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僕らの工場。#13 「株式会社テーエム」の黒染め技術

鉄やステンレスを黒く染める、特殊な技術を持つ工場。

新潟の三条市といえば、金物産業が世界的にも有名ですよね。そんな金物の街三条市のなかでも「金物を黒く染める会社さんといえば…」で知られているすごい会社があります。今回は「株式会社テーエム」さんの工場に取材に行ってきました!

 

株式会社テーエム

渡辺 竜海 Watanabe Tatsumi

代表取締役。1978年生まれ。黒染め、パーカライジング専門社「株式会社テーエム」の3代目代表。22歳で入社し、知識ゼロから下積みを経験。31歳の若さで同社代表に就任する。下積み時代から全国的に成功事例の少ないステンレスの黒染め技法構想や自社ブランド開発の構想を計画し、代表に就任したタイミングでその構想を次々と実現させる。全国でも数社しかいない黒染め技術をもつ会社としての価値創造とブランド化に成功。

 

塗装とは違う、製品の寸法に影響しない「染め」の技術。

ーー創業が昭和35年とお聞きしていたのですが、まずはその当時について教えて下さい。

渡辺さん:私の祖父が始めたのですが、ここの工業団地が昭和35年にできて、そのタイミングで法人化して会社を構えたのが創業の経緯です。ただ、会社のはじまりは、その前に個人的に自宅の車庫で金物関係の仕事をしていたのが最初と聞いています。

 

ーー会社のお仕事としてはどういうことをしていますか?

渡辺さん:うちの会社は「鉄の黒染め」を専門に行なう会社です。「錆止め」「光の反射を抑えたい」「美観の向上」といった目的のために、四三酸化鉄処理という方法で鉄の製品を黒く染め上げる技法と、パーカライジングといって防錆(錆止め)や塗装ののりを良くする下地加工の仕事をしています。

 

ーーけっこう特殊なことなんですか?

渡辺さん:そうですね。鉄の黒染め加工は鉄自体に浸透させて色を出します。なので、品物本来の寸法はほとんど変わらず黒に染められるのが、私たちのやっている黒染めです。美観を求めたい、製品の肉厚をかえたくないというお客様はこの黒染めを採用してくれます。

 

 

ーー「染め」というのは、塗装と違って、鉄自体に浸透させているんですね。勉強になります。

渡辺さん:塗装と違って皮膜が剥がれがないのも特徴ですね。あと、鉄を使い込んだり年月が経つと経年変化しますので、黒の風合いがまた変わってくるという特徴もあります。それを経年美としてデザインする商品もあって、そういうときに好まれて使っていただいていますね。

 

ーーたしかに、塗装とはまた違う「鉄の風格」が感じられます。

渡辺さん:ありがとうございます(笑)

 

試行錯誤で「ステンレスの黒染め」に成功。

ーーところで、こちらのテーエムさんは全国でも数社しかできない技術をお持ちだとか?

渡辺さん:「ステンレスの黒染め」のことですね。

 

ーーはい、実は調べてきました(笑)。ちなみにその技術はずっと以前からお持ちの技術なんですか?

渡辺さん:いえ、私が5年前に試行錯誤をして、製品化したものになります。そもそも、「ステンレスを染めるのは難しい」と業界では言われていたんです。私は22歳でこの会社に入社して、下積みをしながら鉄の黒染め技術を学んでいって、職人としてある程度できるようになって、31歳のときにこの会社の代表となりました。実は20代の頃から先代から代表になるよう薦められていたんですけど、まだ気持ちの整理がつかなくて断り続けていました。でも早くからそんな話があったので、代表になる自覚を持って目標を決めていたんです。その目標のひとつがこの「ステンレスの黒染め」でしたね。

 

ーー難易度の高いことへのチャレンジを考えられていたんですね。

渡辺さん:そうですね。これからは自社の強みを持ちたいという考えもありましたので、「ステンレスの黒染め」を試してみたんです。最初は、鉄も染められるから簡単でしょ!ってノリでしたけどね…。実際にやってみるとまったく染まらないんですよ(笑)。工程的には鉄の黒染めと一緒なんですけど、黒く染め上げるのは染時の「時間」と「温度」と「濃度」の調整が大事なんです。そのすべての条件が当てはまってはじめて黒く染まるんですけど、その条件が鉄の場合は許容範囲に余裕があるものの、ステンレスだとそれがかなりシビアになるんです。

 

ーーそのタイミングでしか染まらない、と。

渡辺さん:その通りですね。実際、最初はステンレス染め専用の液をメーカーから仕入れたんですけど、そのメーカーさんのマニュアル通りにやっても染まらないんです。メーカーさんもステンレスの黒染めは難しいと知っているので、一緒に試行錯誤しながら、ときには、マニュアルとまったく違った方法も試しました。だから、最初に黒く染まったときは感動でしたね。

 

ーーまるでドラマみたいです。そこまでいくのに実際にどのくらいの期間がかかったんですか?

渡辺さん:技術として完成させるのに1年かかりました。でも今でも難しいこともありますし、時期、気候、ステンレスの種類によっても左右される技術なので、数値化するのがほぼ不可能なんですね。だから、誰でもできる技術じゃなくて、すごく感覚的な技術なんだと思います。私たちはこの黒染め技術を、ブランド「玄(GEN)」として、自信と誇りを持って取組んでいます。

 

風合いや経年美をじっくり楽しめる、黒のテーブルウェアブランド。

ーーザ・職人さんという感じですね。そして、そのステンレスの黒染をコンセプトにしたオリジナルテーブルウェアブランド「96(KURO)」が誕生したと。

渡辺さん:はい、これも当時から描いていた構想のひとつです。ステンレスの黒染めという特徴と、黒染めがもつ風合い、美観、経年美などを楽しんでもらえるテーブルウェアを作りました。これは完成してまだ1年半ですが、色々な展示会、店舗さんから良いお声をいただいていて、黒染めが見せる独特の表情を楽しんでもらえたら嬉しいなと思っています。

 

ーー風合いが変わっていくお皿なんか、とても素敵ですね。家具みたいに経年変化をたのしめるテーブルウェアって素敵だと思います。

渡辺さん:ありがとうございます。

 

ーー最後に、今後の目標などあればお聞かせ下さい。

渡辺さん:そうですね。まずはこの「96(KURO)」のアイテム数を増やして、より多くの方に、使いやすい魅力的なアイテムとして知ってもらいたいと思ってます。あとは、このブランドの成長と共に海外にもどんどん発信をしていきたいと思っています。

 

 

とても丁寧で優しく受け答えをしてくれた渡辺さん。社員さんの雰囲気も良くて、皆さんがイキイキとして働いていることが印象的でした。きっと将来、「96(KURO)」は海外で人気が出るんだろうなぁという気がします。ちなみにネットでも購入ができるそうですよ。気になる方はぜひチェックしてください。

 

「96(KURO)」販売サイト

 

 

(取材日:2020年4月3日)

 

 

株式会社テーエム

新潟県三条市金子新田丙967

0256-33-1200

HP

 

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