加茂の特産品・桐タンスの伝統を守り続ける「鈴木石太郎タンス店」。
ものづくり
2024.11.09
高度な技術で作られる上質な製品であるにも関わらず、時代に合わなくなったり後継者が育たなかったりして、淘汰されていく伝統工芸はたくさんあります。本当にもったいないことだと思いますが、なかなか難しい問題ですよね。今回はそんな伝統工芸品のひとつ「加茂の桐タンス」を作り続けている「鈴木石太郎タンス店」を訪ねました。細い路地の先に辿り着いたのは、歴史を感じさせる工房と古民家をリノベーションしたギャラリーでした。


鈴木石太郎タンス店
鈴木 浩昭 Hiroaki Suzuki
1961年加茂市生まれ。日本体育大学卒業後、加茂市役所に勤務。1986年より家業の「鈴木石太郎タンス店」でタンス職人として働きはじめる。趣味は子どもの頃からずっと続けているスキー。
手仕事にこだわった、伝統工芸品の桐タンス。
——店名になっている「鈴木石太郎」というのが創業者の名前なんでしょうか?
鈴木さん:そうです。明治の半ばに曽祖父の石太郎が「鈴木石太郎タンス店」をはじめました。以前は加茂市内に桐タンスがたくさんあって、「鈴木タンス店」も3軒くらいあったそうです。そこで区別しやすいように「鈴木石太郎タンス店」とつけたんですよ。現在残っている加茂の桐タンス店では最も古い店になるんじゃないかな。
——ずいぶん細い路地裏にありますけど、以前からこの場所で営業していたんでしょうか?
鈴木さん:当時は向かいにあった自宅でタンスや建具を作っていたんですが、手狭になったためこちらに工房を作ったんです。

——「鈴木石太郎タンス店」では、どんなことにこだわって桐タンスを作っているのか教えてください。
鈴木さん:うちの桐タンスはすべてオーダーメイドなので、お客様のご要望を大切にしながら形にしていきます。木を切る作業は機械でおこないますが、それ以外はすべて手仕事なんですよ。枠に対して引き出しを少し大きめに作って、それを削りながら隙間が開かないよう大きさを微調整するんです。
——けっこうシビアに調整するんですね。
鈴木さん:だから同じ枠じゃないと引き出しがはまらないんですよ。左右どちらかの引き出しを閉めるとどちらかが飛び出すんですが、これは空気の逃げ場がないから起こる現象なんです。
——わっ、本当だ。右を閉めたら左が飛び出してきましたよ(笑)
鈴木さん:どれだけ精度よく作って削る部分を少なくするかが、タンス職人の腕の見せどころだと思っています。金具以外は、すべて自分で作っているのもこだわりかな。最後の塗装までやるところは少ないんですよ。

現代人の生活スタイルに合わせた桐タンスを生み出す。
——他にもこだわりがあったら教えてください。
鈴木さん:新潟県産の桐だけを使うようにしていますね。桐っていうのは埃や湿気、カビ、色あせを防いでくれるんです。特に湿気を吸ったり吐いたりして調節してくれるんですよ。
——自然を生かした家具なんですね。そんな桐材を使う上で、気をつけていることってあるんでしょうか?
鈴木さん:桐は柔らかい木材なので、切れ味のいい刃物を使わないと綺麗に作ることができないんです。
——繊細ですね。ところで最近はなかなか桐ダンスを見る機会が少なくなった気がします。
鈴木さん:加茂をはじめとした県央地区では桐が多く採れたので、230年くらい前から桐タンスが作られてきたんです。私が実家で働きはじめた頃でも30軒ほどタンス店がありましたが、今では組合に入っているタンス店が12軒しか残っていません。その原因はやはり時代の流れによる、生活スタイルの変化にあるんでしょうね。

——それはどういうことでしょう?
鈴木さん:まずは着物を着る習慣がなくなったことですね。それと以前は結納金で嫁入り道具を揃える風習がありましたが、今では結納自体がおこなわれなくなりましたからね。
——本来は着物を収納する家具だったんですもんね。
鈴木さん:そうなんです。それから、小家族化に伴い大きな家に住む家族が減ったり、洋風の生活スタイルが増えたりしたように、住宅環境が大きく変化したことも原因だと思うんです。ウォークインクローゼットのように、あらかじめ収納スペースが設けられていることもありますからね。
——桐ダンスは現代人の生活に合わなくなっていったんですね。
鈴木さん:だから最近では、材料や製法は昔のまま、時代に合わせたデザインの桐ダンスを製作しているんです。また現代の生活スタイルに合うよう、古い桐タンスを現代風にアレンジしてリメイクする仕事も多いんですよ。捨てることは簡単かもしれないけど、大事にすれば100年以上使える道具ですからね。

地域がひとつになって、桐タンスを盛り上げていきたい。
——こちらの建物はギャラリーになっているんですよね。
鈴木さん:亡くなった叔父の家を、自分たちでリノベーションしました。でもその最中に中越地震が起こったので、あちこち曲がってしまったんですよ。
——職人さんだから大工仕事はお手のものだったんですね(笑)。どうしてギャラリーを作ろうと思ったんですか?
鈴木さん:今は桐タンスの実物を見られる場所が、どこにもなくなってしまったんですよ。ぜひ実物に触れてその素晴らしさを知っていただきたいと思って、このギャラリーを作ることにしました。

——確かに素敵な桐タンスが展示されていますね。それだけではなくて、変わった雑貨も並べられていますが……。
鈴木さん:そうなんです。手軽にお求めいただけるような、桐材を使った小物もご用意しているんですよ。琴の材料に桐が使われていて柔らかい音を出すことからヒントを得て、スマートホン用の「エコスピーカー」を作ってみました。また、湿気を通さない桐の米びつからヒントを得て、コーヒー豆を入れるキャミスターも作ったんです。


——工房の見学もできるんでしょうか?
鈴木さん:事前にご予約いただければ対応します。今では加茂市の町歩きルートにも選ばれているので、ギャラリーを作ってよかったと思っています。
——加茂の特産品である桐タンスの伝統が、いつまでも続いてくれるといいですね。
鈴木さん:桐タンスが売れなければ、桐の植樹をする人や部材を作る人など、多くの人が食べていけなくなるんです。若い頃は自分の店の売上げだけを考えていたんですけど、今は加茂全体で桐タンスを盛り上げていかなければと思っています。そのために「桐タンスまつり」といったイベントの開催にも取り組んでいるんです。
——それは素晴らしい。
鈴木さん:東京の広告代理店で働いていた息子が、タンス職人になるために帰ってきてくれたんです。店のホームページやSNSは息子が管理してくれているんですよ。兄の子もタンス職人として働いてくれているので、いずれは力を合わせて「鈴木石太郎タンス店」を盛り上げていってくれると嬉しいですね。

鈴木石太郎タンス店
加茂市新町2-8-18
0256-52-0994
10:00-18:00
不定休
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