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いろんな魚の生ハムや酒盗を作っている町の魚屋さん「海鮮寺山」。

スーパーに押されて消えていく小さな魚屋さんたち。

日本人の食生活になにかと欠かせない魚、みなさんはどこで買っていますか? 大きなショッピングモールやスーパーにおされて、小さな魚屋さんは代替わりができずにお店を畳むしかない、そんなさびしい昨今の魚屋さん事情。でもその中で、いろいろな魚を使った酒盗や生ハムなど、変わった加工品を製造販売している「海鮮寺山」という魚屋さんを見つけました。今回は店主の浅野さんに、ちょっと変わった品揃えについてお話を聞いてきました。

 

 

海鮮寺山

浅野 潔 Kiyoshi Asano

新発田市生まれ。様々な職業を経験した後、魚市場で魚の仲買に勤める。1997年に海鮮寺山をオープン。ヒラメの酒盗に始まり、フィッシュ生ハム、カラスミ風魚卵シリーズなどを製造販売している。嫌いな食べ物が多く、レバー、塩辛、辛いものが苦手。

 

小さな魚屋はもう絶滅危惧種?

——今日はよろしくお願いします。浅野さんはお店を始めてどのくらい経つんですか?

浅野さん:もう22年くらい経つかな。創業した時は真向かいのコンビニが建ってるところにスーパーがあったんさ。当時、魚はうちで買って他のものをスーパーで買うっていうお客さんが多かったんだよ。個人営業の小さな魚屋でもやっていけたんだよね。でも、だんだんお客さんが減っていったんさねぇ。

 

——それは時代の流れなんでしょうか?

浅野さん:スーパーや大型ストアがどんどんできた上に常連だった高齢のお客さんも、どんどんいなくなっちゃうし…。若い人達はこういう小さな魚屋では買い物しないしねぇ。この周辺にあった魚屋なんてほとんど閉めちゃって、残ってるのなんてうちくらいじゃないかな?魚屋はもう絶滅危惧種だね。

 

——絶滅危惧種ですか…。でも20年以上もがんばってられるんですよね。

浅野さん:本当は刺身とか焼き魚とかだけ売ってたいんだけど、それだけでは厳しいから何か他の商品を売らなければと思って、酒盗やフィシュ生ハム、燻製なんかの加工品を作って売り始めたんだよ。まあ、暇だったからっていうのもあるんだけどね(笑)

 

塩辛を作っているけど、じつは塩辛が苦手?

——いろんな魚の加工品がありますよね。最初は何を作ったんですか?

浅野さん:15年くらい前に塩辛や酒盗を作ったのが最初。塩辛はともかく、「酒盗」っていうのは新潟ではあまり馴染みのない食べ物なんだよね。四国や九州では一般的なんだけどさ。当時はうちの店にも板前さんが何人も買い物に来てたから、酒盗の作り方を聞いてみるんだけど誰も知らないんだよ(笑)

 

——そもそも酒盗っていうのはどういうものなんでしょうか?

浅野さん:本来はカツオやマグロの内臓と塩で作る塩辛のことを酒盗と呼ぶんだよね。うちの店ではもっといろんな魚を使っているから、魚の内臓と塩で作ったものはみんな酒盗として売ってる。イカとか南蛮エビみたいに身も入ったものは塩辛として売ってるんだよ。

 

——いろんな魚というと、どんなものを使っているんですか?

浅野さん:一般的な酒盗の材料になっているカツオやマグロはもちろん、ヒラメ、タイも使ってる。だいたいどんな魚でも作れるんだけど、タイで酒盗を作るのは難しいね。

 

——どうしてタイの酒盗は作るのが難しいんですか?

浅野さん:酒盗っていうのは魚の内臓で作るでしょ?タイっていうのは餌の食い方が派手なんだよね。貝とか食べる時も殻ごといっちゃうからね。内臓の中も貝殻とかで大変なことになってるので、そういうものは使えないんだよ。

 

——なるほど。そんな問題もあるんですね。他に酒盗作りで苦労する部分っていうのはあるんでしょうか?

