 

――2店舗に続いて、こちらも空き家をリノベーションして建てられたそうですね。

熊倉さん:この辺、空き家がすごく多いんですよ。岩室でお店を展開する中で、自分の中で「空き家の利活用」っていうテーマも出てきて。そこに僕のやりたいことも重なったのと、ここは他の2店舗とも横並びで場所が良かったし、宿をはじめることになりました。

 

 

――町中ではなくて郊外で空き家を使ってお店をやる、やりがいってどんなところですか?

熊倉さん:「駅前とか町中に出店しませんか」っていう話もちょこちょこ来るんですけど、あんまり心が動くものがなかったんです。テナントが悪いわけじゃないですけどお家賃もそこそこしますし、「家賃がいくらで客単価がいくらで」って考えることはもちろん大事なことなので、今の店舗でもそういうことは考えているんですけど、そればっかりに追われるのはちょっと嫌だなと思っていて。

 

――それで郊外を選んでお店を出されているんですね。

熊倉さん:そうです。だけど郊外は郊外なりの問題があって、その中のひとつが「空き家問題」でした。近所の人たちは「この先この空き家はどうなるんだろう」って心配しながら、でもその気持ちに蓋をしながら生活をされていたんです。持ち主に親族がいなかったり引き取り手がいなかったりで、いつか崩れるか、あるいは行政が手を出すかっていう、行く末を見守っているようで見守っていないっていう状況がありました。

 

 

――ふむふむ。

熊倉さん:そこを僕たちが引き取って活用することで、「綺麗になってよかった」と言ってくださる近所のおばあちゃんもいて、「やった甲斐があったな」と思いましたね。町中の空きテナントに入るよりは、郊外で使われなくなってこのまま誰も手を出さなければ朽ちていくだけの空き家に手を入れて、自分のやりたいことを形にしていくっていうことに意味を感じるんですよね。

 

――そういう取り組みも含めて「KOKAJIYA」や「とり蔦」が好きで、足を運んでいるお客さんもいそうですね。

熊倉さん:「ここにはそういう背景があるんです」って話のネタにもなりますし、お客さんにただ料理を楽しんでもらうだけじゃなくて、「なぜこの料理は、お店は作られているんだろう」ってところまで感じてもらえると双方にとっていいことなのかなと思います。

 

芸妓置屋を改装して作られた、一棟貸し切りの宿。

――「空き家の背景」っていうところで、空き家になる前、ここはどういう場所だったんでしょうか。

熊倉さん:築70年の芸妓置屋でした。芸妓さんがお弟子さんと一緒に住みながら、踊りの練習もできるような場を「置屋」っていうんです。ここの屋号にもなっている久元姉さんという方が、お弟子さんと住んでいたみたいです。岩室は昔、新潟の奥座敷として栄えていて、今も元芸妓さんのおばあちゃんが近所に住んでいたりするんです。久元姉さんのことも知っていて話を聞かせてくれました。

 

――そういう歴史を知ると、建物への愛着が増しますね。何年くらい空き家として放置されていたんでしょうか?

熊倉さん:10年以上空き家でした。住んでいた方は身内がいないまま亡くなられて、引き取り手がいないっていう状態でした。

 

――そうだったんですね。今も芸妓置屋だった名残はあるんですか?

熊倉さん:柱や天井、壁もそのままで外から直したので、造りはほとんどそのままです。こういう造りって今時はあまりないんですよ。

 

岩室の町の「きっかけ」になりたい。

――熊倉さんは、宿泊される方に「岩室久元」をどんなふうに楽しんでほしいですか?

熊倉さん:とにかくゆったりしてほしいです。1棟貸しの宿って泊まったことありますか?

 

――ないですね……。

熊倉さん:僕もここをはじめる前に、県外にある1棟貸しの宿にはじめて泊まったんです。何もしなかったんですけど、誰の目も気にしなくていいので思っている以上にゆっくりできるんですよね。大きい旅館とかに行くと、他のお客さんに会ったり従業員の方に会ったり、意外と知らない人と会うことが多くて、それがストレスに感じることもあると思うんですよ。

 

――確かに。知らないうちに気を使っている気はします。

熊倉さん:ここでは何も気にせずに、本を読んだり、庭でお酒を飲んだり、お風呂に入って寝てっていう、とにかく自由にゆったりとした時間を過ごしてほしいです。

 

 

――最後に、熊倉さんの今後の目標を教えてもらえますか?

熊倉さん:この町の「きっかけ」になれたらいいですね。「せっかく店をやるのであれば、人が町を歩き回るようになってほしい」っていう思いが「KOKAJIYA」のオープン当初からありました。ここに泊まったのをきっかけにこの周辺を散歩して、歩き回ってもらいたいです。それとまだまだ空き家があるので、もっと活用していきたいです。ここの隣も向かいも空き家なんですよ。宿泊施設として2棟目、3棟目にしてもいいかなと思いますし、また飲食店をやるのも面白いかな。続けていったら、「私も岩室にお店を出したい」っていう人も現れるかもしれませんよね。

 

 

 

一棟貸切りの宿 岩室久元

新潟市西蒲区岩室温泉667-11

0256-78-8784

不定休

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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