自然栽培のお米を直接販売している、西蒲区の農家「まごころ村」。
ものづくり
2021.07.19
新潟市西蒲区には、かつて「鎧潟(よろいがた)」という潟湖があって、泥沼の中で稲を育てていたそうです。今、ちょうどその「鎧型」のあったあたりに、「まごころ村」という屋号の農家が田んぼを持っています。「まごころ村」では自然栽培や有機低農薬栽培で米づくりをして、農協を通さず直接お客さんにお米を販売しているんです。なぜそのようなスタイルでお米をつくり、売っているのか。青々とした田んぼを眺めながら、代表の長谷川さんにお話を聞いてきました。


まごころ村
長谷川 真也 Shinya Hasegawa
1972年新潟市西蒲区生まれ。神奈川大学経済学部卒業後、大手スポーツ用品店に就職するが3年後に会社が倒産。新潟に戻って就農する。自然栽培、有機低農薬栽培に取り組み、農協を通さずお米を直販している。最近ハマっていることはシフォンケーキづくり。
西蒲区の田んぼに現れた、「おむすびマン」の正体とは。
——いきなりですみません。その被り物はいったい……。
長谷川さん:これは被り物じゃなくて地毛なんです(笑)。僕は普段から「おむすびマン」としてこの格好で生活しながら、お米を身近に感じてもらう活動をしているんです。買い物や飲食をするときなんかも、この格好でお店にお邪魔しています。
——地毛だったんですね……それは大変失礼しました。
長谷川さん:よかったら、これ被って写真撮らせてもらえませんか?
——これって……「おむすびマン」のマスク……いや、かつらじゃないですか。写真撮ってどうするんですか?
長谷川さん:出会った記念に「おむすび免許証」をつくって、ご自宅へ送らせていただいたり「おむすびの殿堂」としてホームページの中でも紹介させていただいているんです。これまで生後5日の赤ちゃんから103歳のお年寄りまで、約760人に協力してもらいました(笑)

——すごい数の人たちが「おむすびマン」に変身したんですね(笑)。あの……、どうしてそんなことをしているんでしょうか?
長谷川さん:お米を広めたいという思いもありますが、一緒に笑顔も広がっていったらいいなと思ってやっているんです。
——なるほど。あと、こちらにあるのはフリーペーパーですか?
長谷川さん:はい、「えんむすびのマイライフ KOME」という冊子を自作して、お米の豆知識やおすすめの食べ方を紹介しているんです。
——これ、読んでみるといろいろとためになりますね。
長谷川さん:ありがとうございます。皆さんに少しでも美味しくご飯を食べてもらって、もっとお米を好きになってほしいという思いで発行して、無料でお配りしているんです。

自然栽培や有機低農薬栽培に取り組む、長谷川さんの米づくり。
——長谷川さんは農家の跡取りなんですか?
長谷川さん:いいえ。実家は農家をやっているんですが、私は次男だったので家を継ぐことはなかったんです。学生時代は横浜の大学でアメリカンフットボールに明け暮れていました(笑)。卒業後は大手のスポーツ用品店に就職したんですけど、3年で倒産してしまったので。実家に戻ったんです。
——あらら……それは残念でしたね。新潟に帰ってきてからはどこに勤めたんですか?
長谷川さん:新潟で何をやろうかと考えた結果、「組織に属するよりも、自分にしかできない仕事を自分の責任でやりたい」と思うようになったんです。そこでおばさんの家に養子として迎えてもらって、農家を継ぐことになりました。
——どうして養子に?
長谷川さん:おばさんの家は息子さんが亡くなっていて、跡取りがいなかったんです。そこで私に跡を継いでほしいと、誘われていたんですよ。私もどうせ農業を始めるんだったら、おばさんの家を継いで守っていきたいという思いがありました。

