アウトドア用のイスやテーブルって、アルミやスチール、ステンレスなどでできていてクールなデザインのものが多く、温かみのある木製のものは持ち運びが大変そう……。そんなことを考えながらアウトドアショップをふらふらしていたら、「これは!」と気になるイスを発見しました。メーカー名のところに「OUTSIDE IN」と書かれていたので調べてみると、無垢材にこだわって家でも外でも使える家具を作っているブランドなんだとか。そこで今回は、「OUTSIDE IN」を展開している「有限会社E&E」を訪ね、代表であり、家具職人でもデザイナーでもあるクリスさんに、いろいろとお話を聞いてきました。
OUTSIDE IN
エスポジット クリストファー Christopher Esposito
1970年アメリカ生まれ。1994年に化学薬品の研究者として来日。退職後、2005年に三条市で「有限会社E&E」を設立。木製のイスやテーブルを中心に、アウトドアで使えるアイテムを展開するブランド「OUTSIDE IN」の他、メガネフレームブランドも展開。
――クリスさんはアメリカのご出身なんですよね。いつ日本に来られたんですか?
クリスさん:1994年に来たので、28年経ちます。大学生のとき2年間いたずらで日本語を勉強していて、インターンシップで3か月間東京に住んでみたら結構面白かったから、卒業したらまた日本に行こうと思ったんです。それから就職して、技術提携で2年間だけ日本に行くことになったんですけど、会社には「帰ってほしくない」と言われ、奥さんにはさらわれて(笑)。気づいたらこんなに長くいましたね。
――「気づいたら」で28年ですか(笑)。当時はどんなお仕事をされていたんですか?
クリスさん:携帯やパソコンに使われるICチップとかを加工するための、化学薬品の研究開発をしていました。だけど、どんどん会社が大きくなっていって、私もまとめる役割を任されて、技術的に面白かった仕事が政治的な仕事になっちゃったんです。それは嫌だなと思って。でも子どもは日本で育てたかったから、軽い気持ちで会社を開くことにしました。
――どんな経緯で新潟の……しかも三条で会社を立ち上げることに?
クリスさん:会社の研究所が阿賀野市の笹神にあったんです。最初は新潟市に住んでいたんですけど奥さんと「どこかに家を作りましょ」って話になって、三条なら交通の便も比較的いいし自然もあるしってことで引っ越すことにしました。ただ、ものを作るのには自信があったんですけど、売り方が分からなかったので、まずはアウトドア用品の輸入代理店をはじめたんです。もともとアウトドアが好きだったので、趣味と仕事を一緒にしようっていう考えが出発点でした。
――こちらの建物は会社をはじめたときに建てたものですか?
クリスさん:この建物は最初、自分の趣味小屋として作ったんです。若い頃に大工をやっていたこともあって家具を作るのが好きだったので、そのための設備を置く場所にしようと思って。骨だけ組んでもらって、外壁から何から自分で作りました。ここで商売をすることになるとは思ってもみませんでした(笑)
――なんでも自分で作っちゃうんですね。趣味の家具作りを仕事にすることにしたのには、どんなきっかけが?
クリスさん:仕事で仲良くしていた若い木工職人がいたんですけど、会社がひっくり返って仕事がなくなったと聞いて、何かできないかなと思って。代理店をやっていたことでアウトドア用品の営業ルートはできていたので、まず最初に折り畳みのキャンプ用のテーブルを出してみたんです。そしたらマニアックなファンがついてきてくれるようになりました。それが11年前ですね。
――以前のお仕事と今のお仕事で、通じている部分ってあるんですか?
クリスさん:布でも木工でも電池部品でも、僕にしてみれば何を作ったって工程は一緒で、変わらないんです。基本的には、「ひく」「たす」「変形させる」っていう3つしかないから。もちろん簡単なものじゃないので、材料とかコツとか経験、いろいろ必要ですよ。ただそういう基本的な考え方ができると、どうやって精度を上げるかとか、どうやって部品と部品をつなげるのかとか考えやすいんです。
――「OUTSIDE IN」ではどんなアイテムを作っているんでしょうか。
クリスさん:中でも外でも使えて、しかも温かみがあって、持ち運びができるものを作っています。自然のぬくもりを家の中に取り込んで、家の中の豊かさを外にも持ち運ぶっていう考えで「OUTSIDE IN」っていう名前にしました。サングラスや鋳物も出しているんですけど、イスやテーブルがメインで、無垢材にこだわって作っています。パイプ椅子も便利だとは思うんですけど、ぬくもりがないですよね。
――無垢材の魅力ってどんなところですか?
