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職人が店内で包む、できたてフルーツ大福のお店「もち処 米希舎」。

新潟市鐙にある「もち処 米希舎(まいきや)」が7月にリニューアルし、季節の果物を使ったフルーツ大福のお店になりました。このフルーツ大福、注文を受けてから店内で作られるもので、できたてならではのもちもち食感を楽しむことができます。今回は「米希舎」の和菓子職人、渡辺さんにいろいろとお話を聞いてきました。なんと渡辺さんは、新潟を代表するお菓子「河川蒸気」のはじまりを知る方でした。

 

もち処 米希舎

渡辺 剛 Tsuyoshi Watanabe

1963年新発田市生まれ。「株式会社いえい」製造部長。高校卒業後、とらやの羊羹で知られる「株式会社虎屋」に就職。2年半ほど勤めた後、新潟に戻り「株式会社いえい」へ入社。1988年、同社が「お菓子処 菜菓亭」1号店をオープンする際の立ち上げメンバーとしても活躍。約40年にわたり「菜菓亭」や「米希舎」の立ち上げや商品開発に携わる。

 

「菜菓亭」1号店にはじまり、20店舗以上の立ち上げに関わる。

——渡辺さんは、どうして和菓子の道に進んだんですか?

渡辺さん:昔から和菓子が好きだったわけじゃなくて、ものを作るのが好きだったんですよ。たまたま縁があって、高校を卒業してから赤坂の「虎屋」に就職しました。そこで2年半くらい働いて、父親が体調を崩したので、20歳のときに新潟に戻って来たんです。

 

——それからはどうされたんですか?

渡辺さん:地元で職を探して、今も勤めている「株式会社いえい」で働きはじめました。その頃はパンと洋菓子を作って販売していましたね。それから会社の方針で「和菓子もやっていこう」ということになって、1988年に新発田に「お菓子処 菜菓亭」の1号店が誕生したんです。僕はその立ち上げメンバーでもあるんですよ。

 

 

——えぇ。すごい!

渡辺さん:あれから20店舗以上、新店の立ち上げに関わらせてもらったかなぁ。でも「いえい」に入ったばかりの頃は和菓子の技量がそんなになくて。「虎屋」には2年くらいしかいなかったですから。それで他のお店の職人さんに教えてもらったり、勉強会に連れてもらったりして、和菓子を学んだんですよ。

 

——「米希舎」さんの立ち上げにも関わられたんですよね。

渡辺さん:会社の新事業として、今までとちょっと違う和菓子屋にチャレンジしてみようと、2007年に豊栄で「米希舎」の1号店がオープンしました。お店の立ち上げはいつも大変ですけど、特に「米希舎」をはじめるときはキツかったですね。当時「米希舎」は「いえい」のグループ店ではなかったから、僕ひとりが出向というかたちで店舗を立ち上げたんですよ。商品企画、製造、スタッフの募集と何から何まで任されて、しばらく休みもなかったし苦労しましたね。その後2011年に鐙店ができて、今は鐙店と、月岡の「わくわくファーム」内にあるお店の2店舗がありますよ。

 

旬のフルーツが丸ごと入った、店内で包む「できたて大福」。

——そもそも「米希舎」と「菜菓亭」は、どんなところが違うんですか?

渡辺さん:「米希舎」は、「米どころ新潟らしい和菓子を提供したい」とはじまったお店です。

 

——じゃあ、置いている商品も違うんですね。

渡辺さん:それが思うような展開にならなくて、だんだんと「米希舎」でも「菜菓亭」の商品を扱うようになったんです。「米希舎」という名の「菜菓亭」のようになってしまったんです。

 

——「菜菓亭」さんは、新潟でおなじみのお店ですからね……。

渡辺さん:それで、今年の5月に「米希舎 鐙店」を一旦閉めて「また原点に戻ってやり直そう」と7月にリニューアルオープンしました。「菜菓亭」の商品は置かずに、美味しいお米で作ったお餅やお団子、新潟の特産を発信できるお店にしよう、と。

 

——どんなお店になったんですか?

