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こだわり抜いたドイツパンを食卓へ。完全受注生産のパン工房「マリラ」

流行とは一線を画したハードで重いパンは、全国の愛好者から注文が。

米どころの新潟県内でも屈指の田園地帯のひとつ、村上市・神林地区の小さな集落にあるパン工房「マリラ」さん。実はパン好きの間では、全国的にその名を知られたお店です。流行の「生食パン」などに代表される柔らかパンとは一線を画した、ハードで重いドイツパンは、その芳醇な風味と本場顔負けの味わいで、店頭販売はなく完全受注生産ながら、全国の愛好者からひっきりなしに注文が寄せられています。人気の秘訣を探るべく、代表の内山秋善さんに、そのこだわりや開業までの経緯、今後の展望などについて伺ってきました。

 

マリラ

内山 秋善 Akiyoshi Uchiyama

1952年旧神林村(現村上市)生まれ。電力会社を55歳で早期退職し、2008年に妻・順子さんとともに自宅敷地内で自家製天然酵母と薪窯のパン工房「マリラ」を開業。本格ドイツパンを製造販売し、今年13年目を迎えた。趣味は料理のほか、DIY、郷土史、ワインなど多岐にわたる。防災士の資格も持ち、村上市防災士会の会長も務める。

 

「3年できれば上等」のはずが、気がつけば13年目に突入。

――師走の時期に恐縮です。コロナ禍といえど、やっぱり12月は忙しいんでしょうか。

内山さん:例年12月はシュトレン(ドイツではクリスマスに欠かせない伝統的なパンケーキ)の注文が多いこともあって忙しいんだけど、今年はいつもの12月に輪をかけて注文が多いかもしれません。ウチは通信販売が中心だから、巣籠り消費に拍車がかかっているのかな。それでも1日でどんなにがんばっても5回までしか焼けないから、心苦しいけど、現在は注文からお手元に届くまではしばらくお待ちいただいています。

 

――ちなみに、これまでで最も忙しかったときってどんな具合でした?

内山さん:4年くらい前、全国ネットのテレビ番組で取り上げられたときはすごかったですね。放送時、私はたまたま何かの会議で出かけていたんだけど、家から悲鳴のような電話が掛かってきてねぇ(笑)。メールで来た注文を印刷する用紙もストックが一晩でなくなっちゃったり……。その日だけで600件以上の注文が来たよ。すべての注文をさばき切ったのは結局、4ヵ月後くらいでしたね。テレビってすごいなぁ、って思ったな。

 

――すごいですね…。

内山さん:サラリーマンが思いつきで始めたような感じで、決して万人受けするようなパンでもないので、最初は自分たちも「3年も持てば上等かな」なんて思っていたんだけど、なんだかんだで13年目。おかげさまで常連さんも増えてきて、「ドイツに住んでいたときと同じ味」「ずっとこの味を探してた」「このパンじゃなきゃダメ」なんて言ってもらえて。ありがたいことです。

 

天然酵母の次は薪窯へ。探求の結果、早期退職して開業。

――改めて、マリラさんのパンの特徴を教えてください。

内山さん:ウチのパンは、一般的なイメージのパンよりも硬くて重量感のある「ドイツパン」です。国産の麦を自家挽きし、自家製の天然酵母で発酵させ、薪窯でじっくり焼き上げています。保存料や添加物は一切使用していません。主力商品は、国産小麦100%の「パン・ド・カンパーニュ」、ライ麦100%の「ロッゲンブロート」などです。

 

 

――初めからドイツパン一筋なんですか?

内山さん:というか、ドイツパンを志したというよりも、美味しいパンを突き詰めていった結果、ドイツパンに辿り着いた、っていうのが実際のところです。パンのクオリティには自信があるけど、自分の場合、本が師匠で、どこか他所のお店で修業したわけでもないから、腕にはあまり自信がない、っていう不思議な感覚があって(笑)。作り方自体は至ってベーシックだから、せめて素材は良いものを、と材料にはとことんこだわっていますね。

 

――そうなんですね。そもそも開業のきっかけは?

