見つけるとついついチャレンジしてしまうクロスワードやナンプレ。新聞や雑誌だけでなく、今はスマートフォンのアプリで楽しまれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回はその出題者として20年以上のキャリアを持つ加茂市在住のパズル作家「今井 洋輔」さんに、問題を作成するポイントや業界を取り巻く環境などについてお話を聞いてきました。
パズル作家
今井 洋輔 Yousuke Imai
1978年加茂市生まれ。新潟工科大学情報電子工学科を卒業後、専業パズル作家として活動をはじめる。パズル専門誌などに問題を多数提供。「攻略!難問ナンプレ」(世界文化社)ほか多数の著書を持つ。2023年7月「ニックちゃんのナンプレ脳活ドリル」(新潟日報社)を発売。趣味はジャグリングで、パフォーマーとしても活動中。
——まさかプロのパズル作家さんにお会いできるなんて。今日の取材をすごく楽しみにしてきました。まずは今井さんがどんなパズルを作成していらっしゃるのか教えてください。
今井さん:クロスワードとナンプレの出題が多いですが、パズルっぽい問題であれば一通りなんでも作ります。専門誌などから依頼を受けて、指定された難易度やテーマ、パズルの種類に合わせて問題を作成するのが仕事です。月に40〜50問くらいの依頼を抱えていますかね。最近だと新潟で開催される謎解きイベントの問題作成もしました。
——問題を何通りかストックしておくんですか?
今井さん:出版社さんの方で過去の問題を流用するケースはあるでしょうけど、いつも新作を提供しています。
——パズルの作成にはどれくらい時間がかかるんですか?
今井さん:それほど難しいものでなければ、ナンプレなら1時間くらい、クロスワードはちょっと手間がかかるので1〜2時間といったところでしょうか。1日数時間、数日かけて完成させる場合もあります。作り手さんによるのでしょうけど、僕は理系出身なので数字や図形のパズルが得意です。
——謎解きもパズル作家さんの担当ジャンルなんですね。
今井さん:パズルと似通ったところはあると思いますよ。謎解きや脱出ゲームが世に出てきたのは、15年くらい前ですけど、謎解きっぽい問題は昔からあって、業界では「ひらめきクイズ」と呼ばれていました。「ひらめきクイズ」もひたすら作ってきたので、考えを応用すれば謎解きも作成できます。
——パズルを考えるのにはどんなステップがあるんですか?
今井さん:ナンプレはそれほど下準備がないですが、クロスワードはテーマについて調べて、どの言葉を盤面に入れるか、最終的な答えをどうするかを考えるのに時間をかけます。それが固まってしまえば、多少のテクニックは必要ですけど、盤面を組むこと自体はそこまで大変じゃないかな。
——クロスワードの場合、言葉の難しさが問題の難易度につながるわけですか?
今井さん:当然、はめ込む言葉が専門的だと難しくなりますね。あとは、たて、よこのヒントで難易度が決まります。作家としては、ヒントとなる「カギ」(クロスワードの盤面に入れる言葉を導くための短文)の面白さも目指したいところですけど、出版社さんによっては辞書にある言葉みたいに「カギ」を編集するケースもあります。その辺は媒体に合わせて工夫しますね。
——クロスワードの問題を作っちゃうんだから、今井さんは言葉を扱うプロフェッショナルですね。
今井さん:理系出身なので、クロスワードはもともと得意ではないんですよ。でもパズル作家として食べていくには何でも作れなくちゃダメだと思いまして、若い頃からたくさん問題を作成してきました。今はそれなりに上手になってきましたかね(笑)
——そもそも、どうしてパズル作家を目指されたんでしょう?
今井さん:高校生のときに、パズル専門誌で読者が考えた問題を投稿するコーナーがあって。それに応募したら問題が採用されて、原稿料としてまあまあの額のお金をもらえたんです。それから大学受験で忙しい時期なのに投稿コーナーに熱心に応募して、ポイントランキングで1位になりました。その企画で1位になった投稿者は作家の見習いになれるというので、このチャンスを逃したくないと本気になりまして。1位になって、その専門誌から出題の依頼をいただくようになったんです。
——デビューされてから挫折みたいなものはありませんでした?
今井さん:う〜ん……。挫折はないかな。でも出版不況でパズル雑誌が続々と休刊し、仕事量が減ったことはありました。最初は1社に絞って仕事をしていたけど、他の会社にも営業に行って。いろいろなところに顔を出して、運良く専業作家として生き延びています(笑)
——失礼ながら勝手な思い込みで、もっと苦労話が出てくるのかと思っちゃいました。生みの苦しみも大きいだろうなと。
今井さん:パズルが好きな人って、地道な作業が向いているんですよ。だから制作の苦労はたいして感じません。僕は頼まれたものをひとりでこだわりを持って作るのが向いていると自覚しているし、パズル作家が天職ですね。
——小さい頃はどんな子どもでしたか?
今井さん:いちばん古い記憶は、たぶん保育園の頃でしょうけど、迷路のおもちゃでひたすら遊んでいた思い出です。小学校では自由帳に自作の迷路を書いて友達と遊んだし、ナゾナゾも好きで「ナゾナゾ博士」と呼ばれていました。よく覚えているのは小学校3年生のとき、担任の先生がパズル雑誌を紹介してくれたこと。それがきっかけで専門誌を買って問題を解くようになりました。
——今井さんは、ジャグラーとしても活動されているそうですね。
今井さん:趣味でジャグリングをはじめて、もう20年以上経ちます。月に1度くらいイベントでパフォーマンスしますけど、本業はパズル作家ですよ。でもジャグリングをやっていなかったら、もっと内にこもった性格だったかもしれません。
——お話を伺って、これからパズルを見る視点が変わりそうです。出題者にも目がいってしまいそう。
今井さん:パズル作家という職業がもっと認知されて欲しいなと常々思っているので、出題者にも注目してもらいたいですね。パズルを解いて「面白い」と思ったら、その出題者が問題を提供している雑誌を選ぶのもいいと思いますよ。
——専業のパズル作家さんって、それほど多くいらっしゃらないのでは。
今井さん:副業でパズル作家をやっていらっしゃる方は多いでしょうけど、これ1本で仕事をしているとなると、おそらく全国で50人くらいかもしれません。
——今はゲームの種類が豊富ですよね。そんな中で、パズルならではの魅力ってなんでしょう?
今井さん: じっくり時間をかけて問題を解いてもいいし、スピード重視でチャレンジしてもいい。人それぞれの楽しみ方があるところが魅力だと思います。クロスワードの答えを誰かに聞いたり、謎解きみたいに共通の課題をみんなでワイワイ解いてみたり、コミュニケーションの道具のひとつでもありますよね。
——さて最後に、これからの新しい試みについて教えてください。
今井さん:理事を務めている「日本パズル連盟」で「世界パズル選手権」に日本選手を派遣したり、代表を決める大会を開いたりしています。現状は「日本パズル選手権」を開いても参加者が100人弱ほどです。それをもっと大きい大会にしたいと思っています。パズル業界は続いてはいますけど、一時期より低調です。業界を盛り上げて、全体的なレベルの底上げにも取り組みたいですね。
パズル作家 今井 洋輔