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心のよりどころを目指すブックカフェ、三条の「絵本の店 omamori」。

私の姪がまだ小さかった頃、実家の本棚にはたくさんの絵本が置いてありました。中には私が子どもの頃に読んでいた絵本もあって、ふと懐かしさを感じました。何十年も前に読んだきりなのに、表紙を見てすぐにストーリーが浮かんできたのでびっくり。絵本には、そういう不思議な魅力があります。そんな絵本の持つ力に惹かれた店主がはじめた「絵の多い本専門店」が、三条中央商店街にオープンしました。お店の名前は「絵本の店 omamori」。今回はまるのさんに絵本にまつわるエピソードやオープンまでの道のりなど、いろいろとお話を聞いてきました。

 

絵本の店 omamori

まるの さき Saki Maruno

1995年長野県生まれ。埼玉で育ち、東京の大学へ進学。株式会社リクルートホールディングスに3年間勤めた後、2022年に三条市へ移住。2023年4月に「絵本の店 omamori」をオープン。趣味は海外旅行とアウトドア。

 

コロナ禍で生活と気持ちに変化が。絵本屋になるため三条市へ。

——まるのさんは埼玉県育ちなんですよね。どうして三条市に住むことに?

まるのさん:スノーボードをしに湯沢に来たことがあったくらいで、新潟には何の縁もないんですけど、絵本屋さんになりたくて三条市に移住したんです。

 

——絵本屋さんになるために三条へ……ですか?

まるのさん:お店をはじめるにあたって、東京で会社員を続けながら土日だけ営業しようとか、埼玉の実家の近くでやってみようかとかって考えたんですけど、いろいろ調べていたら三条市が本屋事業を町中で盛り上げる活動をしていて、担い手を募集していると知りました。その求人を見て三条市に移住して、商店街の一員に加わったんです。

 

——どうして絵本のお店をはじめようと?

まるのさん:コロナ禍でやりたいことができなくって、気分が落ちていたんです。ちょうどその頃、知人が「絵本を作りたい」というので絵を描ける人を探していて。私、イラストも書いていたので知人と一緒に絵本制作をしたんです。たくさん絵本を読んでみて、「これって子どもだけじゃなくて大人にとっても素敵なツールだな」と思ったんですよね。それにクリエイティブなことが性に合っているというか、好きだなと気がついてお店づくりに関心を持つようになりました。それで「絵本屋さんをやりたい」と思ったんです。

 

 

——コロナ禍で気持ちに変化があったんですね。

まるのさん:旅行が大好きなのに出かけられず、家の中でご機嫌を保つにはどうしたらいいんだろうって、ずっとモヤモヤしていましたね。前職は「人」に惹かれて入社した会社だったんですけど、社会人2年目の春に仕事がフルリモートになってしまって。誰にも会えずに寂しくて、だんだん仕事のやりがいも分からなくなってしまいました。

 

——そんなとき、絵本作りに触れて気持ちが高ぶったと。

まるのさん:絵本を読んで自分自身の心が救われた瞬間がありました。「メンタルが弱っているとき絵本は寄り添ってくれるんだ」と気がついたんです。

 

 

心が救われる、ちょっとだけ楽になる。絵本はお守りのような存在。

——お店で扱っているのは絵本だけですか?

まるのさん:絵本以外にもコミックや画集もあります。もちろん小説だって心を支えるツールだと思いますし、私も小説好きではあるんですが、忙しくて余裕がないときはなかなか読み進められなくて。でも「絵の多い本」はパッと手に取ることができます。私は絵本と同じような感覚で、漫画やエッセイ、写真集を開くので、そういった本をひと括りにして「絵の多い本」専門店にしました。

 

