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ユーカリにティーツリー。南半球の植物を生産する、南区の「松田農園」。

この春から、小さい鉢の観葉植物を育てはじめました。これまで何度かチャレンジしてきた植物栽培ですが、うまくいった試しがありません。「今度こそ!」と植物への関心を高めていたところ、新潟市内に南半球の植物を生産している農家さんがあると知りました。今回は南区の園芸農家「松田農園」さんの代表 松田さんに、農家の働き方や栽培環境についてなどいろいろとお話を聞いてきました。

 

松田農園

松田 孝寛 Takahiro Matsuda

1984年新潟市生まれ。新潟デザイン専門学校卒業後、フリーターを経て東京の花き卸売市場で2年間働く。24歳で新潟に戻り「松田農園」へ。父親から代替わりし、2022年に「松田農園」を法人化。一緒に働く家族から「仕事フリーク」と呼ばれるほど、熱心に働いている。

 

オーストラリアの植物を、南区で。

――「松田農園」さんは、植物を生産している農家さんなんですよね。

松田さん:はい、私で3代目になります。祖父はお米とチューリップの球根を生産していました。父の代から鉢花栽培に重点を置くようになって、各国原産のさまざまな植物を作りはじめました。その頃からお米の生産は外部へ委託して、園芸事業一本になったんです。

 

――南区に花き農家さんがいらっしゃるとは、失礼ながら知りませんでした。

松田さん:昔から、南区と秋葉区は花き産業が盛んですよ。

 

――松田さんの代では、どんなものを生産されているんでしょう?

松田さん:父から事業を引き継いでちょっとしてから、オーストラリアの植物に魅力を感じるようになったんですよね。それまでも南半球原産の植物は生産していたんですが、私の代からさらに品種、品目を増やしました。

 

 

――オーストラリアの植物って、例えばどんなものですか?

松田さん:ユーカリ、アカシア、バンクシア、ティーツリーなどを中心に14品目26種を生産しています。

 

――どんなところに魅力があったんでしょう?

松田さん:新しい品目に挑戦してみようかなと思って、まず気になったのがユーカリでした。ユーカリのフォルムや香りに惹かれたんです。幹肌にも特徴があって、「とても綺麗な植物だな」と思ったんですよね。

 

――そもそも新潟でオーストラリアの植物が育つものなんですか?

松田さん:品種によりますが、ユーカリやアカシアは新潟でも育てられます。ただ冬場の気温や雪、霜には注意が必要です。

 

――そこにプロの技術があるんでしょうね。あと気になったんですが、県内で「松田農園」さんのような事業をされている農家さんは多いんですか?

松田さん:園芸農家さんはたくさんいらっしゃいますけど、南半球の植物をメインに生産しているところは少ないかもしれません。

 

少数精鋭で、60,000鉢を生産。

――どれくらいの規模の農家さんなんでしょう?

松田さん:スタッフは私と妻、姉とパートさんが現在6名。圃場面積は、おおよそ8,000㎡。年間の生産数はおおよそ60,000鉢です。

 

――「松田農園」さんの植物には、どんな声が寄せられることが多いですか?

松田さん:「葉の張りがいい」「見事な形をしている」と褒めていただきます。毎日愛情をかけることが、生産のポイントです。

 

――田植えをするみたいに、植物も小さいサイズから育ててるんでしょうか?

松田さん:品目によっては、種を蒔いて、発芽させてというところからスタートします。もしくは挿し木や株分などの「栄養繁殖」というやり方です。いずれも、小さい苗から適切な大きさに育てて出荷するんですね。

 

 

――ふむふむ。だんだんとイメージが湧いてきました。ちなみに、皆さんの繁忙期は?

松田さん:「松田農園」の場合は、9月~11月までのガーデニングシーズンがいちばん忙しいです。毎日、出荷作業に追われます。

 

――秋なんですね。意外でした。その時期は、寒くなるから植物が育たないような気がして。

松田さん:おっしゃる通りなんですが、私たちのメインの卸先は、関東・関西の市場なんですよ。

 

継がないつもり。でも選んだ、園芸農家の道。

――松田さんご自身のことも教えてください。東京の花き市場で働いていたそうですね。やっぱり農家を継ごうと思われていたんですか?