渡辺さん:いちばんの特徴は、注文をいただいてからお店で餡を包む「フルーツ大福」を楽しんでいただけるところです。作りたての大福は柔らかくて、食べるとお餅がビヨーンと伸びるんですよ。「できたて」が楽しめるお店って、お弁当屋さんやお惣菜屋さんではあるんでしょうけど、お菓子屋ではあまりないですよね。置いているものから選ぶんじゃなくて、作り立てのお菓子を召し上がっていただくスタイルは珍しいと思います。

 

 

——ショーケースにはいろいろなフルーツ大福がありますね。

渡辺さん:新潟って、シャインマスカット、イチジク、さつま芋、トマトなど、さまざまな農産物が採れますよね。それを使ったフルーツ大福をいろいろとご用意しています。桃を丸ごと包んだフルーツ大福は、見た目のインパクトも抜群ですよ。

 

——ちなみにこれからの季節は、どれがおすすめですか?

渡辺さん:10月はシャインマスカットとイチジクですね。12月になると苺が出てくるので、いちご大福もメニューに加える予定です。そのときには新潟の苺だけじゃなくて、「とちおとめ」みたいな県外の美味しい苺も使って「いちご大福の食べ比べ」ができるようにしようと思っています。

 

——できたての大福なんて食べたことないです。

渡辺さん:「菜菓亭」でも手作りのフルーツ大福を扱っているんですけど、作りたてではないですからね。「米希舎」のようにたくさんの種類があるわけではなくて、1種類だけですし。作りたてのフルーツ大福を楽しみたい方は「米希舎」にお越しください。

 

新たな挑戦ができるのは、諦めずに試行錯誤した経験があるから。

——「フルーツ大福」は、注文したらすぐに用意してもらえるものなんですか?

渡辺さん:包むのに時間はかからないのですぐにご用意できますよ。でも「あるものを買いたい」という声をいただくこともあります。それでお弁当屋さんみたいに、携帯で予約して店頭に行けばすぐに買える仕組みを考えているところです。やっぱり時代に合わせて新しいことにチャレンジしていかないと。やってみてダメになるかもしれませんけど、トライしたいですね。

 

——渡辺さんはこれまでにも、新店舗の運営を経験されているんですか?

渡辺さん:もちろん。そういった経験は何度もしてきましたよ。たくさん失敗もしましたしね。今は「どうしたらもっと『米希舎』を知ってもらえるか」が悩みの種です。SNSで広報したり、この取材を受けたりすることは、時代の流れとしてはおそらく間違ったやり方ではないと思うんです。

 

 

——渡辺さん、考え方が柔軟でいらっしゃるし、イマドキの発想をお持ちですよね。そんなふうに思えるのはどうして?

渡辺さん:これまで何度もベースがないところから、商品やお店を作り上げてきました。「諦めないで頑張れば、求めていたものが当たり前になる」みたいな感覚はありますね。いっぱいクレームもいただきましたよ。そんなときは「きちんとお詫びする」「原因を突き止めて次に生かす」「めげない」ことが僕のポリシーです。

 

———「めげない」という言葉に重さを感じます。

渡辺さん:「河川蒸気」だって、会社がまだパン屋だった頃に、蒸しパンにクリームを挟んで「蒸しどら焼き」って販売していたのがはじまりだったんですよ。それが美味しいから「なんとか新潟土産にできないか」というので、試行錯誤して今のかたちになったんです。商品に手を加えても、今度は「日持ちがしない」とかいろいろな問題が出てきたんですけど、それも諦めないでクリアしてきました。めげずにいたら、何十年も残る商品と出会うんですよ。

 

 

 

もち処 米希舎 鐙店

新潟市中央区鐙2-14-17

TEL 025-246-8700

<営業時間> 9:00〜17:00

<定休日> 火曜日、水曜日

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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