「日本酒が苦手」という方ってけっこう多いのではないでしょうか。本日ご紹介する「酒と食まわり まみあな」の坂上さんも、かつてはそのひとりでした。でもご主人が営む酒屋さんを手伝いながら様々な日本酒に触れるうちに、徐々にその魅力を知っていったんだとか。そんな坂上さん夫婦が、多くの人に日本酒の魅力を伝えたいという思いでオープンしたのが「酒と食まわり まみあな」。今回は、お店で楽しめるお酒のことや、坂上さんが思う日本酒の魅力について聞いてきました。
酒と食まわり まみあな
坂上 恵 Megumi Sakaue
1977年新発田市生まれ。長野県の短期大学を卒業後、求人誌の仕事に就く。地元の新発田に帰ってからは印刷会社の営業として働いた後、結婚を機に退職。育児が落ち着いた頃から、ご主人の家業である酒屋「地酒の都屋(みやこや)」を手伝いはじめ、2023年5月に「酒と食まわり まみあな」をオープン。
——オープンおめでとうございます。こちらは「地酒の都屋」さんに併設していますけど、何か関係があるんでしょうか。
坂上さん:「酒と食まわり まみあな」は「地酒の都屋」がオープンしたお店で、私の主人が「地酒の都屋」の二代目店主なんです。
——そうだったんですね。「地酒の都屋」って、いつ頃創業したお店なんですか?
坂上さん:昨年で創業50周年を迎えました。主人の両親は加茂出身で、義父は加茂の銘酒「萬寿鏡(ますかがみ)」の蔵人をやっていたんです。同じ酒蔵で働いていた義母との結婚を機に、新潟で「地酒の都屋」をはじめました。
——先代は酒づくりをされていたんですね。
坂上さん:だから新潟の地酒、なかでも伝統的な銘柄を扱っている酒屋なんですよ。それから酒蔵との付き合いを大切にしているお店ですね。現在は20蔵くらいの地酒を取り揃えていますが、酒蔵の顔が見えるような商いを心掛けているんです。お客様からも「酒蔵の匂いがする酒屋」って言われます(笑)
——酒蔵とお客さんをつなぐような酒屋さんなんですね。坂上さんはいつ頃から酒屋さんを手伝っているんですか?
坂上さん:育児が落ちついた5年前からです。日本酒ユーザーって、お酒を飲む全人口の5%くらいしかいないんですよ。スーパーやネット通販でも地酒を買うことができるので、このままでは地酒屋の将来は厳しいなと思いました。
——ただでさえ、若い人がお酒離れしているようですからね……。
坂上さん:そうなんです。だから日本酒が苦手な方や、今まで日本酒を飲んでこなかった方に日本酒の美味しさを知っていただきたいと思い、「酒と食まわり まみあな」をオープンすることにしました。
——坂上さんは元々日本酒がお好きだったんですか?
坂上さん:お酒は好きなんですけど、日本酒にはネガティブなイメージしか持っていなかったので、あまり飲んだことがなかったんです。
——ネガティブなイメージというと?
坂上さん:若い頃に会社の飲み会で上司や先輩に無理やり日本酒を飲まされて、悪酔いしたような思い出しかないんです(笑)。私の父も日本酒は味わうより量が飲めればいいというようなタイプだったので、スマートに味わうお酒というイメージがありませんでした。
——一升瓶を抱えてコップ酒でぐいぐい行くような、昔の日本酒が持つイメージですね。
坂上さん:だけど酒屋を手伝うようになって、勉強のために飲み比べをはじめてから意識が変わりました。私が知っていた日本酒以外にも、いろんな種類の美味しい日本酒があるんだと知って、自分と同じように日本酒に対してネガティブなイメージを持っている人たちにも、その美味しさを知ってほしいと思ったんです。特に自分と同じ女性に伝えたいと思いましたね。
——それで「酒と食まわり まみあな」をオープンしたと。「まみあな」っていう店名には、どんな由来があるんですか?
坂上さん:漢字では「狸穴」って書くんです。狸は信楽焼にみられるように徳利を下げてお酒を買いに来るキャラですし、「他を抜く」という語呂から商売の神様とされているんです。あと「むじな」が雄狸を表すのに対して、「まみ」は雌狸を示すらしいので、女性客にも来てほしいというお店のスタイルにぴったりだと思って決めました。
——由来を聞くとぴったりな店名ですね。女性客に来てもらうために、心掛けていることってあるんでしょうか。
坂上さん:女性がひとりでも気軽に入れて、落ち着いて過ごせるスペースになるよう店舗デザインをしました。それから調理器具を中心とした生活雑貨を取り揃えて、販売もしているんです。
——どうして生活雑貨の販売を?
坂上さん:私は家庭でよくお酒を飲みながら料理を作っているんです。そこまでではないにしても、生活のなかに日本酒を取り入れてほしいと思っているので、日本酒を飲むときや料理を作るときにも使るような、ちょっと生活が楽しくなりそうなアイテムを揃えています。
——飲食メニューについてもお聞きしたいと思います。
坂上さん:日本酒のメニューについては初心者にもわかりやすいよう、大きく3つに分けてご用意しているんです。果実感があってフレッシュなお酒を「モダン」、お米の旨みとキレの良さが味わえる新潟らしいお酒を「クラシック」、中間の定番を「ニュートラル」としています。それぞれいちばん美味しく飲めるように、そのお酒に合った温度や器で提供しています。
——いろんな日本酒や飲み方が楽しめるんですね。
坂上さん:日本酒が苦手な女性に試飲をおすすめしたら「今まで飲んだ日本酒と違う!」って、びっくりされたことがありました。それから長年日本酒を飲み続けてきたお父さんが「こんなにフルーティーな日本酒もあるのか!」と驚いたり、若者がお燗酒の美味しさに触れて感動したりしています。そういう新しい発見をうちのお店でしていただきたいんです。
——いろんな年代の人たちが、日本酒の新しい発見をできるお店なんですね。
坂上さん:お酒を売ったその先の、お客様が飲んだダイレクトな反応を見ることができて、とても面白いし勉強になります。
——お料理のおすすめも教えてください。
坂上さん:食材の旬によって変わるメニューもありますが、「バイ貝酒煮」「茶碗蒸し」「エビ真丈」「なす田楽」が定番の人気メニューです。日本酒を引き立てる料理を選ぶようにしていますね。お料理に合わせて日本酒をペアリングさせていただくこともできます。
——日本酒に合わせて選ばれたメニューなんですね。それにしても、お酒を提供するお店にしては閉店時間が早くないですか(笑)
坂上さん:うちは酒屋が本業ですから、日本酒ファンを増やしていきたいんです。昼呑みをメインにすることで、お酒の味わいや美味しさを再発見してほしいと思っています。閉店は「都屋」と同じ19時ですが、うちで飲んだ後は他の飲食店に繰り出していただきたいですし、もしでしたら、おすすめの飲食店さんもご紹介いたします。
——最後に日本酒の魅力を教えてください。
坂上さん:米や水を使って作られている地酒は、新潟の風土そのものだと思うんですよ。生産者や蔵元があって美味しいお酒ができるんですけど、お酒を飲むだけではそういうことが伝わらないんですよね。そうした新潟の風土に根ざした地酒の魅力を、できるだけ多くの方々に伝えていけたらいいなと思っています。
酒と食まわり まみあな
新潟市中央区親松2-3
12:00-19:00
水曜他不定休