加茂から下田へ向かう県道9号線を通っていると「笹だんご 仁右エ門(にえもん)」と書かれた看板に出会います。看板の矢印に従って細い坂道を上ると、住宅に隣接した小さなお店を発見。お店のなかにはハキハキとお話しする、店主の木村さんがいらっしゃいました。
笹だんご 仁右エ門
木村 裕子 Yuko Kimura
1951年三条市生まれ。地元の材木問屋で10年働いた後、パートで働きながら子育てや介護、孫の世話に専念。2016年に「笹だんご 仁右エ門」をオープン。趣味は映画鑑賞。オードリー・ヘップバーンのファンで、お気に入りの作品は「ローマの休日」。
——自然豊かで静かないい地域ですね。まさか、こんな山のなかに笹だんごのお店があるとは思いませんでした。
木村さん:借金をしないでお店をはじめようと、自宅の敷地に店舗を建てました。知り合いの大工さんが何かと協力してくれたので、とても助かったんですよ。
——どうして笹団子のお店をやろうと思ったんでしょうか?
木村さん:よくお友達から頼まれて笹団子を作っていたんです。それが好評で「せっかくだから、笹団子屋さんをはじめてみたら?」と勧められたんですよ。ちょうど面倒を見てきた孫が高校を卒業したこともあって、2016年に「笹だんご 仁右エ門」をはじめました。
——店名の「仁右エ門」というのは、どういう意味なんですか?
木村さん:うちの屋号です。この辺はみんな「木村」だから、屋号の方がわかりやすいんですよ(笑)。私がここへお嫁に来たばかりの頃、お父さんから「近所は親戚だらけだから、知らない人でもとりあえず挨拶しとけ」って言われていました。
——なるほど(笑)。でもここはあんまり人の通らない場所ですよね……。
木村さん:そうなんです。お店をオープンした日は、知り合いがちょろっと来てくれただけでしたね(笑)。でもお友達がたくさん買って周りに配ってくれたおかげで、少しずつお客さんが増えていったんです。本当にありがたいと感謝しています。
——産直市場や道の駅へは、笹団子を卸していないんですか?
木村さん:自分の目が届く範囲で笹団子をお届けしたいから、そういうお話をいただいても丁寧にお断りしているんです。儲けようと思っているわけじゃなくて、自分が楽しむためにやっていることですから……。
——こちらでは、どんな笹団子を作っているんですか?
木村さん:つぶあん、こしあん、きんぴら、さつまいもの4種類があります。笹団子の具はすべて手作りなんですよ。
——きんぴらやさつまいもの笹団子って珍しいですね。
木村さん:きんぴらには何十年も愛用している、しょっぱい醤油を使っているから味が濃いんです。それから下田地域はさつまいもの生産が盛んなので、さつまいもを使った笹団子を作ってみました。優しい甘さで美味しいんですよ。
——本当だ。確かに柔らかい甘さですね。団子の色もちょっと濃いような気がしますけど……。
木村さん:この辺りの笹団子は、よもぎの替わりに「ごんぼっぱ」を使って作られているんです。だから色が濃くって、しこしこした食感になるんですよ。
——「ごんぼっぱ」って何ですか?
木村さん:「やまごぼう」とか「おやまぼくち」とも呼ばれている植物です。よくゴボウと間違われるんだけど、まったく違う植物なんですよ。
——へぇ〜、それも珍しいですね。笹団子を作るときって、どんなことにこだわっているんでしょうか?
木村さん:手を抜かず丁寧に作るように心掛けています。団子の生地をこねる作業には力が必要なのでお父さんにやってもらっているんですけど、お父さんは私以上に手を抜かない性格なんですよ(笑)。笹も、心を込めて丁寧に包むようにしています。あと残った笹団子を二度蒸かしして、次の日にも売るようなことはしていません。
——笹団子作りは、お父さんとの共同作業なんですね。
木村さん:そうなんです。あと孫が私の代わりにインスタグラムをやってくれているので、最近は若いお客さんも来てくれるようになりましたね。家族の協力には感謝しています。
——SNSの影響もあって、最近は客層の幅が広がってきたんですね。
木村さん:うちに来るお客さんはいい人ばかりで、会話をしていても楽しいんですよ。地元のお客さんにはときどき細やかなおまけをするんだけど、お返しに漬物やお菓子を持ってきてくれるんです。そうしたコミュニケーションにも幸せを感じますね。
——お話しする様子を見ていても、幸せが伝わってきますよ。
木村さん:ありがとうございます(笑)。自分で店をはじめてみて、家族やお友達、お客さんに恵まれていることを実感することができました。これからも感謝の気持ちを忘れず、笹団子の質を落さないように長く続けていきたいですね。
笹だんご 仁右エ門
三条市新屋111
0256-46-4152
10:00-16:00
水木曜休