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酒粕酵母パンもお酒もある、かつて酒蔵だった「パン屋 喜十郎」。

パン好きのオーナー、白勢さんが長年の夢を叶えてはじめた新発田の「パン屋 喜十郎」。祖先がかつてこの場所で酒蔵を営んでいたことにちなんで、酒粕酵母を使ったパンやラスク、地元の日本酒を置いているユニークなお店です。この地域の歴史も含めて、いろいろとお話を聞いてきました。

 

パン屋 喜十郎

白勢 弥太郎 Yataro Shirose

1976年新発田市生まれ。コンピュータ関連の専門学校を卒業後、IT企業へ就職。いくつかの仕事を経て、32歳でコンビニ経営をはじめる。2022年3月「パン屋 喜十郎」をオープン。パンが大好きで毎日必ずパンを食べる。

 

「喜十郎さん」がはじめた酒蔵が、出会いに導かれパン屋さんに。

——さっそくですが、「喜十郎」という渋めの店名が気になっていまして。どんな意味が込められているのか教えてください。

白勢さん:ここ諏訪町はその昔「上鉄砲町」という鉄砲鍛冶の町でした。我が家の歴史を辿っていくと中条の方から「上鉄砲町」に移り住んで、当時は大砲を作っていたそうです。それから何代か後、僕の先祖である喜十郎さんがここでお酒づくりをはじめて、それから酒屋や小売店としてやってきました。そんな場所でパン屋をはじめたので「喜十郎」と名付けたんです。

 

——そんな歴史があったんですね。確かに趣が感じられる街並みです。ところで、白勢さんはどうしてパン屋さんをはじめようと?

白勢さん:実は「喜十郎」の他に、新発田市内のデイリーヤマザキを経営しているんです。そこでパンの店内調理をやってみたらすごく面白くって。大のパン好きだし「いつかはパン屋さんをやってみたい」とずっと思っていました。

 

 

——じゃあ、長年の夢が叶ったわけですね。

白勢さん:運よくご縁にも恵まれて、昨年「喜十郎」をオープンすることができたんです。

 

——その「ご縁」というのは?

白勢さん:何年も前に、異業種交流会でパン職人の笹川くんと知り合ったんです。私が「いつかパン屋をやりたいと思っている」と伝えたら、「じゃあ、そのときは僕がいろいろ教えますよ」なんてやりとりから仲良くなって。一昨年、「コンビニ以外にも何かやりたい」と相談したところ、彼が「ちょうど職場を辞めようと思っているんです」と言うんですよ。なんてすごいタイミングなんだと思いました。それで、笹川くんに「喜十郎」のパン職人として働いてもらうことにしたんです。私がいちばんやりたいことはパン屋でしたけど、パン屋をやるよりこれまでの事業を拡大する方が手堅いだろうと、なかなか決断できずにいたんです。だから笹川くんにちょうどいい時期に背中を押してもらいましたね。

 

チェーン店と個人経営。どちらも知っているオーナーの思い。

——パン屋さんに興味を持ったのには、「パンが好き」という以外の理由もあったのでは?

白勢さん:主食であるパンはまだまだ伸びるだろうという考えがあったのと、好みに合わせてアレンジできるところに魅力を感じていました。コンビニではマニュアル通りに調理しなくてはいけないけど、個人経営のパン屋なら皆さんに喜んでもらえるようにいくらでも工夫できそうだと思ったんです。

 

——どんなお店にするか、構想はお持ちだったんでしょうか。

白勢さん:酒屋があった場所でスタートするのだから、何かしらお酒にちなんだパンを作りたいとずっと考えていました。それで酒粕酵母を使ったパンや、地元の酒蔵さんとコラボしたラスクを置いているんです。

 

 

——お店には日本酒やビールもありますよね。それに駄菓子コーナーも。

白勢さん:小売店だった名残からいろいろ置いています。お客さまに少しでも「楽しい」と思ってもらいたくて。でもパンを目当てにいらっしゃるお客さまがほとんどで、どんな店づくりをするべきなのか、いまだに試行錯誤しています(笑)

 

——いちばんの売れ筋はどのパンですか? やっぱり「酒粕のバゲット」?

白勢さん:「酒粕のバゲット」は人気ですけど、作る数が限られているんです。売れ筋は「湯種仕込みの山型食パン」「喜十郎食パン」、ドライフルーツがたくさん入った「森の恵みブレッド」ですね。

 

——新商品は積極的に作っているんですか?

白勢さん:一緒に働く妻がたくさんアイディアを出してくれます。でも私自身は「新商品」にあまりいいイメージを持っていないんです。コンビニでは頻繁に商品の入れ替えがあるし、手作りパンも毎月新しくリリースされます。覚えるのが大変で、従業員さんに苦労をかけちゃうでしょう。だからなんとなく新商品を加えることに遠慮しちゃうんです。

 

地域と密接に関われることも、パン屋の面白さ。

——もうすぐオープンされて1周年ですね。

白勢さん:あっという間の1年でした。コンビニとは少し違って、ここではお客さまとの距離が近い感じがしてすごく楽しかったですね。

 

——コンビニとパン屋さん、異業種を掛け持ちしていらっしゃるからお忙しいと思いますが、「楽しい」なんてポジティブですね!

白勢さん:あまり苦痛は感じないタイプで、面白いことばかりに関心が向くんですね。そういう意味で、二足の草鞋を履くのは向いているかもしれません。

 

 

——さて最後に、これからチャレンジしたいことを教えてください。

白勢さん:この辺りをもっと盛り上げたいと思っています。以前から地域活性に向けた活動には携わっていましたが、チェーン店だとそこを頑張るメリットがあまりなくて。だけど個人店ならより地域と密接に関われるし、そもそも地域全体が盛り上がらないとお店がうまくいかないっていう一面があると思うんです。

 

——なるほど。その通りかもしれません。

白勢さん:地元企業と協力した商品もいくつかあるんですよ。「王紋酒造」さんのワンカップをモチーフにしたラスク「オウモン ラシュク」や「王紋酒造」さんの梅酒に使われる梅の実を使った期間限定のシュトーレン、「月岡ブルワリー」さんと共同で作っているバンズなど。駐車場の隣にある蔵では「いも奉行」という焼き芋屋さんに入ってもらっていて、そこで販売する焼き芋味の「お代官ラスク」も「喜十郎」で作っています。地域の皆さんとつながって、いつかはここでイベントみたいなことをやりたいですね。

 

 

 

パン屋 喜十郎

新発田市諏訪町3-10-7

0254-28-8755

9:00〜18:00(月・火定休)

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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