以前ご紹介した「パン屋 喜十郎」さんの駐車場スペース一角に、「しばた いも奉行」というお店があります。酒造として使われていた蔵を改装した店内はレトロな雰囲気でとても個性的。今回は店主の髙橋さんにお店のことや地域への思いなど、いろいろとお話を聞いてきました。
しばた いも奉行
髙橋 真博 Masahiro Takahashi
1970年新発田市生まれ。写真撮影業に20年ほど従事。行政の嘱託社員や介護職員を経て、2021年に「しばた いも奉行」をはじめる。2022年11月に現在の場所に移転。料理が得意で、新発田市のコンテストで優勝した腕前を持つ。
——髙橋さん、社会人デビューはカメラマンだったんですね。
髙橋さん:長岡や新発田の写真館で撮影から物販、いろいろ学ばせてもらいました。20年くらい勤めたけど、カメラのデジタル化が進んでだんだんおもしろみがなくなってきて。誰でもある程度上手に撮影できるようになって「どうしてもプロじゃなくちゃダメだ」って仕事も減ってきちゃったし、一旦カメラマンの仕事に区切りをつけて、それから市役所や警察の嘱託社員をしたり、介護施設に勤めたりしました。
——「いも奉行」はいつはじめたんですか?
髙橋さん:コロナ禍の最中、2021年だったかな。世の中が大変になっているから、どうにかならないかなってネットでいろいろ調べてみたら、大昔、芋で飢饉を救った人がいるって逸話を知ってね。新型コロナウイルスも芋で救えるんじゃないかと思ったんですよ(笑)。それに以前介護施設で働いていたときに、「芋が食べたい」って利用者さんが多かったんですよね。おじいちゃん、おばあちゃんだけじゃなくて、職員さんも「みんな芋が好きだよね。うちの子どもも大好き」なんて言っていたから、美味しい芋があれば喜んでもらえるのかなと思ったんです。
——そうは言っても、起業されるって思い切りがいるじゃないですか。
髙橋さん:「何かやれたら面白いだろうな」って程度の気持ちだったよ(笑)。だって人ってやろうと思えばなんでもできるじゃない。今までとまったく違うことでもやれば楽しいかなって、そんな感じでした。それに僕、写真もそうだけど、途中で別のことをやりたくなっちゃうの。料理が得意だし、やき芋だったら自分にもできるだろうと思ったんだよね。
——焼き芋屋さんだそうですが、店内は駄菓子屋さんのような賑やかな雰囲気がありますね。
髙橋さん:「地域全体で盛り上がろう」って店だから、「喜十郎」さんとコラボしたラスクだとか、新発田の洋菓子店「Dolci」さんにここで焼いた芋を加工してもらった「いもパイ」なんかもあります。雑貨は地元の作家さんのものですよ。
——暖かくなりましたが、今も焼き芋は販売していますか?
髙橋さん:5月いっぱいは販売できるかな。地元のさつまいもを使いたいと思っているから、新発田産の芋からはじめて、それがなくなったら胎内産、北区産を選ぶようにしているの。今は長岡の芋だね。芋がなくなったら今期の焼き芋販売は終了です。
——旬のお野菜もありますね。
髙橋さん:「近くのスーパーが閉店しちゃって不便になった」って声を聞いてね。僕は野菜屋じゃないからいっぱい置くことはできないけど、そう言われたら仕入れてくるしかないよね。
——この木彫りの熊は……?
髙橋さん:それは自然に集まってきたの(笑)。芋をくわえた熊を自作して飾っておいたら、「家にもあるよ」っていつの間にかこんなにたくさん集まってきちゃった。
——壁一面の色紙も気になります。
髙橋さん:芸能人のサインはひとつもないですよ。ぜんぶ町の人のサインです。ご年配の人はInstagramなんてやらないでしょう。でもこのサインを飾っていると「あの店は何? これは誰?」なんていうふうにアナログのSNSみたいになるんだよね。
——なんだか焼き芋屋さんじゃないみたいです。
髙橋さん:地域のための集いの場所みたいな感じだよね。公民館までとはいかないけど、人が集まるちょっとしたスペースになっていると思います。芋をモチーフした飾り物はお客さんの手作りだし、みなさんがお店を作ってくれているんだよね。ここにある大黒様だっていつの間にかご加護があるものみたいになっちゃって。「宝くじが当たった」「パワースポットだ」なんて、足元にお賽銭が置かれるようになってね。それでお客さんが喜んでくれるのが嬉しいですね。
——「いも奉行」をはじめて、地域との関わりは深くなりました?
髙橋さん:大きな変化はそれほどないけど、おじいちゃん、おばあちゃん、若い人も、ここへ来た人とは仲良くなれるから面白いね。愚痴を言いたい人、相談ごとがある人も寄ってくれるし、ここがストレス発散できる場所になればいいなと思っているんだよね。
——髙橋さんとお話すると元気が出るって気持ち、わかります。
髙橋さん:僕は「やればなんでもできるじゃん」って考えだけど、そうじゃない人も多いもんね。だけど誰かに話を聞いてもらうとみんな安心するみたい。ここでおしゃべりすることが、その人の何かしらのヒントになっていたら嬉しいよね。ちなみに僕、「こうしたらどう」って答えになるようなことは言わないの。だって自分で考えたことじゃないと頭に残らないじゃない。
——焼き芋シーズンが終わったらどんなことをする予定ですか?
髙橋さん:野菜スペースを拡張してもいいし、アイスクリームを販売してもいいなと思っているところ。そのときのアイディア次第だね。今は芋ブームみたいになっているから焼き芋屋さんって増えているんだけど、うちはそんなに宣伝もしないし、それほど知られていないんだよね。それなのにお客さんが来てくれるのはありがたいよ。スーパーもコンビニもある中で、うちを選んで来てくれるんだもん。
——そういえば、南区の「SHIRONE いもBugyo」さんは「いも奉行」の系列店だそうですね。
髙橋さん:今の時点で暖簾分けしているのは「SHIRONE いもBugyo」だけだけど、この秋にもう3つ増える予定があるの。5店舗もあるんだから、面白い展開を作れるんじゃないかと思いますよ。運営する人の個性を生かしたお店になるだろうから、それぞれまったく違う「いも奉行」になるのがすごく楽しみでね。最初から完璧なお店に作り上げなくてもやっているうちに完璧に近づいていく。その過程を応援するのも楽しいんだよね。商売ってさ、絶対優しさが必要だと思うの。農家さん、お客さん、関わっている人すべてに優しさがないと終わるんさ。優しさなんてビジネスには必要ないって人もいるだろうけど、僕は絶対優しさが必要だと思っている派だね。
しばた いも奉行
新発田市諏訪町3-10-10