県内外を問わず、多くの本好きから長年親しまれ続けている「北書店」。昨年8月、12年間営業を続けてきた市役所前の店舗を閉店し、同年12月に下大川前通で新しい店舗での営業をはじめました。店主の佐藤さんに今回の移転のことや、これからのことなどいろいろなお話を聞いてきました。
北書店
佐藤 雄一 Yuichi Sato
1973年上越市生まれ。古町で190年続いた書店「北光社」で14年間働き、2010年の閉店時には店長を務めていた。同年、市役所前で「北書店」をはじめる。2022年8月に閉店し、12月に下大川前通へ店舗を移し再オープン。
――昨年8月、「北書店」閉店のニュースに驚いた人も多かったと思います。まず、12年続けてこられた店舗を閉店して、こちらへ移転された経緯を伺ってもいいですか?
佐藤さん:昨年の3月に脳出血で倒れて、4カ月入院してさ。お店がそれなりの広さだったから、入院している間にも経費がいろいろかかっちゃってね。それに左半身が麻痺してしまって、今後の人生にも麻痺が残るっていうことになって。
――本当に突然の出来事だったんですね。
佐藤さん:そういういろんな面で、40坪ある広さの店舗を回していくのは無理だなと思って、入院中から閉店するつもりで準備を進めていてね。次の店をやるっていうのは明確に決めていたわけではないんだけど、まあ小さい規模で再起できればいいなと思ってね。
――佐藤さんは「北書店」をはじめる前も本屋さんで働かれていたんですよね。
佐藤さん:若い人は知らないかもしれないけど、「北光社」っていう江戸時代から続く本屋があってね。古町が栄えていた頃をよく知る世代にとっては、古町にあって当たり前の存在っていうかさ。それが2010年1月に、創業190年目にして閉店しちゃったんだ。僕はそこの最後の店長だったんだよね。
――じゃあ「北書店」っていう名前は「北光社」を受け継ぐ意味合いもあって?
佐藤さん:そうそう。この店の棚のほとんどは「北光社」にあったものでね。店を閉めたらあとはスクラップになるだけだったから、14年間親しんできた本棚とか什器がゴミになっちゃうんだったら、僕がもらおうと思ってさ。それがなかったら本屋なんてやれていないよ。小さいながらも自分でお店を構えたいと思ったら、本棚だけでもかなりのお金がかかるから。それをタダで譲ってもらえるなら、できるかなって思ったんだよね。
――そこから「北書店」がはじまるわけですね。となると、佐藤さんの本屋さん歴ってすごく長いですよね。
佐藤さん:「北光社」には14年いて「北書店」で12年。だから本屋歴は26年っていうことになるね。今年で50歳だけど、人生の半分以上は本屋をやっているわけだ。
――本屋さんには厳しい時代だと聞きますが、12年間「北書店」を続けられてきたモチベーションみたいなものってあるんですか?
佐藤さん:モチベーションどうこうよりも、「本屋をやめて他に何するの」っていうのが大きいよ(笑)。今更シェフになれるわけでもないしね。確かに「北書店」を開店した2010年は「電子書籍元年」なんて言われていたけどね。それだけ「紙の本なんて」っていう動きが強くてさ。でも「本屋なんてだめだ」って言われながらも、小さい店なりにやってきた12年間だったから。
――お店を続けていく上で不安な気持ちとかはなかったんですか?
佐藤さん:俺はわりとのんきなんだよ。「本を信頼している純粋な店主さん」とかじゃないし(笑)。焼き鳥屋が鶏肉を仕入れて焼き鳥を売るのと一緒で、本屋が本を仕入れて売るっていう日常があるだけだから。それに単純に「本は面白いな」っていう気持ちはずっと変わらずにあってさ。
――「本を売る」っていうことは、それだけ佐藤さんにとって当たり前のことなんですね。
佐藤さん:だから「電子書籍が主流になる」って言われても、自分がいいなって思う本を仕入れていい感じに並べておけば目の前で売れていくし、何にも問題ないじゃんって思っちゃう。その売れる量が減ったから「北光社」を閉店せざるを得なかったっていうのは事実だけど、自分の実感として手応えはずっとあったんだよね。そういう繰り返しでやれることはやってきて、やっぱり潰してしまうのはもったいないなって思ったんだよね。
――佐藤さんがお店の本棚作りで大切にされていることとか、意識されていることってありますか?
