巻の郷土玩具から生まれた鯛車焼。「鯛車焼一成」ができるまで。

新しいカタチに進化。巻町の郷土玩具・鯛車を食べてみよう。

厄除けや安産のお守り「赤べこ」、子どもの魔除け「犬張子」…その土地ならではの素材やモチーフに、さまざまな願いが込められた郷土玩具。新潟市西蒲区(旧巻町)でお盆になると幻想的な光を放つ「鯛車」もそのひとつ。この「鯛車」をモチーフに、幅広い年代に愛されるたい焼き「鯛車焼」を提供しているお店があります。その名も「鯛車焼一成(たいぐるまやきいっせい)」。今回は店主である田畑さんに、鯛車の歴史や、鯛車焼をはじめたキッカケを聞いてきました。

 

鯛車焼一成

田畑一成 Issei Tahata

1982年新潟生まれ。高校卒業後、建築会社へ就職。地元巻町の郷土玩具・鯛車を題材とした「鯛車焼」を2009年より販売。最近の趣味は古着。ビンテージブーツを磨いている時間が幸せなんだとか。

 

郷土玩具・鯛車について知る。歴史とアレコレ。

灯りをともすと赤い幻想的な光を放つ「鯛車」。竹と和紙で原型を作り、ロウでうろこを書いたシンプルな玩具です。その歴史は古く、旧巻町では江戸末期からお盆になると子どもたちが鯛車を引く姿が見られたそうです。鯛車ができた理由には諸説あり、お盆時期だけに見られていたことから、先祖を迎えるための仏事が発祥ともいわれています。制作と販売を行っていたのは、当時の造花屋と籠屋。しかし昭和30年代を境に、この夏の風物詩は時代の変化とともに自然と姿を消していったそうです。その後時代を経て市民の有志が集まり、鯛車のワークショップをはじめとした活動を行う「鯛車復活プロジェクト」が2004年に発足。最近は旧巻町の商店街でも、シンボルとして目にする機会が増えました。

 

鯛車との出会い。鯛だからたい焼きでもあったらいいんじゃないのか。

――田畑さんは、昔から「鯛車」に慣れ親しんでいたんですか?

田畑さん:いえ、60代の人たちですら見たことがなかったらしく、「鯛車焼一成」をはじめる前までは存在すら知りませんでした。一度、完全に途絶えてしまった文化なので…。

 

――では「鯛車」の存在を知ったのは…?

田畑さん:同じ商店街(まき鯛車商店街)に、両親が営んでいた喫茶店があります。それである時から店を手伝っていたんですよね。その頃、野口君という当時「鯛車復活プロジェクト」を立ち上げたばかりの地元の先輩や、鯛車を復活させようという地元の有志、商店街の方々が会合の場所として店に集い、繋がったんです。それで、はじめて鯛車の存在を知りました。

 

 

――その喫茶店で会合が開かれていなければ、もしかしたら「鯛車」を知らないままだったかもしれませんね。偶然というか、運命というか。

田畑さん:そうなんですよね。ただ、自分は「鯛車復活プロジェクト」に参加はしていなかったんです。イベントでかき氷屋を出店したりちょっとだけ手伝ってはいましたけど、外販とかはしたことなかったので。楽しかった思い出はありますね。

 

――では「鯛車焼一成」をはじめたのは別のキッカケが何かあったんでしょうか。

田畑さん:「鯛車復活プロジェクト」って鯛車を多くの人に知ってもらうために立ち上がったプロジェクトだったんですが、そもそも鯛車を購入できる場所が商店街になかったんです。イベントでは鯛車を引いたり作ったりがメインだし。それで喫茶店では「鯛車を目的に、常に人が来るためには、どうしたらいいんだ?…鯛だから“たい焼き”でもあったら商店街も元気になるんじゃないか?」という会話が毎度繰り返されていたんです。鯛車は買えないけど、鯛車の何かがあれば…そんな会話ですよね。いつもたい焼き話を聞いていて、かき氷屋さんとか楽しかったし、自分がたい焼き屋でもしてみようかなって。なんとなく思ったんですよね。

 

薄皮でサクサクの食感。作り置きせずにいつも焼きたてを提供。

――お店をはじめるにあたって、どんなことが大変でしたか?

田畑さん:正直、あれもこれも初挑戦だったのですべてが大変でしたね。お店をはじめるにあたっての準備もそうですが、それまではたい焼きを焼いたことすらなかったので。それと周りから「たい焼きで商売が成り立つのか?」と、現実的なことも言われプレッシャーでした。

 

――たい焼きは、どうやって焼けるようになったんですか?

田畑さん:まずは、たい焼きに詳しい人を探しました(笑)。たまたま母の知り合いを辿っていったら経験者の方がいたんです。材料や焼き方を教えてもらい、とにかく焼いて、誰かに食べてもらってを繰り返して、毎日の試作を続けました。

 

――とにかく焼いて練習したんですね。ちなみに鯛車の型はどうやってできたんですか?

田畑さん:「鯛車復活プロジェクト」に参加している、シルバーアクセサリー屋さんがいたんです。その方に石膏で鯛車の型を作ってもらって、焼き型を作る会社に依頼しました。台車部分のタイヤをしっかり見えるようにしたり、“巻”の文字にこだわったり。ただ、未経験での挑戦だったので、生地の流れを考えてなくて…結果、尻尾の部分に生地が流れなくて(笑)焼くときには微調整が必要になってしまったんですよね。

 

 

――メニューについて教えてください。どんなラインナップですか?

田畑さん:北海道産小豆100%で甘さ控えめな「小倉あん」、豆乳をベースにした「クリーム」、カカオの風味が豊かな濃厚「ショコラ」の3種類が基本となります。その他には、季節限定で4月から「宇治抹茶あん」、9月から「栗あん」、11月から「さつまいもあん」が出ます。SNSの告知限定で、たまに鯛車のクレープなども販売しているのでチェックしてみてください。

 

――子どもも喜びそうなラインナップですね。生地のサクサク感、どんな秘密がありますか?

田畑さん:生地の中身は企業秘密です(笑)。薄皮でサクサク食感を楽しんでもらえるよう、作り置きせずになるべく焼きたてを提供するようにしています。だから予約を受けていないんですよね。ぜひ、熱々のサクサクを食べてください。

 

商店街の子どもたちにとっての「たい焼き」は「鯛車焼」。

鯛だからたい焼き…そんな何気ない会話からはじまった、鯛車のモチーフにした「鯛車焼」は今年で10年。「自分が小学生の頃は、商店街にたくさんのお店があって楽しくてしょうがなかった。だから時代の流れでお店が次々に閉店する様を目にするのは寂しい気持ちがあったけれど、最近では鯛車焼を目的にこの商店街に来てくれる人が増えて嬉しい」と田畑さん。私たちの知る“たい焼き”は鯛のかたち。でもこの商店街で育った子どもたちの知る“たい焼き”は鯛車のかたち。焼きたてサクサクで美味しい、新しいかたちです。皆さんも巻までちょっと足を伸ばして、ハフハフしながら食べてみませんか?

 

 

鯛車焼一成

新潟県新潟市西蒲区巻甲2925-9

0256-72-1990


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