新潟市中央区にある「キッチンテーブル」は、お腹がペコペコなときにぜひ行って欲しいお店です。私は少し前までの近所に住んでいたので、「美味しいご飯でお腹を満たしたい」と思ったら、こちらのお店によく出向いたものでした。気軽に声をかけてくれるオーナーの大泉さんは、今年で75歳。調理全般は80歳になる奥さまが担当しているのだそうです。お店のこだわりやこれからのことなど、いろいろとお話を伺ってきました。
キッチンテーブル
大泉 安夫 Yasuo Oizumi
1945年新潟市秋葉区(旧新津市)生まれ。高校卒業後、「音楽之友社」にて30年間勤務。1994年に脱サラし「キッチンテーブル 」をオープン。21歳のときにはじめた釣りが趣味。特に黒鯛釣りが好き。
——今日はよろしくお願いします。「キッチンテーブル」はいつからやっていらっしゃるんですか?
大泉さん:脱サラして、1994年にはじめたお店です。それまでは「音楽之友社」という出版社に勤めていて、商品管理部の部長だったんですよ。まだまだコンピュータ化がされていない時代だったから、いろんなアイディアを出して、会社の仕組みを変えようと一生懸命でした。在庫管理のシステム化を実現したこともあったし、会社でけっこう活躍していたんですよ(笑)
——それがごはん屋さんをやろうと思ったのはどうしてですか?
大泉さん:30年間サラリーマンとして働いてきましたが、自分の容量がオーバーしちゃったんでしょうね。あるときしんどくなって、自分でも「ちょっとおかしいなぁ」と悩むようになったんです。そんなときに、弟から「新潟で飲食店をやらないか」と誘われて。当時は、仕事を変えられるんだったら、なんでもよかったんですね(笑)。料理の修行などまったくせずに、このお店をはじめたんです。肉の切り方が分からないから、問屋さんに「脱サラして飲食業をはじめるので、なんとか捌き方を教えて欲しい」と現金を持って頼み行ったこともありました。
——もともと料理の道に興味があったんですか?
大泉さん:いや、この仕事をしようなんて一切考えたことはなかったですね。でも、黒鯛釣りを趣味にしていたから「ごはん屋だったら、釣りの経験が生かせるだろうしいいかもなぁ」とは思いました。僕は21歳からずっと釣りをやっていて、釣った魚を寿司屋にあげていたこともあるくらい本格的な釣り師なんですよ。
——へ〜、ということは、お刺身なんかは大泉さんの釣果ですか?
大泉さん:僕が釣った魚もあれば、釣り仲間やお客さんが持って来てくれる魚もあります。もちろん買ってくるものもありますけどね。釣った魚は、船の上で血抜きをするから臭みがなくて美味しいですよ。ヒラマサやカンパチはもう格別。
——今も現役の釣り師とは感服しました。お店は大泉さんのお子さんが回していらっしゃるのでしょうか?
大泉さん:いやいや、今も僕と女房でやっていますよ。僕は75歳で、年上の女房は今年80歳。
——それは失礼しました……。厨房はどなたが担当されているんですか?
大泉さん:魚と肉を捌くのは僕の役目。それ以外は、全部女房がやっています。女房は昔から料理がとても上手で、釣り仲間が我が家に集まったときなんか、ササっと何品か作ってくれて、とても評判だったんです。だから、この店をはじめるとなったときは「よし、昼は日替わり定食をやろう」とすぐ決めたんです。女房に「お前の手料理、なんでもいいから出してくれ」と頼みました。
——今日の定食は、アジの刺身にご飯、豚汁、小鉢、お豆腐にお漬物でしたね。大盛りご飯をペロリといただきました。お刺身は柔らかくて美味しかったし、小鉢の切昆布はご飯のお供に最高でした。
大泉さん:そうでしょう。この定食はずっと750円でやっているんですよ。消費税が5%の頃から値上げしていません。さすがに今年の10月からは金額を見直しさせてもらおうと思っていますけど、ずっとこの値段でやってきたから、店の外の看板にも「定食750円」って書いてしまっているんです(笑)。趣味で釣った魚を出せるから、この値段で提供できるんですよ。お客さんが「今日の定食は、他の店だったら1,200円ですね」って言ってくれることもあるくらいの品揃えと質ですよ。
——夜のメニューは、焼肉にお好み焼き、一品料理にスープも充実しているし、美味しそうなメニューがいろいろありますよね。特におすすめのメニューは何ですか?
大泉さん:僕が食べて美味しいと思うメニューしかないから、何を食べても喜んでもらえると思いますけど、やっぱりお肉でしょうかね。特別に卸してもらうA5ランクの肉を使っています。タンとハラミは、冷凍せずに真空パックで熟成させておくから、味が全然違いますよ。この値段でこれだけの肉が食べられるお店は他にないと思っています。肉を食べるんだったら、どうしたってウチで食べるのがお得です!
——コスパがよく美味しいものが揃っているお店、ということですね。そもそもどんなコンセプトのお店にしようと思っていたんですか?
大泉さん:この商売を始めた頃は、飲食業の経験がないまったくの素人だったから、他の店と同じ値段だとしても、より質の高いものを出そうと考えました。その分、利幅は少なくなりますけど、薄利多売というかたちでやって行こうと。
——その結果はどうだったんでしょう?
大泉さん:こんなに小さなお店ですけど、アルバイトを3人も雇っていたこともあるくらい大忙しでしたね。夜に23組もお客さんが来て、店の外に大行列ができたこともありました。
——厨房もさぞかし忙しかったでしょうねぇ。奥様すごいなぁ。
大泉さん:この店は女房が大事なの。女房が怪我をしたとき、他の人に頼んだことがあるんだけど、同じ食材、同じ作り方をしても女房の味は出せなかったですね。
——ほぉ〜。
大泉さん:俺は仕事が嫌いだから、女房がかわいそうでねぇ。買い物に行ったり、帳面をつけたり、毎日やることがたくさんあるし、ひと息つく暇なんかないでしょう。とにかく働き者で、僕が今まで出会った中でも、ナンバーワンの女性ですね。こんな女性は他にいない。
——これからもずっと、お店は続けていきたいと考えていますか?
大泉さん:本当はね、去年の3月でこの店を閉めさせてもらおうかと考えていたんですよ。ところが、女房が「あと2年で30年になるから、それまで頑張ろう」って言うから続けることにしたんです。
——そうだったんですか……。長く愛されてきたお店だから、やっぱり常連さんが多いと思います。
大泉さん:常連さんもたくさん来るけど、ひとりでフラッと飲みに来る人もいますよ。最近は、ルーマニア人の女性が毎日のように遊びに来るから、一緒になって楽しんでいます。僕が飲みだして講釈を始めると、みんなが集まって来るんですよ。なんて言ったって、経験豊富ですからね(笑)
キッチンテーブル
新潟県新潟市中央区姥ヶ山6-5-18
TEL 025-286-0577
営業時間:11:30〜14:00、17:00〜22:00
水曜日定休
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、営業時間を短縮している場合あり。