新潟市中央区、沼垂テラス商店街のサテライト店舗としてオープンしたゲストハウス「なり -nuttari NARI-」。築100年余の古民家をリノベーションして作り上げた、お洒落とノスタルジックが合わさった“なり”の空間が魅力です。今回はオーナーの高江さんに、ゲストハウスをはじめたキッカケを聞いてきました。
なり -nuttari NARI-
高江 理絵 Rie Takae
1984年新潟市生まれ。日本大学文理学部国文学科卒業後、子ども服の販売員、専門学校事務を経て、長野県下諏訪町のゲストハウスの立ち上げに参加。2017年「なり -nuttari NARI-」をオープン。
――今日はよろしくお願いします。高江さんは、どんなキッカケでゲストハウスをしようと思ったんですか?
高江さん:長野県下諏訪町にある友人のゲストハウスの立ち上げを手伝ったことがキッカケです。友人は東京にあるゲストハウスで働いていたことがあって、そこで知り合い、立ち上げる際に「もし暇だったら来ない?」と誘ってくれたんです。なんとなくゲストハウスやシェアハウスといった「みんなで暮らす空間」に興味があったから、面白そうと思って参加してみました。
――立ち上げはどんなことを手伝ったんですか?
高江さん:立ち上げのほとんどは改装工事です。築150年の旅館の不要な部分を、とにかく壊して、掃除をしての繰り返しで、最後は造作。当初は1ヶ月だけ手伝って帰ろうと思っていたんですけど…。
――思っていたということは…、延長したわけですね?
高江さん:はい。はじめの1ヶ月で解体工事が完了して、それ以降はベッドを作ったり、床を貼ったりする造作期間だったんです。解体工事で粉塵まみれになって辛い思いだけするんじゃなくて、せっかくだから作る楽しみも味わいたいと思って、結局、最後まで手伝わせてもらいました。
――立ち上げを手伝っている人は他にもいたんですか?
高江さん:「みんなで作る」がコンセプトのゲストハウスだったから、1日だけ手伝ったり、私みたいに長期間常駐している人もいたり、いろんな人たちが入れ代わり立ち代わりでしたね。
――そうなんですね。ご自分でもゲストハウスをしてみたいと思ったのは、やっぱり完成が近くなるにつれてですか?
高江さん:そうですね。参加しているメンバーでご飯を作って食べて、温泉につかって、飲んで語ってを繰り返していたら、生活と仕事の境界線が曖昧なことに気がついたんです。でも、これがゲストハウスで働くことなんだな、って。毎日いろんな人にも会えて楽しいし、旅しているみたいな感覚もあって「ゲストハウスをしてみたい」と思うようになりましたね。
――「ゲストハウスをしてみたい」と思ってからは、どこかで働いてみたりしたんですか?
高江さん:立ち上げを手伝った友人のゲストハウスで、アルバイトスタッフとして働きはじめました。ちょっとだけ働いてもゲストハウスの中身は知ることができないと思って、四季を通して流れを感じるために、まるまる1年間お世話になりました。
――1年間を働いてみてどうでしたか?
高江さん:大学に進学してからはずっと県外にいたせいもあって、正直、私、新潟が嫌いだったんです。でも、いろんな地域から来る人たちと会話しているなかで「新潟は日本酒と米が有名だよね。行ったことないけど」という言葉を聞いたときになんか悔しくて。ちょっとだけ新潟県人としてのプライドが現れたんですよ。同時に、みんながポジティブに自分の地域を自慢しているけど、自分は新潟の魅力が話せない、これって新潟を何も知らないからなんだ…と思って、新潟に対する見方が変わりました。
――大切なことに気づかせてくれた1年だったんですね。そうやって新潟に対する見方が変わったからこそ「なり -nuttari NARI-」は新潟に誕生したんですね。
高江さん:その通りです。「つまらなくて嫌いだった新潟に、楽しくて新しい場所を自分の経験を生かして何かの形にしていけばいい」と思って、2017年にこの沼垂に「なり -nuttari NARI-」はオープンしました。
――ゲストハウスの名前「なり」には、どんな意味が込められているんですか?
高江さん:由来は大工さんの用語です。「この現場は“なり”で作ろう」といって、図面を引かないでその場の空気感で作っていく意味があります。毎日いろんな人たちが泊まりに来て状況が変わっていく空間を、その日の“なり”で作っていく。そんな毎日を重ねていく空間にしたくて「なり」と名付けました。
――なるほど。そうすると「どんなゲストハウスですか?」と質問しても、そのときによって答えが違ってきますか?
高江さん:ゲストハウスを作りはじめたとき、オープンしてお客さんを迎えたとき、そして今とでは、この場所に対しての気持ちは“なり”で変化していますね。だから私がスタートした場所だけど、今はみんなの暮らしの一部になっていると思っています。
――ん、「みんなの暮らしの一部になっている」というと?
高江さん:ゲストハウスだけど、誰でも利用してもらえるバーを併設しているんです。この場所は、遠くからやって来た人も、この沼垂で暮らしている人も、いろんな人たちがお酒を酌み交わしながら非日常の空間を楽しんでいます。ゲストハウスという境界線を意識的に崩しているからこそ、地域の人たちが入りやすく、みんなの暮らしの一部になれていると思うんです。
――旅人も、沼垂の人も、みんなで交わる暮らしの場が「なり -nuttari NARI-」なんですね。それでは最後に、これからの展望を教えてください。
高江さん:正直、これから「なり -nuttari NARI-」がどうなっていくのかは想像がつきません。だって“なり”だから。でも今を感じ取る直観だけは磨いて、時代に合った判断をしていきたいと思います。
「なり -nuttari NARI-」をどう楽しんでもらいたいかを聞いてみると、「初めての場所はドキドキとワクワクがあって当たり前。その緊張感を沼垂の温かさとスタッフの対応が和らげてくれます。それって、ここだから楽しめる非日常なんです。この非日常を楽しんでください」を高江さん。日常のなかに非日常がたくさんある空間だからこそ、日常の素晴らしさに気づける場所が「なり -nuttari NARI-」なんだと思います。日常に、“なり”で生まれる非日常を。
なり -nuttari NARI-
新潟県新潟市中央区沼垂東2-11-31
025-369-4126