松田さん:正直に言うと、農業を継ぐつもりはなかったので、デザインの専門学校へ進んだんです。「将来はデザイン関係の仕事に就きたいな」と思っていたんですけど、やっぱり頭のどこかで「家業を継がないと」という気持ちもあって。中途半端な感じですよね。それに甘えもあったかな。

 

――10代後半で将来を決めるなんて、難しいですよね。それでもお花の仕事をされたんですね。

松田さん:花き市場で初めて園芸に触れたようなものなので、植物の名前もまったくわからなくて。「いろんな産地があるもんだな」「生産者さんによって同じ品目でも形や質感が違うんだな」って、覚えなくちゃいけないことが山ほどあるなって思っていました。

 

 

――その後、新潟に戻って就農されます。しかも20代後半には、お父さんから世代交代されたそうで。

松田さん:「60歳になったら、ぜんぶ預けるからな」って、ずっと言われていたんです。予告通り、父が還暦を迎えた年に代替わりしました。父はそれから4、5年は現場に出ていましたし、今でもやっぱり様子が気になっているみたいです(笑)

 

――農園の責任者になって、気持ちの変化はありましたか?

松田さん:「生産してみたい」と思った品種を育てるようになって、自分なりの農園のビジョンが見えてきたのかなと思います。問屋さんやお客さんから「やっぱり『松田農園』さんの商品はいいね」って、嬉しい言葉をいただくこともあって。より当事者意識が湧くようになったというか、やりがいを感じるようになりました。

 

まるでショップのよう。ブランディングにも注力。

――「松田農園」さんのロゴは、とってもスタイリッシュですね。

松田さん:ブランディングを大事にしてきたつもりです。農家なんだけど、「松田農園」というひとつのメーカーとして生産しているわけだから、しっかりブランディグしたいと思っていました。デザインはシンプルに白を基調にしたものにして、一貫性を持たせたくて。そういう発想には、デザイン専門学校で学んだことが生きていると思います。ロゴは、学生時代の友人に制作を依頼しました。就農したときからずっと使っている「松田農園」のシンボルです。

 

――事務所は一見、植物販売のショップみたいです。

松田さん:イベントに出店すると、お客さんから「お店はどちらにあるんですか」って聞かれることがあります。「いや、私は生産者なんです」って答えると驚かれるんですよ(笑)

 

――農家さんのお話を聞く度に、とてもタフさが求められるお仕事だなと思っているんです。

松田さん:休みなく作業しなくてはいけないときがある仕事ですからね。「松田農園」の場合は、8時~16時半が定時なんですが、これから暑くなってくると朝早い時間に水やりをしなくちゃいけなくなるので、私の始業時間はもっと早いです。

 

 

――園芸農家さん特有の働き方みたいなものはあるんですか?

松田さん:働き方というか、販路が野菜農家さんやお米農家さんとはちょっと違うんですよ。組織的に規定に基づいて選別、販売する「共選販売」ではなく、私たちの場合は販売単価も、販売先も自分たちで決める「個選販売」方式なんです。単価の決定においては自由度が高いんですが、営業的な動きもしなくちゃいけないんですね。

 

――ほぉ~。そういう違いもあるんですか。

松田さん:それから、植物は「嗜好品」なので、食べ物みたいに生活に欠かせないものではありません。だから購入される方と同じ目線で「どんなところに魅力があるか」を知っておきたいなって気持ちがあります。ライフスタイルやインテリアの分野にもアンテナを張っていなくちゃいけないと思っています。

 

――今後、どういう農業をしていこうと思っていますか?

松田さん:簡単なようで難しい「現状維持」が目標です。というのも、「松田農園」は私の代で終わりにしたいと思っていて。ハードな仕事ですし、繁忙期は家族で遊びに行くことも難しいですから。私も夏は父と出かけた記憶がないくらい(笑)。それに施設が古くなれば、設備投資が必要です。もし子どもから「園芸農家になりたい」と言われても、きっと「やめなさい」って言うと思う。なので、長い目で考えると「終農」に向かうんだけど、私が現役の間は、変わらずお客さまに信頼を寄せてもらえる品質の植物を生産していきたいと思っています。

 

 

 

松田農園

新潟市南区南区下塩俵5-1

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