クリスさん:ベニヤも構造物としては素晴らしいものなんですけど、「無垢」は生き物なので「本物」という感じがするんですよ。「大変な年があったんだな」とか、その木の歴史が見えるわけです。水分を吸ったり吐いたりするのも、「生きてる」って感じがする。経年変化で色が変わって、使えば使うほど味が出てくるのも楽しいですし。無垢材だからこその、そういう部分を経験してもらいたいなって思っています。
――ここに積み上げられている木も、これから家具になるものですか?
クリスさん:そうです。欧米から輸入したオークなんですけど、届いた状態ではこんなふうに荒く削られているだけなので、使えるように加工するところからはじまります。大変ですよ。
――想像していた以上に手間がかかっていますね……。それにしても、小さな工場でおどろきました。
クリスさん:確かに工場は小さいんですけど、うちは折り畳み家具がメインなので、イスだったら100脚から200脚は作れるんです。普通の家具だったらそんなにできないですよ。
――なるほど。こっちのテーブルは、縫い目みたいのものがあって面白いですね。
クリスさん:それは「Flip-Flop」っていうテーブルで、8年前にブランドの10周年記念の限定品で作ったものです。無垢のテーブルをコンパクトにするには、天板をどうやって畳むかっていう問題になっちゃうわけですよ。そこで屏風に使われている「紐蝶番」っていう折りたたみ機構からヒントをもらって、それをイメージした編み方にしました。そうすると両側に畳めるようになるんです。
――すごくコンパクトになるんですね! 本当の屏風みたいです。
クリスさん:実際の「紐蝶番」を再現したいのはやまやまなんですけど、それだとあまりにも手間がかかるので。うちの製品って安くはないですけど、ある程度手が届いていろんな人に喜んでもらえる価格にしたくて。100万円の家具が売れたら嬉しいですけど、それだとひとりしか楽しめないじゃないですか。そういうのもあって今の編み方にしています。これでも大変なんですよ(笑)
――ほとんどの家具はクリスさんが作っているんですか?
クリスさん:そうですね。うちではメガネフレームも作っているので、そっちの職人さんから手伝ってもらうこともあるんですけど。だけど最近やっといい人が見つかって働いてもらうことになったんです。木工職人っていないんですよ。そのなかでも若くて、腕が良くて、無垢材について理解している人は非常に少ないです。見つけるの大変だった(笑)
――木工職人さんって、やっぱり減ってきているんですね。
クリスさん:人口は減るわ、職人の道に入っても給料よくなかったり、若い人は東京に引っ越したりして、なかなかいないです。今はメガネの職人も募集しているので、真面目に勉強したいっていうひと……特に変わり者が来てくれたら嬉しいです(笑)
――ものづくりの業界にいて、変化してきているなって何か感じることはありますか?
クリスさん:昔の商売だと、作る人と使う人が顔を合わせて、「この人のためにいいものを作りたいな」とか、「この人のためだから頑張ろう」とか思えるような、そういう接点があったんですけど、それが今はどんどん離れていっているのを感じます。間にいろいろな業者が入ったりして、実際にものを作っている人は使っている人の顔も見えないし声も聞こえない。使う人は作っている人の苦労もまったく見えない。だからうちは、使っている人全員の顔は見えないとしても、なるべく近づこうっていう考えでいます。
――使っている人との距離を縮めるために、具体的にはどういうことをされているんでしょうか。
クリスさん:例えばホットサンドメーカーだったら、鋳造まではできないので他に頼むことになるんですけど、設計と、型を掘るのと、仕上げのコーティングだとか、自分たちでできることはやるようにしていますね。
――今後はどんな家具を作っていく予定ですか?
クリスさん:内緒ですよ(笑)。ただ、今はどっちかっていうとキャンプだとか外で使ってもらっているものが多いんですけど、家でも楽しめるようなものを増やしていこうと思っています。
イスもテーブルも、経年変化を感じられる無垢材で作られているからこそ、使えば使うほど愛着が沸いて自分だけのとっておきのアイテムになっていくんだろうなと思います。クリスさんのお話を聞いて、私もますます欲しくなっちゃいました。「OUTSIDE IN」の製品は、オンラインショップやアウトドアショップで手に入るので、ぜひチェックしてみてください。
OUTSIDE IN
新潟県三条市下保内 2989
0256-39-0177