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肥沃土で生産した西区のコシヒカリを全国へ届ける「まきおファーム」。

新潟市西区槙尾にある米農家「まきおファーム」が、2020年よりコシヒカリのネット販売をはじめました。農家が独自のネットショップを持つケースは、実はあまり多くないのだそうです。まきおファームのこの取り組みには、県庁職員を退職して実家を継ぎ、農業の道へと進んだ土田さんの思いがありました。今回は土田さんに、農業に関わることになった経緯など、詳しくお話を聞いてきました。

 

まきおファーム

土田 沙由理 Sayuri Tsuchida

1983年新潟市生まれ。大学で農学を学び、2007年に新潟県庁へ入庁。農林水産部 農業総合研究所にて勤務。2019年に新潟県庁を退職し、2020年より父の農業を継ぐかたちで「まきおファーム」をはじめる。

 

小さい頃から自然が大好き。北海道大学で農業について学び、そして研究職の道へ。

——土田さんが以前お勤めだった「農業総合研究所」は、どんなところなんですか?

土田さん:「農業総合研究所」は、農作物の研究や試験などを行うところです。私は、新潟県庁に入庁してから退職するまでの約13年間、ずっとこの研究所の技術職員として働いていて、環境保全型農業や稲の高品質栽培に関する研究をしていました。

 

——県庁にそんな研究所があるなんて知りませんでした。農業が盛んな新潟県らしい部門ですね。

土田さん:研究職って珍しいから、あまり知られていない仕事かもしれませんね。私、子どもの頃から自然や生き物が大好きだったんです。高校の生物で遺伝子を習ってからは、遺伝子にも興味を持ちました。「遺伝子を勉強して作物の品種改良をしたい」と思っていたんですよ。実家で生産しているコシヒカリの品種改良をして、もっと美味しいお米を作れるんじゃないかな、って。

 

——じゃあ、高校生のときに考えていたことを仕事にできたってことですね。

土田さん:といっても、まだ高校生の考えですし、それほどしっかり将来を見据えていたわけではないですけどね(笑)。新潟の農業の力になれる仕事ができたら面白いだろうなぁ、ってフワっと考えていたくらいですよ。でも結果的には、学生の頃に考えていたことを仕事にできたんですよね。

 

 

——北海道大学では農学部を卒業されてから、大学院にも進まれていますよね。そこではどんなことを学んだんですか?

土田さん:イネのアミノ酸を合成する遺伝子の研究をしていました。アミノ酸の量を増やすことで食味を良くしたり、病気への耐性を強くしたりする品種改良につながる研究です。

 

——まさしく「農業総合研究所」での仕事につながりそうなことをテーマにされていたんですね。

土田さん:そうですね。でも、大学院生の頃は研究職に就くことを目標にしていたわけではないんですよ。その頃は「新潟に戻って、ちょっとでもいいから植物や農業に関する仕事がしたいな」と思っていたので、職種にこだわらずいろいろな選択肢を考えていました。県庁の技術職は、「農業に関われそうな仕事」のひとつと思っていたんです。

 

美味しいお米を届けるためのこだわりは、注文を受けてから精米すること。

——ご実家の農家「まきおファーム」に加わったのには、どんな思いがあるんでしょう?

土田さん:5年くらい前に、身近な人が亡くなることが続いたんです。それで、自分の残りの人生を考えたときに引っかかっていることがあるんだったら、やっておきたいと思ったんです。

 

——その「引っかかっていること」というのは?

土田さん:県職では研究分野で農業に関わっていましたが、「チャンスがあれば自分で農業をやってみたい」とずっと思っていました。それに父がやっている農業の後継者がいないことも気になっていました。私が農業をやらなかったら、父の代で我が家の農業は終わってしまいます。何年も経ってから「やっぱりあのとき、私が継げば良かった」って後悔したくなかったんです。それで13年間お世話になった職場を離れて、農業の道へ進むことにしました。

 

——農業をはじめて、まず何からしたんでしょう?