浅野さん:じつは私は塩辛の生臭さが苦手で食べられないんさ(笑)。だから、最初の頃はお客さんに味見してもらってたの。でも、最近は塩の濃度だけ間違わなければ、後は匂いと色だけでわかるようになったよ。

 

失敗したことも後で役に立つ「無用の用」。

——他にお店の商品で人気があるものってどれなんですか?

浅野さん:作り始めたときからずっと売れ続けているロングセラー商品は「フィッシュ生ハム」だね。魚を使って作る生ハムね。魚をキッチンペーパーに包んでから真空機にかけて、1週間経ったらキッチンペーパーを取り替える。それを数回繰り返して、ゆっくり魚の水分を抜いていくんだよ。この作業は魚の状態によって1ヶ月〜2ヶ月くらいかかるかな。時期とか産地で魚の脂の乗り方が違うからね。魚がいい感じの固さになったところでスモークして軽く香り付けするんだよ。

 

——魚は季節によって変わったりするんですか?

浅野さん:ブリは固定だけど、桜マスがサケになったり、スズキがタイになったりはするよ。カツオ、マグロ、ホシザメが入ることもあるし。イワシとかの小さい魚は、1匹から取れる身が少ないから作るのが面倒なんだよね。お客さんに勧めると、90パーセント以上は興味を示して買っていってくれるね。とくに酒の肴を探してる人にはオススメ。

 

 

——他に人気商品ってあるんでしょうか?

浅野さん:だし醤油シリーズの中の「焼きあご醤油」は人気があるかな。魚の焼き干しを漬けてだしを取った醤油で、今までにも、アジ、サバ、イワシ、ヒラメ、タイ、カワハギといろんな魚を使って何種類も作ったんだよね。中には使った魚が醤油に合わなくて失敗したこともあったけどね。

 

——けっこういっぱい失敗したんでしょうか?

浅野さん:いっぱいあったね(笑)。でも「無用の用」ってことわざもあるように、そのときは失敗したことでも、後で別なものを作るときに役立つことがあるんだよね。10やったうちの1しか成功しなくても、失敗した9が後々生きてくるんだよ。

 

魚にとって産卵は1年のうちの一大イベント?

——これから美味しくなる、浅野さんオススメの魚ってありますか?

浅野さん:日本海ではこれからマダラが美味しくなってなって来るね。2月の初めに産卵期を迎えるから、その前の時期に栄養を蓄えてるんだよ。この時期のマダラっていうのは、オスの白子は生でも食べられるし肝も大きいんさ。産卵って魚にとっては1年の内の一大イベントだから、それに合わせて生活してるんだよね。だから、産卵が済むと、いっぺんに痩せて来るんだ。

 

——魚のラベルやパッケージには「◯◯産」とか表示されてることがありますよね。「海鮮寺山」では産地にはこだわってるんですか?

浅野さん:私は産地にこだわるのは無駄だと思ってるんだよ。産地がよくたって、魚のコンディションが悪いことだったあるんだし。それよりも旬の時期にこだわった方がいいんじゃないかな。産卵前後ではコンディションが全く違ってるからね。

 

 

本来は魚をさばいた時に捨てていた内臓で作った酒盗をはじめ、魚の焼き干しを漬けて作っただし醤油など、様々なアイデアで勝負している浅野さん。中でも人気のある「フィッシュ生ハム」は、少ししょっぱめの味付けでお酒のつまみにもぴったり。取材中にも買い物のお客さんが訪れ、浅野さんがその日のオススメなどをアドバイスをしながら接客していました。その様子を見て、改めて小さなお店の魅力を再確認できた気がしました。みなさんも、小さな魚屋さんを覗いてみてはいかがでしょうか?

 

 

海鮮寺山

〒950-0892 新潟県新潟市寺山1-1-7

025-272-5141

営業時間 9:00-19:00

不定休

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