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農薬や肥料を使わないお米で作った「たなか農園」の手作り味噌。

「手前味噌」っていう言葉をご存知でしょうか。言葉の意味としては「自慢をすること」なんですが、その意味のもとになっているのは、それぞれの家庭で作られていた自家製味噌のことなんです。各家庭ごとに棲んでいる菌が違うから、味噌の味も変わってくるのだとか。それを自慢し合っていたことからできた言葉なんですね。新潟市の江南区には、味噌を作って販売している「たなか農園」という農家があります。農薬や肥料を使わずに栽培した米や大豆を使って、昔ながらの製法で味噌作りをしているんです。今回は味噌加工所にお邪魔して、代表の田中さんに農業や味噌作りについて聞いてきました。

 

 

たなか農園

田中 洸次 Kouji Tanaka

1983年新潟市江南区生まれ。東京にある農業大学の国際農業開発学科で学び、郡山の酒造メーカーで酒米栽培や糀作りを担当。その後新潟に戻って「カガヤキ農園」で新潟の農業について学ぶ。2013年に「たなか農園」を立ち上げ就農。以前は読書が趣味で、ビジネス書から小説まで幅広く読んでいたが、今は農業が忙しく読書の時間がない。

 

田中さんが農業に目覚めるまでのお話。

——「たなか農園」はいつ頃から続いている農家なんですか?

田中さん:うちのおじいさんまでは農業をやっていたんですけど、父親は農協職員で農業をやっていなかったんですよ。田んぼもほとんど持ってなくて、持っている田んぼも親戚に貸している状態だったんです。

 

——それを田中さんが復活させたんですね。どんないきさつで農業をやろうと思ったんですか?

田中さん:中学3年生のときにボーイスカウトの海外派遣でケニアに行ったんです。そのとき目の当たりにしたケニアの貧しい状況にカルチャーショックを受けて、東京にある農業大学の国際農業開発学科に入学したんです。そこでは発展途上の国々に農業を通じて貢献する方法を学びました。

 

——農業は農業でも、なんか壮大な勉強をやってたんですね。

田中さん:そうですね(笑)。最初は農業自体にはそれほど興味がなかったんです。でも実習でいろんな農業を体験したり、勉強したりするうちに農業が楽しくなってきたんです。それで卒業後は郡山にある酒造メーカーに勤めることにしました。

 

 

——ん、と、ちょっと待ってください。農業が楽しくなってきたのに、どうして酒造メーカーに?

田中さん:その会社には酒の原料米を栽培する自社田があったんですよ。私はその自社田を任されました。夏は田んぼで米作りをして、冬は酒の仕込みに使う糀作りを担当していたんです。

 

——ああ、なるほど。で、その経験が今の仕事にも生かされてるんですね。

田中さん:厳密にいうと酒と味噌の糀は違うものなんですけど、基本的な考え方は一緒ですからね。新潟に戻ってきてからは、「カガヤキ農園」さんで働いて、新潟の農業のやり方、野菜の栽培、農業経営の勉強をさせてもらいました。今でもわからないことがあると「カガヤキ農園」さんへ相談に行ってるんです。

 

田んぼや機械が少なく、最初は苦労した農業。

——おじいさんが農業をやっていらしたとはいえ、田中さんはゼロから農業をやったようなもんなんですよね?

田中さん:そうですね。うちの田んぼは少なかったから、人の田んぼを借りたりしてお米を作ってました。だから最初のうちは農業だけで食べていけなくて、農協で配送のアルバイトをしてましたね。で、2年3年と経つうちに離農した農家の田んぼが増えていったんです。最初は田んぼがあちこちに分散していて作業効率が悪かったんですが、田んぼを交換したりしてまとめることができて、作業効率も良くなっていきました。

 

——農業って、土地だけじゃなくて機械にもお金がかかりますよね。

田中さん:はい。1年めにトラクターを1台だけ買ったんですけど、その他の農業機械はまわりの農家に貸してもらいながらやってました。機械を貸してくれただけじゃなくて、人手まで貸してもらえて、いろいろと応援してもらいましたね。本当にありがたいと思ってます。

 

 

——田中さんは具体的に今どんな農業をやっているんですか?

田中さん:農薬や肥料を使わずにお米を作っています。農薬を使うことで土に負荷がかかりますし、川に流せば水が汚れるわけですから、環境のことを考えれば使わないにこしたことはないですよね。肥料を使わないことで自らの生命力だけで育つ稲を目指しています。でも今はいろいろと試行錯誤している段階です。自然の力が左右するから、失敗する田んぼもあれば成功する田んぼもあるんです。でも可能性は感じてますよ。

 

ごまかしのない材料でしっかり作る農家の味噌。

——「たなか農園」では味噌の製造販売をやってるんですよね。

田中さん:農閑期の冬にできる仕事として考えたのが味噌作りだったんです。最初は農協の加工所を借りて作ってたんですけど、夜中の見回りに行くのも大変だし、規模が大きくないので生産数が追いつかなくなってきて、自宅に加工所を作ったんです。

 

——どんな特徴の味噌を作ってるんですか?

田中さん:ひとことでいえば「農家が作っている味噌」です。ほとんどの材料は自分の田んぼや畑で採れたものだし、大豆、米、塩くらいしか使っていないシンプルな味噌なんです。でも米を8割使った昔ながらの製法で作っているので、しっかりした味噌だという自信はあります。言い換えれば、材料をごまかしていないと言いますか……。

 

 

——ここに並んでいるのが「たなか農園」の味噌ですか。いろいろな種類があるんですね。

田中さん:「毎日味噌」が一番ベーシックな味噌になっていて、「毎日の食事に使ってほしい」っていう思いでつけた品名なんです。反対に「おもてなし味噌」は贈りものとか、ちょっと特別なお客さんへの料理とか、そんなときに使ってほしい高級味噌です。そのほかにイベント限定で「麦味噌」とか「豆味噌」とかも販売します。

 

——へ〜、いろんな味噌を作っているんですね。どこで売ってるんですか?

田中さん:「毎日味噌」は「いっぺコート」「キラキラマーケット」「カガヤキ農園」で売っていただいていますし、「おもてなし味噌」は「ナチュレ片山」などの農産物直販所で売っていただいています。

 

今の若い農家は、みんな一生懸命です。

——今後はどんなふうに農業を続けていきたいですか?

田中さん:栽培技術を高めて質のいい農作物を作っていきたいですね。ちょっと改善するだけで劇的に結果が変わって来るのが農業の面白さでもあります。そのためにも農家が共同してやることも大事だと思います。1軒だけではできないことも、集まってやることでいろんな可能性が出てくると思うんです。お互いにいい刺激にもなりますからね。今の農家って兼業では食べていけないんです。一生懸命やるか、それとも辞めるか、そのどちらかだから、若い農家はみんな一生懸命ですよ。

 

 

味噌作りの加工所へ取材にお邪魔した日は、蒸らした米糀を樽に入れる作業をしていました。ご夫婦揃って味噌作りに励む姿はとてもアットホームで、それも味噌の味になっているのかもしれないと思いました。農薬を使わない自家栽培米で、しっかりと作られた「農家の味噌」。日本の食卓には欠かせないものだからこそ、美味しい味噌を使いたいですね。

 

 

たなか農園

〒950-0211 新潟県新潟市江南区横越川根町1-11-28

025-385-3381

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