バイパス道路として多くの自動車が行き交う「栗の木バイパス」は、その昔「栗の木川」が流れ、船が行き交う水路でした。原料運搬がしやすいということから、この両岸には味噌や醤油、酒などの醸造蔵が50軒も立ち並んでいたそうです。そうしたことから沼垂地区は「発酵の街」と呼ばれるようになりましたが、時代の流れとともに醸造蔵も減っていってしまいました。そんななかで味噌を作り続けている「株式会社峰村商店」が、自社製品の味噌や麹を使ったスイーツを提供する「くらざしきスイーツ」をオープン。店舗として利用している土蔵のなかで、ブランディングを担当している小林さんからお話を聞いてきました。
株式会社峰村商店
小林 潤 Jun Kobayashi
1980年新潟市東区生まれ。専門学校でグラフィックデザインを学んだ後、県内外でアパレル関係の仕事を経験。2017年より「株式会社峰村商店」に入社し直売店のマネージャーとなり、2024年には「くらざしきスイーツ」をオープンする。最近は子どもと一緒にスキーを楽しんでいる。
——小林さんはずっと食品関係のお仕事をされてきたんですか?
小林さん:「株式会社峰村商店」で働く前は、ずっとアパレル関係の仕事をしていました。新発田にあるアパレルメーカーで、パタンナーをやっていたこともあるんですよ。
——ファッションに興味があったんですね。それなのに「株式会社峰村商店」へ入社したのはどうしてなんですか?
小林さん:2014年に直売所をオープンした頃から、「峰村商店」のブランディングが変わってきたことを知って興味を持ちはじめたんです。地域活性をはじめとして、色々と新しいことに取り組んでいる印象を持ちました。僕も今まで経験してきたデザインのスキルを生かしながら、ブランディングや地域活性に取り組んでみたいと思ったんです。
——では「峰村商店」ではブランディングの仕事をしているんでしょうか。
小林さん:はい、あと直売店のマネージャーも任されていました。最初はなかなか直売店が認知していただけなくて大変でしたね。栗の木バイパスから真っ直ぐに見えるし建物は目立つんですけど、何の店かわからないとよく言われていました(笑)。それまではお洒落にしたくてあまり装飾をしていなかったんです。でもバイパスから見えるようにタペストリーを掛けたりのぼり旗を出したりして、味噌をはじめとした商品のアピールをしました。あとパッケージデザインを見直して統一化を図ったんです。
——それが今のデザインなんですね。
小林さん:今までの「味噌と言えば毛筆系フォント」というイメージから脱却して、手みやげとして使いやすく、若い年代にも受け入れられるようなデザインに変更したんです。あとはイベントを開催して集客を図りました。
——例えばどんなイベントを?
小林さん:年に2回「発酵大かもし祭り」というイベントを開催しました。そのなかでやっていた「味噌の盛り放題」が大評判で、面白いことをやっていると認知していただけるようになったんです。でも軌道に乗ってきたところでコロナ禍がはじまって、イベントを開催できなくなってしまって……。
——それは残念でしたね……。
小林さん:でもその代わりに、盛り放題の平均容量と同じ2.3kgの味噌を袋詰めしたものを販売してみたら、コロナ禍がはじまる前より売上げが伸びたんです。
——「くらざしきスイーツ」で使っている土蔵はいつ頃のものなんでしょうか?
小林さん:明治から大正にかけて作られたもので、二階は座敷になっているんです。
——そのお座敷って、当時は何のために使っていたんですか?
小林さん:かつては多勢の人が訪れて、店の外にも長い行列ができるほどだったそうです。1日では順番が回ってこなくて野宿をする人もいたので、寝泊まりができるよう土蔵のなかに座敷を作ったそうです。今はイートインスペースとしてご利用いただいています。
——2階の座敷が当時の賑わいを物語っているわけですね。その土蔵で「くらざしきスイーツ」をはじめたいきさつを教えてください。
小林さん:この土蔵は道路の拡張工事で取り壊す予定だったんですけど、歴史的建造物を取り壊すのはもったいないということで、なんとか有効利用できないかと考えたんです。そこで人が集まるような、発酵をテーマにしたカフェをはじめました。コロナ禍で一度カフェをクローズしたんですけど、クローズしている間も外観の写真を撮影したり、中を覗いてみたり、見学を希望するお客様が多かったんです。そこで観光スポットになるような店舗にしようと考えて、テイクアウトをメインにした「くらざしきスイーツ」としてリニューアルオープンしました。
——そういういきさつがあったんですね。こちらのお店では、どんなスイーツを購入できるんでしょうか?
小林さん:すべてのスイーツに味噌や麹といった発酵食品を使っています。チーズケーキは以前から直売店で販売していてファンも多かったんですけど、原料や配合を見直してより美味しくリニューアルしているんです。ガトーショコラはバレンタインデーやクリスマスの限定商品として販売していましたが、通年で販売させていただくことになりました。
——いずれも以前から販売していたスイーツなんですね。
小林さん:メインとなるプリンは、このたび新しく販売することになりました。
——どうしてプリンを新しくはじめようと思ったんですか?
小林さん:プリンは多くの方々に親しまれていて、手頃に買いやすいイーツですよね。何より味噌と乳製品の相性が良かったんですよ。味噌、麹、枝豆といった3種類のプリンをご用意しています。
——枝豆のプリンは味噌とも麹とも関係ないですよね。
小林さん:原料の枝豆には新潟を代表する黒埼茶豆の規格外を使っているんです。そうしたフードロスにも対応することで、生産者の方々の手助けができればという想いがありました。
——なるほど。ところで、プリンが入っている容器や化粧箱もお洒落ですね。
小林さん:あえて「味噌屋」っぽさを感じさせないような、手みやげでもらったら嬉しいデザインを心掛けました。ちなみに化粧箱は土蔵の形になっているんですよ(笑)。もうひとつの化粧箱は底に「ありがとう」の文字が印刷してあります。贈る相手への気持ちを伝えると同時に、私たちからお客様への気持ちでもあるんです。
——なかなか粋なデザインですね。これらには小林さんのスキルが生かされているんでしょうか?
小林さん:デザイナーと打ち合わせを重ねて、理想的なデザインに仕上がったと思っています。僕がやりたかったことを自由にやらせていただいているので、とてもやり甲斐を感じるし楽しいですね。今後はスイーツを通じて幅広い世代から味噌にも親しみを持ってもらいたいと思いますし、「発酵の街」をもっと活性化させていきたいと思っています。
——今日はありがとうございました。
小林さん:あ、最後にひとつだけ。「くらざしきスイーツ」の営業日は土日のみで平日は営業していませんので、お間違えのないようにお願いします。
くらざしきスイーツ
新潟市中央区明石2-100-1
025-333-8467
10:00-14:00
土日曜・祝日のみ営業