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一本一本に精魂を込める、焼鳥職人。岩室温泉の「岩室 とり蔦」。

開湯300年以上の歴史を持つ「岩室温泉」。北国街道沿いにあるということや、新潟市街から手軽に訪れることができるということもあって、古くから温泉街として賑わってきました。新潟の芸妓発祥の地とも言われ、「岩室芸妓」でも有名です。そんな「岩室芸妓」ゆかりの場所で「岩室 とり蔦(つた)」という焼鳥屋さんが開店しました。今回は店主の岩田さんにお店のこだわりを聞いてきました。

 

 

岩室 とり蔦

岩田 靖彦 Yasuhiko Iwata

1981年東京生まれ仙台育ち。東京で居酒屋、日本料理店、串焼き店を経験した後、新潟に移住し「株式会社リトモ」に入社。「三条スパイス研究所」をはじめ、「灯りの食邸 KOKAJIYA(こかじや)」「彦助白炭(ひこすけはくたん)料理店」に関わる。2021年5月より岩室温泉で「岩室 とり蔦」を開店。

 

芸妓さんが営んできた小料理屋が、焼鳥屋として生まれ変わる。

——細い路地にあって、ちょっと隠れ家的なお店ですね。

岩田さん:以前は芸妓の蔦姐さんがやっていた「蔦や」っていう名の住居を兼ねた小料理屋だったんです。だから店名も「蔦」の字をとって「岩室 とり蔦」としました。

 

——改築の際にこだわったのはどんなところですか?

岩田さん:一番こだわったのは広くて長い白木のカウンターですね。壁は珪藻土(けいそうど)を自分たちで塗りました。コーティングされた建材は使わずに、汚れやすくても本物の木や土を使った店作りをしています。

 

 

——そのこだわりのせいか、とっても落ち着く空間ですよね。カウンターがフラットだから調理の様子も見えるし、ライブ感がありますね。

岩田さん:ありがとうございます。このカウンターのおかげで、お客様とのコミュニケーションもとりやすいですね。でも食事の邪魔はしたくないし、居心地よく過ごしていただきたいので、お客様との間合いには気をつけています。あと、偏ることなくすべてのお客様に気を配るようにしていますね。

 

お品書きの文字で、修業先の日本料理店を決める。

——岩田さんはどういういきさつで料理人になったんですか?

岩田さん:若い頃はライターや小説家といった物を書く仕事に憧れていたので、東京の編集社でライターアシスタントをやっていたんです。でも、それと同時にまかない目当てで居酒屋のアルバイトをはじめたら、そのまま飲食業にハマっていったんですよね。よくある「飲食業あるある」です。

 

——それって「あるある」なんですか?(笑)

岩田さん:(笑)。最初は無国籍料理の店で働いてみたんですけど、自分には日本料理の方が向いている気がしたから、修業先を探していろいろな日本料理店を回りました。最終的には、お品書きの文字が気に入ったお店で修行させてもらおうと決めたんです。

 

——え、料理の味じゃなくてお品書きの文字で?

岩田さん:文字から伝わってくるものってあるんですよ(笑)。それで「働かせてほしい」って飛び込みでお願いしたんですけど、「うちは小さい店だから」って断られちゃったんです。でも諦めきれなかったから、それから何度もお願いしては断られ続けました。最後は自分の覚悟を示そうと、ロン毛だった頭を丸めてお願いに行ったんです。

 

 

——おおっ! すごい意気込みですね。

岩田さん:僕の覚悟をわかってもらえたんですけど、でもそのお店で雇うことは無理だからということで、知り合いのお店を紹介してくれたんです。

 

——それはよかったですね。 紹介してもらったお店はどんなところだったんですか?

岩田さん:有名な高級日本料理店でした。よく漫画に厳しい調理場が描かれているじゃないですか? あれを遥かに超えるような厳しい環境で、正直うれしかったです。

 

——えっ、厳しい職場なのにうれしかったんですか?

岩田さん:どうせ修行をするんだったら、厳しい環境で鍛えられたいと思っていました。厳しい職場を経験しておけば、その後はどんな逆境にも耐えられるじゃないですか(笑)

 

一本一本に精魂を込める、焼鳥職人の道へ。

——日本料理から焼鳥の道に向かったのはどうしてなんですか?

岩田さん:子どもが生まれたのを機に、自分の進むべき道をしっかり決めておこうと思ったんです。そのときに自分が一番やりたいことは何なのか考えてみたら、焼鳥がやりたいことに気づいたんですよ。

 

——どうして焼鳥?