——実際に農業を始めてみていかがでしたか?
長谷川さん:私の中では農業っていうのは「自然で健康的なもの」っていうイメージがあったんです。ところが実際は、農協に出荷するための基準を満たすためには、肥料や農薬を大量に使う必要があるということを知って驚きました。無農薬で育てた米にはカメムシがついたりして、等級が下がってしまうんです。私は除草剤を受け付けない体質らしくて、使うと気持ち悪くなっちゃうんです。だから有機低農薬栽培や自然栽培を始めることにしたんですよね。
——有機低農薬栽培と自然栽培について、詳しく教えてください。
長谷川さん:有機低農薬栽培は、稲を収穫した後の田んぼに、米ぬかと稲わらを撒いて次の春までに完熟させ、それを肥料にして栽培します。除草剤は春先に一度しか使いません。自然栽培は農薬も肥料も一切使わずに、稲わらと土の中にいる微生物の力を最大限に利用して栽培します。この栽培方法は、映画「奇跡のリンゴ」のモデルになった木村秋則さんにご指導をいただきました。
——なるほど。そうすることで田んぼにはどんな影響があるんですか?
長谷川さん:化学肥料を使うと、便利なんですけど、田んぼ本来の力がなくなってきてしまうんです。わかりやすくいえば、田んぼの中の自然が化学肥料に頼ってなまけてしまうんですよ。
——へえー、それってお米にも影響するんですか?
長谷川さん:味やえぐみがまったく違って、自然の力があると、美味しいお米ができるんです。
——自然の力がお米も美味しくさせるんですね。他にこだわっていることってありますか?
長谷川さん:「まごころ村」では、脱穀する前のもみで包まれたまま保存する「もみ保存」をおこなっています。もみはお米が生きるためのカプセルみたいなものなんです。もみを外した瞬間に酸化が始まって、温度差でお米が傷んでしまうんです。「まごころ村」のお米は販売直前に脱穀をするので、鮮度の良い状態が長く保てるんですよ。

農協を通さずに直接、お米を売る理由。
——長谷川さんの作ったお米は農協に出荷していないんですよね。
長谷川さん:はい。私の作るお米の味をわかってくれる人に食べてほしかったから、農協を通さず自分で直接売っているんです。
——どんなふうに販売しているんですか?
長谷川さん:群馬県にある神社の駐車場や、埼玉県にある酒屋のイベントスペースで販売しています。毎月2日間ずつ、もう20年近く同じ場所で販売を続けてきました。その他にインターネットを使った通信販売もおこなっています。

——けっこう遠くの場所で直販しているんですね。
長谷川さん:そこは、うちのお米のファンの方がいらっしゃる場所なんです。お客様と直接コミュニケーションをとることで、いろいろ参考になることもありますし。
——長谷川さんはコミュニケーションをとても大切にしていらっしゃいますよね。
長谷川さん:お客様から米づくりを体験してみたいといわれたのをきっかけに、農業体験をしていただけるようにもなりましたね。ご希望の方には、田植えや稲刈りを体験していただけます。これも、お米に興味を持っていただければという思いでやっています。
——なるほど。では最後に、今後の意気込みをお聞きしたいと思います。
長谷川さん:はい。稲の栽培にはいろいろな方法があっていいと思うんです。化学肥料や農薬を使うのもひとつの方法だと思います。その中で、私がやっているような方法があってもいいと思っているんです。それに共感してくれる方、うちのお米が美味しいと思ってくれる方が食べてくれればいいんですよ。「おむすびマン」としてふざけた格好はしていますけど、これからも誠実にお米づくりを続けていきたいですね。

お米の魅力を多くの人に伝えている「おむすびマン」こと長谷川さんですが、むすんでいるのはお米だけじゃなくて、人の縁でもあるように感じました。これからもたくさんの人と縁を結んで、美味しいお米をつくり続けてくださいね。
まごころ村
新潟県新潟市西蒲区馬堀4692
0256-73-2221
Advertisement
関連記事
ものづくり, 僕らの工場。
僕らの工場。#21 亀田縞で歴史を紡ぐ「立川織物工場」
2020.12.26
ものづくり
半纏や浴衣で新潟まつりを彩る、染め物屋さん「丸山染工」。
2022.07.15
ものづくり
元ボクサーの家具職人が作る「Out Mount furniture」の木工製品。
2021.12.02
ものづくり
「新潟まつり」直前!新潟の夜空を花火で飾る「新潟煙火工業」。
2019.08.08
ものづくり
ユーカリにティーツリー。南半球の植物を生産する、南区の「松田農園」。
2025.06.20
ものづくり
自然をベースに考える、豊かな生活のための「SCAPE」の庭。
2020.07.10
新しい記事
買う
できることを、できる範囲で。「下田の森の美術館 リースとタルトのお店」
2025.12.19
食べる
台北出身のオーナーがつくる
本場の台湾料理「Lu Rou」
2025.12.18
カルチャー
芸術に関わりたい人を支える、
加茂市の「アトリエ現場」
2025.12.17
食べる
季節感を大切にしたお菓子づくり。
上古町の老舗「美豆伎庵 金巻屋」
2025.12.16
その他
「整体コラボスペース リソラボ」で
やりたいことを、思いっきり。
2025.12.15
Things写真館
[Things写真館]Photo Studio またね photographer 吉田尚人 #03
PR | 2025.12.15