——「omamori」という店名には、何か思いがあるのかなと感じました。

まるのさん:ここには絵本の新本、古本といろいろあるんですが、すべて「誰かのお守りになりそうだ」と思うものを選んでいます。「お守り」って持っていると安心するし、困ったときに頼れる存在ですよね。絵本もそれに近いと思ったんです。疲れているときに心が救われたり、ちょっとだけ楽になったり。

 

——まるのさんはそんな体験をされたんですね。

まるのさん:絵本屋さんをはじめたいと思ったきっかけになったのは、知人からプレゼントされた「おくりものはナンニモナイ」という一冊です。シンプルな絵と文字だけの本なんだけど涙が出ちゃうくらいすごく感動しました。その本には、とにかく「グッとくるもの」があったんですよね。「絵本の力ってすごい」って。

 

 

——扱う本はどんな観点でセレクトしているんでしょう?

まるのさん:「この本はこんな人のお守りになりそうだ」とイメージできる本を選んでいます。毎日一生懸命働いているけどたまに朝起きてしんどさを感じる人、なかなか弱音を吐けない人、大切な人を失って悲しいけど気持ちを表に出せない人。そんな人が読んでくれたらいいなと想像して。

 

——読み手を想像されているんですね。

まるのさん:でも、私自身の価値観を押しつけるのは嫌だなって思いもあるんです。お客さまに「これ、めっちゃいいですよ」って言いたくなるときもあるんですけど、それは私のエゴみたいになっちゃうのかなって。お客さまが感じた気持ちがそのまま本に残ったらいいなと思っています。だから今はポップをつけていません。私は本屋さんのポップを見てワクワクするし、つけるかどうか常々悩んではいるのですが(笑)

 

——きっと、まるのさんが選んだ本に心を動かされた人もいるでしょうね。

まるのさん:感想を書いてもらっているノートには、「今日は我慢してきつくなったけど、ここに来て気持ちが落ち着きました」「失恋しちゃって辛くてたまらなかったけど、ここに来れてよかったです」と書いてくださる方もいます。誰かは分からないですけど、でも「お守り」を探しにこのお店に来てくれたと思うと本当にありがたいです。

 

地方暮らしで見つけた「帰りたい場所」は、人生の宝物。

——ところでまるのさん、三条住まいはいかがですか?

まるのさん:暮らしやすいですよ。以前は東京駅直結のビルで働いていましたけど、満員電車や人混みがベストな環境だとは思っていなかったので、三条市に来て心地よさを感じています。でもひとりで来たので半年くらいは孤独感があったかな。

 

——孤独感、今は薄れました?

まるのさん:ここは人とのつながりがすごく暖かくて。埼玉、東京に住んでいた頃は行きつけのお店がありませんでした。そもそもあまりお店に行かなくて。もし今、東京に戻っても行きたい場所が思いつかないくらいです。でも今後別の場所で暮らして三条に戻るとなったら、あそこに行きたい、あのお店のあの人に会いたいって「帰りたい場所」がたくさんできました。人生にそういう場所ができたことは私の宝物です。

 

 

——さて、これからどんなふうにお店を育てていきたいですか?

まるのさん:事業性と公共性のバランスを模索中です。でも、この場所自体がお守りのような拠り所になってくれたらいいなという思いでいます。店内には「喫茶シンカイ」さんもあって本屋でもあるしカフェでもあるので、本を読んだりおしゃべりしたり、フラッと遊びに来てもらえるだけで嬉しいです。

 

——書店というより「憩いの場所」って感じですかね。

まるのさん:そんな場所を目指していますけど、お店を長く続けていくためには、何かしらの価値を提供できるいろいろなかたちが必要だとも思っています。今は本とカフェがメインですけど、イベントを開催したり、間貸ししたりもできるかもしれないと考えています。方法はひとつ、ふたつに縛られずに柔軟なお店づくりができたらいいなと思います。

 

 

 

絵本の店 omamori

三条市本町2-13-9

TEL 0256-46-8828

営業時間 11:00〜18:00 (水曜日・木曜日定休)

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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