土田さん:「父にひと通り教えてもらおう」と思っていたんですけど、父はまだまだ元気で身体も動くし、今まで通りひとりで仕事をしたいみたいなんです。だから私は今のところは農作業のお手伝いをするくらいです。私のメインの仕事は父が作ったお米をインターネットで販売することですね。

 

 

——農家さん自身が生産しているお米をネット販売するって、あるようで実はあまりない取り組みですよね。

土田さん:お米のネット販売をされている農家さんは、生産者数の割には多くないと思います。県職を辞めて農業をやろうと思ったときからネットショップの立ち上げを考えていました。農業界の現状としては、出荷時の買い取り価格が下がっている一方で肥料や燃料など生産にかかるコストが上がっていて、以前と比べると利益を出しにくくなっているんです。なので、付加価値をつけて、普段新潟のお米を食べていない県外の方々に美味しいお米を届けたいと考えたんです。

 

——「まきおファーム」で販売している商品について教えてください。

土田さん:「まきおファーム」では、コシヒカリとこがねもちを生産していますが、販売しているお米はすべてコシヒカリです。白米、玄米のほかに3分、5分、7分の「分づき米」を販売しているところが個性的だと思っています。

 

——「分づき米」というと?

土田さん:玄米と白米の中間ですね。玄米ほど食べにくくないけど、玄米の栄養が残っているお米です。糠が残っているので、劣化しやすい面があるので、少量だけを真空パックにしてお届けしています。健康に気を使っている方や、玄米を食べたいけどちょっと苦手という方にオススメですよ。

 

——玄米と白米のいいとこ取りをしたお米ですね。他にはどんなこだわりが?

土田さん:このあたりは川の下流に位置していて、肥沃で栄養がたっぷり含まれている土質です。「まきおファーム」では、この土地のメリットを生かしたお米作りをしています。それから、精米したての美味しい状態でお米を食べてもらいたいので、専用の冷蔵庫で保管しておいた玄米を、注文をいただいてから精米しています。

 

——ネットショップを立ち上げてからの反響は、どうですか?

土田さん: 2020年4月にネットショップを開設したんですけど、ちょうどコロナ禍で皆さんが外に出られない時期と重なっていたので、関東圏を中心に購入いただくことが多かったですね。ちなみに、去年の年末くらいから今年の春にかけては、まとまった数のギフトのご注文が増えました。イベントや挙式など、人が集まる機会が増えてきたことを感じています。

 

稲作を身近に感じられる「距離の近い農業体験」。

——これからはどんなふうに農業に関わりたいと考えていますか?

土田さん:父や家族と相談しながら、ちょっとずつ田んぼの面積を増やしていきたいと考えています。あとは、新潟市近郊の人を集めた農業イベントをやってみたいんですよね。

 

——県外の人じゃなくて、市内の人を対象とするんですね。

土田さん:「まきおファーム」がある西区は、びっくりするほどの大自然がある場所じゃないので、「田舎の原風景」みたいなものを期待している関東圏の方にはあまり魅力的じゃないのかもしれないと思うんです。だったら、田植えや稲刈りを経験したことのない新潟市の若い方が気軽に体験できるイベントはどうかな、と考えています。いつでもフラッと様子を見に来られる「距離が近い田んぼ体験」です。

 

——お米農家さんの仕事を知る、良いきっかけになりそうですね。

土田さん:田んぼの仕事って田植えと稲刈りのイメージが大きいですけど、それ以外にもたくさんやることがあるんですよね。田植えをしたあとは、「中干し」といって稲に酸素を取り入れるために田んぼの水を一旦抜いて乾燥させる作業をします。そして再び田んぼに水を張り、除草や稲の病気予防に努めながら稲刈りのシーズンまで大切にお米を育てるんです。そんな地味な毎日の仕事も「田んぼの仕事」なんですよね。

 

——なるほど。土田さん、新潟の農業を支える素晴らしい地域貢献をしていますね。

土田さん:地域貢献だなんて、そんなつもりはないんですよ。私はやりたいことをやっているだけなんです。

 

 

 

まきおファーム

新潟市西区槙尾314

TEL:025-311-6594

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