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70年以上にわたり地元の観光を支えてきた「笹川流れ観光汽船」。

今月末からいよいよゴールデンウィークです。新潟県にある観光スポットの中でも人気があるのが、村上市の「笹川流れ(ささがわながれ)」です。澄んだ海に沿って11km続く海岸線には、日本海の荒波に侵食された奇岩の数々が並んでいます。その光景を存分に楽しめるのが「笹川流れ観光汽船」の遊覧船です。目の前まで飛んで来るカモメに餌をあげながら、美しいパノラマを眺めることができます。カモメの鳴き声が響く桑川漁港にお邪魔して、代表の渡辺さんから遊覧船や干物についてのお話を聞いてきました。

 

 

有限会社 笹川流れ観光汽船

渡辺 美紀子 Mikiko Watanabe

1968年村上市(旧山北町)生まれ。大学卒業後は燃料会社での事務職を経て、1992年から「有限会社 笹川流れ観光汽船」に就業し、2004年より代表取締役社長に就任する。

地元漁師がはじめた観光遊覧船。

——遊覧船はまだお休みなんですか?

渡辺さん:今年は3月25日から運行をはじめているんだけど、お天気が良くないからねぇ……。今週末から本格的にスタートする感じかな。

 

——ゴールデンウィークを前に「嵐の前の静けさ」といった感じですね。そもそも、どういういきさつで遊覧船がはじまったんでしょうか?

渡辺さん:私の父が定置網漁を生業にしていたんだけど、大しけで網を流されて多額の借金を背負うことになったんです。しばらくは他の漁師を手伝って、再び船を手に入れてから、夏場の禁漁期を利用して遊覧船をはじめました。木造船に屋根をつけただけの簡単な船だったけど、だんだんと評判を呼ぶようになっていったんですよ。

 

——お父さんにはきっと先見の明があったんでしょうね。

渡辺さん:ちょうどレジャーが注目されはじめた頃だったので、正式に国からの運行許可を取得して、遊覧船事業に力を入れるようになったんです。本格的に観光ブームが到来すると「大日屋」という民宿の経営もはじめて、遊覧船もグレードアップすることになりました。

 

——次第に規模が大きくなっていったんですね。

渡辺さん:道路が整備されたことで、観光バスもたくさん来るようになりましたね。おまけに地元漁師さんたちの協力もあって漁港も整備して、遊覧船への安全な乗降ができるようになったんです。それを機に出資を募って、有限会社として法人化することになりました。

 

 

——地元の方々の期待の高さが感じられます。

渡辺さん:法人化したことで客員数を増やした遊覧船を導入したり、本格的に従業員を雇い入れたりして、より多くのお客様に対応できるようになりました。

 

——ところで渡辺さんはいつから社長に就任されたんでしょうか?

渡辺さん:体調を崩した父に代わって、2004年から経営を引き継いだんです。両親が苦労を重ねて大きくした事業を守りたかったし、株主になってくれた方々や社員への責任もありましたね。引き継ぐ際に父からは「地元の人たちと仲良くやっていくことが大切」という助言を受けて、その言葉を今まで大切に守り続けてきました。

 

「なしはなし」の精神でつくられる干物。

——干物はいつ頃からつくりはじめたんですか?

渡辺さん:法人化した頃、漁港に待合所を兼ねた売店を開いて、お土産として販売するための干物づくりをはじめたんです。遊覧船事業は船が出せなければ収入になりませんので、従業員を安定して雇い続けるためには他の事業で補う必要がありました。そこで干物を中心とした海産物加工に力を入れるようになったんです。

 

——どんなことにこだわりながら干物づくりをしているんでしょう?

渡辺さん:「なしはなし」というスローガンを掲げています(笑)。「なし」というのは地元漁師の業界用語で、未利用魚や売れ残って返品される魚のことをいうんです。味はいいのに売ることができない魚がもったいないと思っていたので、捕れた魚は余すところなく使い切ることにしています。

 

 

——具体的にはどういうことなんですか?

渡辺さん:「飽和蒸気調理器」を導入して、骨まで柔らかく加工できるようになりました。あと、今までは捨てるしかなかった骨を加工して「骨せんべい」のような製品もつくっています。最初は「骨まで使うのか」と笑われましたけど、今ではヒット商品になりました(笑)

 

 

——フードロスへの取り組みを先駆けていたんですね。他にもこだわりがあったら教えてください。

渡辺さん:機械ではなく自然の日光や潮風を利用して干していることですね。塩分を多く含んだ潮風が直接吹き付けるので、旨味を多く含んだ干物がつくれるんです。まさにこの土地ならではの味だと思います。天日で干しているから干物事業の屋号も「天ぴ屋」と名付けました。

 

——この名前で売られている加工品をいろいろな所で目にします。

渡辺さん:地元の観光施設はもちろん、新潟市内のホテルやECサイトへも販路を広げているんですよ。

 

高潮被害やコロナ禍を乗り越えて。

——長い間営業してきて、ご苦労も多かったんじゃないですか?

渡辺さん:そうですねぇ……。2004年には高潮で店舗が流されたことがありました。その2年後に基礎のしっかりした耐久性の高い店舗を新築したんです。1階に売店、2階には待合所を兼ねたお食事処を設けました。海が見渡せるのでお客様には喜んでいただけますね。

 

 

——そんな大変なことがあったんですね。

渡辺さん:あと新型コロナウイルス感染症の影響は大きかったですね。県外からのお客様をお断りする状況がとても辛かったです。1ヶ月間は遊覧船の営業を休止しましたが、食品加工事業のおかげでなんとか乗り切ることができたんです。

 

——コロナ禍が落ち着いてからは、客足も戻ったんでしょうね。

渡辺さん:ところが、それからすぐに知床岬での遊覧船沈没事故が起こったんですよ。その影響で入っていた予約のほとんどがキャンセルになってしまいました。その上、新しい法定備品の装備が義務付けられて、検査回数も増えました。負担が増えて大変ですけど、お客様の安全が第一ですからね。

 

——いろんな出来事があったんですね。

渡辺さん:いろいろありましたけど、地元の方々にはいつも助けられてきましたので、恩返しの気持ちで営業しているんです。漁業、観光業、お客様が循環できる「三方よし」の営業を心掛けています。あと、あまり観光地らしくならないよう、ありのままの姿を見てもらうことで、田舎に帰ってきたような気持ちを味わっていただけたらと思っています。お客様とのつながりも大切にしているんですよ。「また来たよ」といって年に何度も訪れてくれるお客様もいらっしゃるので、本当にありがたいと感じています。

 

 

 

笹川流れ観光汽船

村上市桑川975-44

0254-79-2154

8:00-17:00

不定休

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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