ものづくりが盛んな新潟県の燕三条エリア。弥彦山を望み、越後平野の田園地帯を見渡せる里山に、1939年創業「マルナオ株式会社」のショップを兼ねたファクトリーがあります。東京・青山やフランス・パリにも店舗をオープンし、世界の人々を魅了しているマルナオの箸。今日は職人で製造マネージャーも務める小川さんに、創業から今に至るまでの歴史やマルナオの商品についていろいろとお聞きしてきました。
マルナオ株式会社
小川 直也 Naoya Ogawa
1984年山形県生まれ。製造マネージャー。長岡造形大学を卒業後、都内でインテリアや店舗設計、新潟で広告営業の経験を経て、2016年にマルナオ株式会社へ入社。
――マルナオさんでは創業当時から箸を作られていたんですか?
小川さん:1939年に創業した初代の直悦は、元々彫刻業からスタートをしたんです。当時は欅(けやき)を主に使っていたんですが、それを手彫りで彫刻していました。その後、彫刻業から大工道具の墨坪の製造へと移行していくことになります。
――墨坪というと、大工さんの……?
小川さん:昔の大工さんは必ず墨坪を持っていましたし、良い装飾が施された墨坪を持つっていうのはステータスのひとつになっていたそうです。そこからの流れで、2代目は「千枚通し」や「カルコ」など大工さんの日用道具の製造を進め、現在のテーブルウェアを3代目が始めたかたちになります。
――大工道具からテーブルウェアに移行するきっかけは何か理由があったのでしょうか。
小川さん:時代の変化で建築様式が変わったり、家を建てる需要自体が減ってきたのもあって、全盛期よりも注文が減ってきたんです。それに加えて、2004年に起きた「7.13水害」で旧社屋が約2メートルも浸水してしまい、機械も材料もすべてダメになり被害総額は1億5,000万円にも及びました。こういったことがきっかけとなって、新しい商品展開のテーブルウェアの製造に踏み切ることになります。
――新商品の方向性やコンセプト作りはどのようにされたんですか?
小川さん:新しい商品企画の際には、やはりベースとして「今まで培ってきた技術の強みを活かしたい」っていうのが根底にありました。うちは創業当時から欅、黒檀、紫檀、楓(かえで)という堅い種類の木を使っていたのもあって、特殊な管理方法や加工方法のノウハウがしっかりとあったので、そこを活かした商品企画を試行錯誤しました。
――じゃあ日本の高級木材の管理加工技術を活かした商品企画ありきだったわけですね。
小川さん:まずは予算度外視で、3代目が理想とする箸を作りました。消耗品としての箸ではなくて、「使いやすい箸を長く使っていただきたい」っていうコンセプトで。箸も大道具と同じで手で使うものですよね。使いやすさへのこだわりっていうのは先代からずっと受け継いできているものなんですよ。大工道具って、使いにくいとすぐに使ってもらえなくなってしまうんです。大工道具を作っていたときは、大工さんから直接もらった意見を反映させながら製品づくりを行っていました。なので「使いやすい道具を作る」という意識はもともと職人の中に根付いているんです。
――まずは使いやすさ、実用性っていうところを大事にされているんですね。
小川さん:「デザインが素敵だね」って言ってくださる方も多いんですが、実は、実用性をいちばん大事にしています。だから、手が不自由なお客様からも使いやすいっていうお声をいただけたりするとすごく嬉しいですね。もちろんデザインも考慮していますが、それ以上に実用的な美しさを大切にして作っています。
――実用的な美しさっていうのもデザインの一部なのかもしれないですね。
小川さん:日本のお箸は9割が塗り箸で。うちの箸は塗装をしていない無垢の木箸になっています。木のナチュラルな美しい色味をそのまま活かしています。形に関しても、うちは八角形が一番「手」にフィットしやすくバランスが良いかたちっていう考えで、八角形に統一しています。これはもう最初に作り始めたときから変わっていないですね。
――箸の先端もだいぶ細いですよね。
小川さん:これは箸の先端が1.5mmになっていて、箸の先端まで八角形になっているんですよ。光にあてて見ていただけるとよく分かると思うのですが。箸先まで八角あると、面と面で物がつかみやすくなります。手作業がメインになってきますし、作るには約100工程もあるんです。
――すごい世界ですね。
小川さん:他にも細さは約3.5mm、約2.5mmとあって全部で3種類あります。1.5mmのものは特に口当たりも抜群に良いですね。箸先を口や舌であまり感じなくなるので繊細なお刺身とか日本料理の焼き魚の身をほぐしたりするときなんかはすごく相性がよくなります。料理の邪魔をせずに食べられる箸になっていますし、食事がとても美味しく感じるというお声もありがたいことにいただけます。一度使ってからはこれじゃないと箸が気になっちゃってていうお客様もいらっしゃいますね。
――箸の存在を感じることなく、料理を口に運べると。
小川さん:他には16角形の箸もあって、この商品は持つところは16角形なんですけど、箸先にいくにつれて八角形になっています。持つところは16角形で丸箸に近づいて持ちやすいんです。持ったときのあたりがすごく優しいので、リピーターの方も多い商品ですね。
――種類は徐々に増えてきたんですか?
小川さん:当初はそんなに種類も多くなかったんですが、お客様が実際使っていく中でお声をいただきながら増えていきました。日本は箸を大切に使う文化があるし、皆さんやっぱ自分の箸ってある人が多いですよね。色違いで「これは私の」「これはお母さんの」みたいな感じで。そうなってくるとバリエーションが必要になってくるので、箸先の細さを3段階に変えたり種類も徐々に増やしているようなかたちです。使うときにちょっとでも気持ちよく使ってもらうためにデザインの部分でも増やしています。
――お客様の声がたくさん反映されているんですね。
小川さん: うちの会社の特長のひとつにメンテナンスや修理ができるっていうのもあります。そのおかげで実際に使ってもらった方に改めてお会いする機会も多くあります。お客様との距離が近く、いろいろなお声をいただくのでそれは直に商品開発の参考に取り入れています。
――なるほど、安心して長く使えそうです。
小川さん:今ではスプーンなどのカトラリーも種類を増やしています。箸と同様に口当たりが良くなるように口に入れるすくう部分を薄く仕上げているので、是非こちらも見ていただきたいです。東京の青山とフランスのパリにも店舗があるんですが、店舗によってショップのコンセプトを変えたりワークショップもやっているので是非機会があれば行ってみてください。
マルナオ株式会社(オープンファクトリー・ショップ併設)
新潟県三条市矢田1662-1
TEL:0256-45-7001
営業時間:10:00-19:00
定休日:なし。年末年始は休業