岩田さん:焼鳥の味が好きなのはもちろんだけど、「焼鳥屋」っていう空間が好きだったんです。焼鳥を焼く職人さんの姿に憧れていたんですよね。それから、一本一本に精魂を込める仕事の方が、自分には向いていると思ったんです。だから自分で焼鳥屋をやるために、都内の串焼屋で9年間修行して、最後は店長までやらせてもらいました。

 

 

——岩田さんは職人気質なんですね。その串焼屋さんで修行した後はどうしたんですか?

岩田さん:子育てのために奥さんの実家がある新潟に来ました。そこで飲食店の経営やケータリング事業をやっている「株式会社リトモ」の熊倉さんと出会って、「三条スパイス研究所」のオープニングスタッフとして立ち上げから参加することになったんです。

 

——あれ? 焼鳥じゃなくてカレーですか?

岩田さん:焼鳥屋は自分でやりたかったから、他の人のお店で働きたくなかったんですよね。手伝うんだったら、まったく違ったジャンルの料理がよかったんです。「三条スパイス研究所」の後は「灯りの食邸 KOKAJIYA」を手伝ったり、「彦助白炭料理店」というキッチンカーの焼鳥屋をやっていました。

 

——キッチンカーということはイベントに出店するんですね。

岩田さん:僕らは自分たちのことを「ゲリラ焼鳥店」っていってました(笑)。イベントにも出店していたけど、個人宅にも突然出現したりしていたんです。それが「岩室 とり蔦」の前身ですね。焼鳥以外のいろいろな仕事をしていた時期もあったけど、そのブランクのおかげで焼鳥に対する接し方が変わりました。今はいい意味でリラックスできていて、焼鳥を焼くことが以前より楽しめるようになりましたね。

 

「瞬間を食べてもらうこと」にこだわる。

——「岩室 とり蔦」でこだわっていることを教えてください。

岩田さん:コンセプトは「瞬間を食べてもらう」ということです。焼きたてはもちろん、炊きたて、蒸し立ての料理を食べてほしいんです。だからお米も保温の効く電子ジャーではなくて竃(かまど)を使って炊いているんです。

 

 

——焼鳥に使っている炭にもこだわりはあるんですか?

岩田さん:もちろんです。硬くて火が長持ちする高知産の炭を使っています。炭を探しているときは魚沼まで見学に行って、実際に炭焼き体験までさせてもらいました。あいにく、そのときの炭はイメージと違ったので焼鳥には使っていませんが、その炭を混ぜ込んだ「炭化焼」の器を作家さんに作ってもらって、お店で使わせてもらっています。

 

 

——魚沼産の炭も違ったかたちで使っているわけですね。焼鳥についてのこだわりも教えてください。

岩田さん:鶏肉の切り出し、串の打ち込み、焼き加減、すべてにこだわりがあります。特に焼き加減は毎日違うので、いつも新しい発見があるんですよ。自分でも思いがけない焼き加減に出会うことがあるから、そんなときは、どうして上手くいったのか理由を考えるようにしています。

 

 

——へ〜! シンプルなのに奥が深いですね。焼鳥の話をしているとビールが飲みたくなってきますね(笑)。ちなみに焼鳥以外のおすすめメニューもお聞きしていいですか?

岩田さん:コースの最初に必ずお出ししている「焼胡麻豆腐」ですね。「胡麻豆腐」は、ほとんどの人が食べたことがあると思うんですけど、焼いたものは食べたことがないっていう人は多いんじゃないかな。焼くことで胡麻や葛の風味が際立つんですよ。

 

 

——「焼胡麻豆腐」って初めて食べました。風味はもちろん、ねっとりした食感もクセになりますね。

岩田さん:ありがとうございます。誰もが知っている料理の、意表をついた食べ方を提案したかったんです。

 

——では最後に、これからはどんなことをやっていきたいですか?

岩田さん:自分で鶏を育てたいとか、炭を作りたいとか、やりたいことはいろいろあるんですけど、その前に焼鳥職人として完成したいと思っています。そのためにも日々精進して、お客様に喜んでいただけるような焼鳥が焼けるよう成長していきたいですね。そして、いつかパリのエッフェル塔前で焼鳥を焼くのが夢です(笑)

 

 

岩田さんからお聞きするお話の端々に、ひとつのことを完璧に磨いていく「職人肌」なところを強く感じました。岩室温泉や弥彦山を訪れた際は、居心地のいい空間とこだわりの焼鳥を求めて、ぜひ「岩室 とり蔦」に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

 

 

岩室 とり蔦

新潟市西蒲区岩室温泉667-19

0256-78-8618

11:30-14:00/18:00-22:00

火水曜休

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