内山さん:凝り性というか、何かを突き詰めるのが好きなんです。もともと技術屋だし。趣味のひとつの料理から派生したパン作りを突き詰めていくうちに、気がついたら開業していた、というのが正直なところかなぁ。最初は自宅で普通に作っていたんだけど、もっと美味しくしようと思って、試しに天然酵母を自作してみたら上手くいって、それで生地を発酵させて作ったら、それまで作っていたものは何だったんだ、っていうくらい美味しくなって(笑)。で、次はやっぱり薪窯で焼きたくなって、休日、会社の同僚や部下に手伝ってもらって窯を手作りしたのよ。それで焼いたら、これまた以前とは比べ物にならないくらい美味しく焼き上がって……。作ったパンは周囲におすそ分けしていたんだけど、だんだん評判が広まっていって、そのうち「分けてくれ」って言われるようになってきて。50代も半ばになって、子どもは巣立ったし、県外への転勤もキツくなってきたし、思い切って早期退職して開業することにしたんです。

 

――なるほど。

内山さん:退職後すぐに妻と一緒にドイツに飛んで、様々な土地に足を運んでパン巡りをして。現地では、自分がそれまでやってきたことが間違っていなかったと思えたのと同時に、このドイツパンの手法に日本の繊細さのようなものを活かせればさらに美味しいものが作れるんじゃないかと考えて、帰ってきてからさっそく開業準備にとりかかってさ。妻に反対する隙を与えないように(笑)。

 

究極的にはすべて自作が理想。今後は地元の地域おこしにも。

――完全予約制で店頭販売しない理由は?

内山さん:このへん、というか新潟は特にそうかもしれないけど、米文化が主流の地域だと、パンはあくまで「おやつ」「お菓子」みたいな位置づけだから。自分が作っているパンは「テーブルブレッド」、いわば主食としてのパンだから、お店を出してもゼッタイに売れない、という変な自信はあったよ(笑)。そもそもこのへんは人通りもほとんどないし。最初から店頭販売するつもりはなく、通信販売でやっていくつもりでした。決して数は多くないだろうけど、ウチが作るようなパンを求めている人は全国のどこかに必ずいるはずだから、そういう人に届けていければ商売として成り立つんじゃないか、って。おかげさまで今では北海道から沖縄まで、定期的に購入してくれる方がそれなりにできました。またここ数年は、地元のお客さんも増えてきて、とても嬉しいですね。店先にパンを並べているわけじゃないけど、村上だけでなく新発田や新潟からもわざわざこの工房まで注文したパンを取りに来てくれたり。

 

――例えば百貨店に納めたりとか、そういった展開は考えていないのですか?

内山さん:これまでもそういう話をもらったことはあったけど、基本的にはすべてお断りしています。商品を売った相手に責任が持てないから。出張販売も原則的に自分たちがブースに立つのが条件ですね。商品について何か聞かれたときに、材料から何からすべて答えられないと安心して買えないと思うので。

 

――責任感が強いんですね。

内山さん:やっぱり人の口に入るものだから。究極的には、材料から何から全て自分たちの手で作るのが理想ですよ。もちろん現実的には不可能なんだけど。だからせめて自分で作れないまでも、自分の近く、地元で作っているものを可能な限り取り入れていきたいと思っているし、できるだけ生産現場まで足を運んで、生産者の方にも話を聞き、自分の目で確かめています。手作りにこだわっているのも、モノに任せるとモノのせいにしちゃうからね。例えば生地の手触りなんて、情報の宝庫ですよ。分量の具合から焼き加減まで、すべて手から伝わる感触が教えてくれます。将来は分からないけど、今のところ手作りが一番効率が良いと思うね。

 

 

――そういえば、ライ麦の栽培も始めたと聞きましたが。

内山さん:やっていますよ。初めは自分の畑でやろうと思っていたんだけど、無肥料・無農薬でやると害虫が集まって周囲の畑に迷惑がかかっちゃうから。それで、周囲に田畑のない知人の耕作地を借りて、お客さんにも参加を呼び掛けて、種まきから収穫まで。参加してくれた人にはそのライ麦で作ったパンを差し上げて。おかげさまで好評です。自分たちで育てた麦で作るパンは、格別ですよ。

 

――今後の展望を教えてください。

内山さん:これからもここでしか作れないものを提供していきたいと思っているけど、地元ブランドの確立は今後の課題のひとつかもしれない。最近も市内の農園から「何かに使えないか」って自作小麦の持ち込みがあって、商品に活かせないか研究しているところ。村上の一住民として、地域おこしにも力を入れているので、さっきのライ麦栽培もそのひとつだけど、ウチの商品や仕事を地域おこしにつなげていければと考えているよ。

 

――なるほど。本日はお忙しいところ、ありがとうございました!

 

 

 

パン・ド・カンパーニュWhole 1340yen~ Half 820yen~

ライ麦パン(80%) 820yen~

ライ麦パン(100%)ロッゲンブロート 930yen~

シュトレン 3000yen

お任せセット 6000yen

ほか

 

 

〒959-3402 村上市志田平45

TEL・FAX 0254-52-0071

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