佐藤さん:うーん、特にね……。
――(笑)。でも常連のお客さんたちは、佐藤さんの作る本棚が好きだから「北書店」へ足を運ぶわけですよね。
佐藤さん:どうなんだろうね(笑)。まあ僕が置きたい本とか、好きな本っていうのは当然あるだろうね。じゃあなんで自分がその本を好きなのかっていうと、そもそもうちに来るお客さんが好きで買うような本だったりするんだよ。単純に「商売として売れる本」っていう本はあるよ。ただ、売れるから置くとか、売れないから置かないっていう論理でやっていたらデータだけの世界になっちゃうし、そういう方法論以外のこともできるのが本屋でさ。
――例えばどういうことですか?
佐藤さん:一般的には「ベストセラー」っていう物差しにはまるっきり被らないような本でも、置いておくと誰かに響いてうっかり売れるっていうことがあるんだよね。同じ本でも人によって受け取り方は違うから。ここに来るようなお客さんからしたら、世間で売れている本っていうのは逆に新鮮かもしれないしね。それは難しいし、説明しようがないし、でもそれが面白いのかなとも思う。
――この場所で営業をはじめられたことで、前の店舗とは変わることって何かあるんでしょうか。
佐藤さん:今、気持ちとしては春に向けてお店を作っている最中っていう感じなんだけどね。これからは県外からのお客さんが増えるんじゃないかと思っていて。これまでも取材を受ける機会が多かったこともあって、本が好きで本屋さんの情報を追いかけている人からしたら「新潟といえば北書店」って、名前が知られるようになったんだよね。それから県外の人もちらほら来るようになってね。
――面白そうな新潟の本もたくさん揃っていますしね。
佐藤さん:あとは若い人がちょっと増えるんじゃないかなって思う。前の店は若い人が少なかったんだよね。なぜかというと「北書店」は「北光社」の名残を継いでいるところがあって、「北光社」が好きだった上の世代のお客さんが来ることが多かったから。今の20代の人たちはそういう見方で「北書店」を見ている層ではないじゃない。でもそういう人たちの目に触れる機会は今の方が増えてきていてさ。そうなると品揃えは変わっていくだろうね。
――噂によると、「北書店」の本を出す予定だそうですね。
佐藤さん:『北書店の本棚』ね。もうちょっとで完成なんだけど、書かなきゃいけないことが多くて、年末に出すつもりがまだできなくね。開店と同時期に本を作るなんて無理だったなと(笑)
――本は「北書店」のこれまでの歴史をまとめたものになるんでしょうか。
佐藤さん:そうですね。12年やってきてあっさり閉店して、さっさと次の場所でオープンしちゃって。起きたことが過去のこととしてどんどん流れていくけど、それなりの12年間があったわけだし。それに僕の周りには、「北書店」の記録を取りまとめておこうとする人がわりといたんだよね。「これをまとめない手はないんじゃないか」っていう声が上がってさ。
――お店のファンの方たちからの声がきっかけだったんですね。
佐藤さん:だからオープンした2010年からの出来事を年表でまとめて、写真にキャプションを書いてっていう作業をやっているんだけど、全然終わらない(笑)。毎週イベントをやっていたような時期の、僕も覚えていなかったようなときの写真とかも残っていたから、それを見ていちいち当時を振り返って書こうとすると大変でね。
――12年分の出来事を振り返るとなると、きっとかなりの時間がかかりますよね。
佐藤さん:でも面白くてさ。見ているこっちが疲れるくらい、いろんなことを精力的にやりまくっていたから。だからそれなりに読み応えがあるものになったらいいんだけどね。本ができたら買ってくださいよ(笑)
――必ず買いますよ!
北書店
新潟市中央区下大川前通4ノ町2230 エスカイア大川前プラザ1F
11:00-20:00
月曜定休