細い道がいりくむ静かな越前浜集落。今は空き家も多い地域ですが、そこに移住し、工房を構えて作品づくりをしているガラス作家さんがいます。「izumi glass studio」の星名泉さん。星名さんが作るのは、電気炉を使って様々なガラスを溶かし融合させて、色鮮やかで透明感のあるガラス工芸の数々。今回はガラス作家としてのあれこれを詳しくお聞きしてきました。
izumi glass studio
星名 泉 Izumi Hoshina
1976年村上市生まれ。女子美術短期大学卒業後、東京ガラス工芸研究所でガラス工芸を学ぶ。2004年より「izumi glass studio」としてガラス作品の制作を始める。2006年に新潟市西蒲区の越前浜に移住する。制作した作品を個展などで発表する一方、ワークショップを通してものづくりの楽しさを伝えている。趣味は陶磁器を集めることで、骨董品店やリサイクルショップ巡りで掘り出し物を探している。
——今日はよろしくお願いします。いろんなガラス作品が並んでいますが、どんなふうに作っているんですか?
星名さん:私は大きく分けて3種類の技法を使ってガラス作品をつくっているんです。まず「フュージング」と呼ばれる技法。これは、数枚の板ガラスをカットして、粒状や棒状のガラスと組み合わせたり、電気炉の中で焼き付けて融合したりして、一体化した作品を作る技法のことです。次に「スランピング」技法。これは、お皿とか作るときによく使う技法です。型の上にガラスを乗せて電気炉に入れて、熱で溶かして型に沿わせた形を作るんですよ。似たような技法で「サギング」と呼ばれるものもあります。
——「サギング」というのは「スランピング」とは違うんですか?
星名さん:「サギング」はグラスや花器といった深さのあるものを作るときに使います。丸い穴の開いた型を作りたい作品に合わせた高さにセットして、その上にガラスを置いて電気炉で溶かします。溶けたガラスは丸い穴を落ちてゆっくり垂れ下がってきますから、底についたところで取り出すと、器の形になっているんです。
——なるほど。「サギング」っていうのは熱で溶けて垂れてくる力を使うんですね。
星名さん:はい。でも「サギング」はけっこう難しいんですよ。ガラスの厚みや色や温度で、ガラスの溶け方が違ってくるんです。1個や2個を作るときは失敗しないんですが、まとめて10個くらい焼くと失敗するものも出てきちゃいますね。溶けやすいときは高さを高めにセットして、溶けにくいときは低めにセットして調節しています。使う電気炉によってもガラスの溶け方が違ってくるので、ガラス作家同士で情報交換しても自分の電気炉に当てはまるとは限らないんですよね。
——ちょうどいいところで止めないと、底の形が綺麗にならないんですね。星名さんがガラス作品をつくるときにこだわっていることってありますか?
星名さん:私が使っている板ガラスは「ブルズアイ」というアメリカのメーカー製品で、ガラスの色や光の美しさが魅力なので、その美しさを生かせる作品をつくるようにしています。ガラスの組み合わせを考えて、デザインしているときが一番楽しいですね。
——ガラス工芸の勉強は美術短大でされたんですか?
星名さん:最初は陶芸の勉強をしようと思って入学したんですけど、お目当ての先生がやめてしまっていたので、陶芸科には入らず木工科で木工の勉強をしてました。その後で、ひょんなことから見学に行った「東京ガラス工芸研究所」でガラス工芸と出会って、入学して1年間勉強したんです。語学留学がてらオーストラリアにガラス職人を訪ねて行ったこともあります。でも、日本でもオーストラリアでもガラス工芸の技法って、当時は吹きガラスが主流だったんですよ。
——吹きガラスの技法だと問題があるんでしょうか?
