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地域で大切にされてきた文化を、時代に合わせて編集する「道の駅たがみ」。

新潟県には道の駅が42施設あり、全国で5本の指に入る多さなんだとか。そのひとつが2020年にオープンした「道の駅たがみ」です。長年愛されてきた地元の商品をポップな見せ方でふたたび輝かせ、注目を集めています。今回は駅長の馬場さんに、いろいろとお話を聞きました。

 

道の駅たがみ

馬場 大輔 Daisuke Baba

1978年田上町生まれ。いくつかの仕事を経て、北方文化博物館に勤務。2020年4月に「道の駅たがみ」の駅長に着任。同年10月、「道の駅たがみ」がオープン。新潟らしい四季を満喫していて、これからはスキーモードにシフト。お気に入りのゲレンデは、妙高杉ノ原スキー場。

 

生まれ育った町の文化をつなぐ、駅長。

――馬場さんは以前、北方文化博物館にお勤めだったんですね。

馬場さん:ご存命だった8代目当主の伊藤文吉さんから多くを学ばせていただき、「地域文化をつなぐ」ことに強い関心を持ちました。「いずれは生まれ育った町でそういう取り組みができたらいいな」と常々思っていて。「道の駅たがみ」が立ち上がる話を知って、ぜひ挑戦したいと思ったんです。

 

――前職では、どんなお仕事をされていたんですか?

馬場さん:企画や営業など、いろいろ経験しましたよ。インバウンド誘致の担当だったので、行政の皆さんとご一緒することもたびたびありました。刺激的だったのは、ロサンゼルスやハワイから誘客をしたこと。かなり最先端の取り組みでした。

 

 

――もともと観光業界への関心をお持ちだったんでしょうか?

馬場さん:中学生の頃、父親の仕事の都合でマレーシアに住んでいました。そこで「自分は日本人なんだな」って強く感じて。社会人になって、台湾に行ったときにも新しい発見があったんです。友達が「忙しいから」と、現地のコミュニティにポンと投げられて。その中には台湾人、日本人、いろいろな国の人たちがいて、それぞれが自分の国について自分なりの言葉で語っていました。一方で僕は、日本のことも、新潟のこともはっきりと伝えることができなくて。「ちゃんと自分の言葉で自分の国や住んでいる場所を語れる大人になりたい」と、帰国後しばらくして北方文化博物館に転職を決めました。

 

――それから道の駅の駅長さんになられたんですね。

馬場さん:前職にもやりがいがあって悩みましたが、やっぱり生まれ育った田上町の文化をつなぎたくて。こんなチャンスはなかなかないだろうと、「道の駅たがみ」の駅長公募に手を挙げたんです。

 

――田上町ご出身の駅長さんってところが素敵です。

馬場さん:いろいろなことに関わらせてもらっていますが、僕だけの力でできることはひとつもありません。スタッフ、地域の皆さん、協力してくださる業者さんと「一緒に走っている」と感じています。学生時代の同級生、先輩、後輩の力もすごく大きいですね。それに副駅長と同時に着任できたこともとてもラッキーでした。副駅長は観光分野に長けているので、僕たちは「言語が合う」んです。そこに大きな安心感と信頼がありました。

 

ずっと前から愛されていた田上名物を、編集してお届け。

――「道の駅たがみ」について、教えてください。

馬場さん:近隣エリアも含めて地域のいいもの、皆さんにおすすめしたいアイテムをセレクトしています。大切にしていることのひとつは、ずっとこの町で大切にされてきたものを今の時代に合わせて「編集」するという発想。パッと見、新しい取り組みをしているようで、実は昔から地元の皆さんに愛されてきたものをお伝えし直しているんです。

 

――例えば、どんな取り組みですか?

馬場さん:湯田上温泉街で唯一温泉まんじゅうを作っている「小柳菓子店」さんは、保存料など余計なものを一切使わずにおまんじゅうを作っています。実際にお話を伺って、心を打たれました。「道の駅たがみ」でも販売しているのですが、もう少しキュートにしたいと考え、お店にご協力いただき「あじさいまんじゅう」として3色展開しています。

 

 

――町のお店とタッグを組んで、オリジナル商品として販売しているということですね。

馬場さん:他にも田上産のお米を使ったポン菓子やノンアルコールのブランデーケーキなど、オリジナルアイテムはいくつもあります。以前から親しまれていた商品を「編集」して提供し、楽しんでもらう。それが叶う場づくりがしたいと考えています。

 

――こちらの道の駅にお邪魔して、田上町には名物がたくさんあるんだと驚きました。

馬場さん:田上町は朝市などの「市(いち)」が立たなかった地域なんだそうです。近場の開催でも、加茂市や秋葉区の小須戸の市。地元の農家さんは外の市場で戦うしかなかったんですよね。きっと品質や伝え方を高めなくては勝負にならなかったんだと思うんです。農家さんにそう教えてもらって、それが田上に美味しいものが豊富にある理由なんだと納得しました。「道の駅たがみ」としても、その背景をしっかり伝えようとしています。

 

――きっと、農家さんは地元で販売できることを喜ばれているでしょうね。

馬場さん:生産者さんからは「売り場ができてよかった」「収益にも反映している」などの声をいただいています。伝え方やデザインを工夫し、もっと価値を高めようとみんなで取り組んでいます。

 

子どもたちが誇りを持てる町づくり。

――2021年から開催されている「たがみバンブーブー」にも関わっていらっしゃるそうですね。

馬場さん:もともとは「道の駅たがみ」と商工会青年部が中心となって立ち上げた事業です。おかげさまで、大きなイベントに育ちましたね。

 

――立ち上げには、どんな狙いがあったんですか?

馬場さん:町を象徴するような企画があったらいいなと思っていて。例えば、十日町市の大地の芸術祭や雪まつりは、地域の文化や背景までも想像できるイベントですよね。そんなふうに町の魅力を発信したいと考えました。目的はふたつあって、ひとつは田上町を大勢の方に知っていただくこと。もうひとつは、地域の子どもたちに「自分の町にはこれがある」と誇りを持って育って欲しいという願いです。「たがみバンブーブー」はその核となった大事な企画なので、大切に育てていきたいですね。

 

 

――そしてこの度、「GOOD DESIGN賞2024」を受賞されたとお聞きしました。おめでとうございます。

馬場さん:地域の皆さんが主体的に関わってくださったからこその受賞です。「道の駅たがみ」を通したまちづくり活動全般が受賞の対象となりました。地域の皆さんからだけでなく外部の方からも「この方向性で頑張ってちょうだい」と言ってもらえたような喜びがありました。

 

 

 

道の駅たがみ

南蒲原郡田上町原ケ崎新田3072ー1

tel/0256-47-0661

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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