新潟市美術館の一角にある「こかげカフェ L’ombrage(ロンブラージュ)」。緑の多い西大畑公園を眺めながら、ゆったりした環境でベーグルを味わえるお店です。このお店のベーグルの特徴は、食物アレルギーに配慮して卵や乳製品が使われていないこと。今回はオーナーの若山さんに、食物アレルギーに対しての取り組みのこと、農業や福祉と連携したプロジェクトのこと、いろいろお話をお聞きしました。
こかげカフェ L’ombrage
若山 裕伸 Hironobu Wakayama
1974年11月生まれ 新潟市出身。東京の大手アミューズメント会社に就職し新潟への配属を機にUターン。会社を退職後、友人と始めたカフェバーが飲食店に関わるきっかけとなる。その後、内装業やイベント関係の仕事を経て、子どもの食物アレルギーをきっかけに「こかげカフェ L’ombrage」を始める。
若山さんが「食物アレルギー」を意識するようになったのは、お子さんの卵アレルギーがきっかけでした。食物アレルギーというのは、体に悪い食物ではないにもかかわらず、体が異物として判断してしまうことで免疫の防御反応が働き、じんましんや呼吸困難などを引き起こしてしまう症状です。それによって、若山さんの家庭の食生活は大きく変わりました。それまで普通に食べていた物が食べられないようになってしまったのです。食卓に並ぶのは卵を使わない料理ばかり。でも、お子さんにもパンを食べさせてやりたいと思った若山さんは、材料に卵や乳製品を使用しないパンがないかを調べます。そしてたどり着いたのが「ベーグル」でした。「食物アレルギーのお子さんを抱えたファミリーでも、安心して外食をしてほしい。」その強い気持ちが原動力となり、若山さんはベーグルを中心とした卵や乳製品を使わないメニューのカフェをオープンすることになったのです。ちなみに、子どもの食物アレルギーの発症数で最も多いのが「卵」そして2番目に多いのが「乳製品」。若山さんは「こかげカフェ L’ombrage」をそのふたつを使用しない飲食店にすることで、同じような境遇の家族に外食の機会を提供できると考えたのでした。
お店をはじめるといっても、大量のベーグルを作ってお客さんに提供するのは、ひとりではとても無理。そこでベーグルを調理製造してくれる提携先を探していたところ、若山さんはある障がい者福祉施設と出会います。その福祉施設は、障がい者の就業支援のためにちょうど事業を始めようとしていたところで、厨房設備が完備されていました。若山さんはそこに目をつけ、この施設にベーグルの製造を依頼することにしたのです。「よく人からは『福祉にも取り組んでいて立派ですね』と言われたりするんですが、私には福祉という意識はなく、外注先として取引してもらっている感じです」(若山さん)。
そんな若山さんに、ある日、新しい話が舞い込みます。それは、新潟市上古町に出店することが決まった「久遠チョコレート新潟」へのサポートの依頼でした。全国の福祉事業所が力を合わせて一般市場で通用するチョコレートを作り、障がい者がショコラティエとして、かっこよく社会の中で育ち輝き続ける。そんなコンセプトを謳った「全国夢のチョコレートプロジェクト」という企画に、新潟市のNPO法人が参加し、その広報担当や様々な業務のサポート役をお願いされたのです。現在、若山さんはニュースリリースや取材対応といった広報の仕事の他、販売やディスプレイ、イベント出店のサポートや店舗運営のアドバイスまで、幅広く精力的に協力活動を行っています。
若山さんの活動は、さらに広がりを見せていきます。形の悪さや傷のせいで市場に出回ることなく廃棄される農作物、そういった「ハネモノ」といわれる野菜や果物を福祉施設の力を借りながらお菓子やジャムとして生まれ変わらせる「rucoto(ルコト)」プロジェクトとの連携もそのひとつ。「rucoto」で作られている新潟県産農産物のシロップを使った「想いをつなぐソフトクリーム」の提供をお店ではじめたり、また、十日町市の農園「スノーデイズファーム」とのコラボで干し芋のベーグルの提供もはじめました。ちなみにソフトクリームは豆乳で作っているので、卵や乳製品アレルギーの人も安心して食べることができます。干し芋のベーグルの方は、干し芋の製造過程でどうしても出てしまう端っこや変色した規格外品を活用したものになっています。若山さんの周囲では、福祉、そして農業、安全な食を求めて、様々なつながりが生まれました。「いろいろな専門家に協力してもらいながら、自分のやりたいことをやらせてもらっています」と若山さん。その「つながり」は、この仕事をしている若山さんのモチベーションでもあります。
食物アレルギーに配慮した「こかげカフェ L’ombrage」は、今、小麦粉を使わない新しいメニューの提供を考えています。その一環として開発しているのが米粉を使ったパン。開発はなかなか大変なようですが、提供されれば卵アレルギーのお客さんだけでなく、小麦アレルギーのお客さんにも絶対に喜ばれることでしょう。また、若山さんは卵、乳製品、小麦などを使わずに親子で作るお菓子教室などのワークショップを年2回ほど開催していて、今後はこうした取り組みにももっと力を入れていきたいそうです。
ところで今現在、若山さんが特に力を注いでいるのは何かというと、それはスマートフォンアプリ「アレルゲンファインダー」の開発。クラウドファンディングで集まった100万円を元手に、実用化を目指している真っ最中です。このアプリは、アレルギー食材を選んでから調べたい製品のバーコードをスマートフォンで読み取ると、その製品の中に選んだアレルギー食材が入っているかどうかを教えてくれるという優れもの。ちなみにまだ微調整中で、完成まではもう少し時間がかかるとのこと。食物アレルギーに対する若山さんの挑戦はこれからもまだまだ続くのです。
焼きたて!!ミニベーグルビュッフェ(土日限定) 1,000円
国産鷄の自家製ハムのサラダプレート 980円
チーズを使わないパングラタン 980円
植物性100%ヴィーガンソフトクリーム 450円
(上記は税別価格)