星名さん:吹きガラスの工房っていうのは、スタッフが何人かいて、ガラスを溶かすための大きな窯が必要なんです。私は一人でやりたかったし、大きな設備も用意できないと思ってました。おまけに吹きガラスは修行期間も長くかかるんですけど、私はすぐにでも製作を始めたかったんですよ(笑)。それに吹きガラスってスピード勝負のスポーツみたいな作業なので、マイペースな私には合わないと思ったんです。
——それでフュージングの技法で製作しているんですね。それはどこで覚えたんですか?
星名さん:オーストラリアのガラス作家が、フュージングの技法を紹介するために福井県でワークショップを開くことを知ってワークショップに参加したんです。まだ日本ではやっている作家もほとんどいなくて、馴染みがない技法だったんですよ。それを見て「これだ!」って思いましたね。私が求めていた条件をすべて満たすガラス工芸の技法だったんです。
——運命的な出会いがあったんですね。それからすぐに始めたんですか?
星名さん:実家のある村上に帰って、すぐ電気炉の準備をしました。ガラス工芸を学んだ「東京ガラス工芸研究所」では、自分で電気炉を作る講習を受けていて、そのときに電気炉の材料も買ってあったんですよ(笑)。父の知り合いに電気屋さんがいるので、お願いして作ってもらいました。電気屋さんも電気炉は初めて作るということで、案外楽しみながら作って下さいました。
——越前浜にはいつ頃から住み始めたんですか?
星名さん:最初は村上の実家にある車庫を工房にして制作してたんです。30歳の頃にそろそろ他に工房を持とうと思って探し始めました。安くて広くて周りを気にしないで作業できる場所が希望でした。そんなときに、知り合いから越前浜で植物染めをしている「橙鼠(だいだいねずみ)」という工房の星名さんという人を紹介してもらって、星名さんから越前浜の物件を紹介してもらったんです。ちなみに、その星名さんが現在の夫です(笑)
——同じ苗字なのでまさかと思ったんだけど、やっぱりそうだったんですか(笑)。越前浜ってどんな所ですか?
星名さん:はじめは工房だけの予定だったのに、あまりにこの場所を気に入ってしまって、住まいも一緒に探してもらったんです。それで平成18年に移り住むことになりました。引っ越してきたばかりの頃は他の土地で生活するよりも時間がゆっくり流れているように感じました。山も海も近く自然もたくさんあるので、この環境で子育てできたことは良かったと思っています。
——確かに静かでいい環境ですよね。人間関係はどうでしょうか?
星名さん:うちの夫婦の他にも越前浜で暮らす作家さんがいるんです。みんな自宅兼工房で作業をしていて、地元の人達からすれば何をしている者なのかよくわからなくて怪しまれてるんじゃないかと思ってたんですよ(笑)。そこで、自分たちの工房を開放して地元の人たちに、どんな作品を作っていて、どんな活動をしているのか見てもらおうということで「春の浜展」というイベントを始めたんです。それが後に「浜メグリ」という名のイベントとして続いているんです。
——そのイベントは聞いたことがあります。どんなイベントなんですか?
星名さん:お客さんが開放された出展者の自宅を見て回って、地元以外の人達にも角田地区の魅力を知ってもらいたいというイベントです。10年以上続くコミュニティ協議会主催のイベントになったんです。
——今後はどんな活動をしていきたいですか?
星名さん:子どもが生まれてから小学校低学年くらいまでは、育児や生活に追われて制作活動がなかなかできない状況だったんです。私も夫も互いに時間がほしいので、時間の取り合いをしていました(笑)。今は子どもも大きくなって手がかからなくなってきたので、作家としての目標を立て直して、制作活動を再スタートするような気持ちです。大切なのはこれからの活動ですね。
越前浜の静かな環境の中で、植物染め職人の旦那さんと暮らしながらガラス工芸の制作にいそしむ星名さん。ガラスの鮮やかな色を生かした作品は、透明感や曲線の美しさが魅力です。子育てがひと段落して制作の時間ができた今、作家としての方向性を見直し、再スタートしたいと語ってくれました。そんな星名さんの今後の活動がとっても楽しみです。
izumi glass studio
〒953-0012 新潟県新潟市西区越前浜5408-1
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