マグロを多くの人に「ツナ」げたい
「マグロ職人 鮪吉」

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2026.05.21

text by Kazuaki Yamazaki

寿司ネタや刺身で人気のある「マグロ」。日本海側最大級の新潟魚河岸で20年間マグロと向き合い続け、解体ショーやYouTubeの活動を通してその魅力を伝えているのが「マグロ職人」の鮪吉(ツナキチ)さんです。競りが行われる早朝の市場にお邪魔して、マグロの魅力や魚河岸への思いを聞いてきました。

Interview

鮪吉

Tunakichi(マグロ職人)

1976年新発田市生まれ。本名は田中吉彦(たなかよしひこ)。大学卒業後、キャンプ場の管理人や体育施設の管理兼トレーナーを経て、2004年に新潟中央水産市場株式会社に入社し、現在は営業部長を任されている。2022年からYouTubeで「ツナキチチャンネル」をスタートし、通販サイト「ツナキチ商店」をオープン。レゲエやコーヒーを愛する。

苦手な生臭い匂いのなかで、
吐き気と戦いながら勤めた初日。

――鮪吉さんは想像以上に身体が大きいんですね。

鮪吉さん:僕は小学3年生から大学まで柔道に打ち込んでいたんで。でも柔道をやめてからは目標を失ってしまったんですよね……。

 

――でもマグロと出会ったことで、新しく目標を持つことができた、ということですね。そもそも、どうして魚市場で働くことになったんでしょうか?

鮪吉さん:柔道関係のコネを使わずに仕事探しをしたかったので、ハローワークに通ったんです。そこでマグロをさばく姿の写真と「新潟中央水産市場株式会社」の求人を見つけました。

 

――マグロをさばく姿に憧れたんでしょうか?

鮪吉さん:それもありましたけど、混んでいる道路を車で通勤するのが嫌だったので、朝早くからの勤務時間に惹かれたんです。その分、早く帰れるし(笑)

 

――なるほど(笑)。入社してすぐにマグロを担当したんですか?

鮪吉さん:最初は柔道で培った体力を買われて、荷物運びをやっていました。でも生臭い匂いが苦手だった上に、前の職場の送別会で前の日に飲み過ぎたしまって……、初日は吐き気と戦いながら働いていました。

 

――それは大変でしたね……。

鮪吉さん:数日働いて、とうとう我慢ができなくなって、辞める意思を会社に伝えようとしたんです。ところが、一緒に働いていた人が先に「辞めさせてください」と切り出したもんだから、僕は言えなくなってしまったんですよ(笑)

 

――(笑)

鮪吉さん:でも、その後は自分の根性のなさを反省しました。そこで会社に頼んで、憧れていたマグロを担当させてもらうことにして、それからマグロの魅力にどんどんハマっていったんです。

 

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魚市場に勤める者として、
大切にしていること。

――魚市場の仕事は朝早くからはじまりますけど、鮪吉さんは何時に寝て何時に起きているんですか?

鮪吉さん:21時から22時に寝て、夜中の1時に起きます。誰よりも早く市場に来て、マグロを目利きしながら下付けをして、「相対(あいたい)売り」と呼ばれる直接交渉で品質の良いマグロを手に入れているんです。

 

――良いマグロを手に入れるには苦労するんですね。目利きは誰かに教わったんでしょうか?

鮪吉さん:僕に仕事を教えてくれた師匠が半年くらいで会社を辞めてしまったので、そこからはとにかく経験を積むことで学びました。お客様やマグロ関係者、それから会社にはずいぶん助けてもらってきたんですよ。本当に感謝しています。

 

――周囲のみんなが先生だったんですね。では、マグロを選ぶポイントを教えてください。

鮪吉さん:色、鮮度、脂が大切だと思っています。でもマグロは形や大きさはもちろん、獲れた時期や場所など様々な要素で味がまったく違ってくるんですよ。

 

――お客さんである魚屋さんも魚のプロですよね。それについてプレッシャーを感じることはないですか?

鮪吉さん:ありがたいことに僕に「おまかせ」してくれるお客様も多いので、その分、責任の重さやプレッシャーを感じますね(笑)。僕の場合、自分の好みで魚を選ぶのではなく、お客様に合わせた魚選びをするよう気をつけています。マグロのことはこちらに任せていただいて、お客様の魚屋さんや飲食店さんには他のことを気にしていただきたいです。

 

――信用があるからこそ「おまかせ」してもらえるんでしょうね。

鮪吉さん:ありがたいことですね。魚屋は商品を売るのではなく、自分を売ることが大事だと思っています。商品は後から人間についてくるんですよ。そのおかげで、美味しいものが自分の周りに集まるようになってくれると自信を持っています。

 

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マグロが食品であることを意識して、
一期一会の精神で臨む。

――鮪吉さんは「マグロ職人」として、市場やイベントでマグロの解体をする機会も多いんですよね。その際に心掛けていることがあったら教えてください。

鮪吉さん:とにかく清潔第一を心掛けています。解体中のマグロや道具をこまめに水で洗って、綺麗に保つように気をつけて。白いまな板を使っているのも、油汚れが目立つことで清潔さを保てるからなんですよ。口に入れる食品を扱っているんだから、衛生管理には本当に気を使っています。

 

――確かに周りが綺麗ですよね。他にも気をつけていることってありますか?

鮪吉さん:一期一会を大切にしています。当たり前のことだけど一度切ったマグロは元には戻らないので、無駄なく綺麗にさばくことを心掛けているんですよ。目の前の魚屋さんだけじゃなくて、最終的に魚を食べるエンドユーザーに美味しいと感じてもらうところまで責任を持ちたいと思っています。

 

――すごい覚悟を感じます。

鮪吉さん:皆さまの食卓に寄り添っていきたいんですよね。各家庭にお邪魔して僕が焼いた魚を食べてほしいくらい(笑)

 

――(笑)。話は変わりますけど、鮪吉さんはマグロの解体ショーをされています。

鮪吉さん:ピークには年間で111回やりました。地方の市場イベントをはじめ、回転寿司店、量販店、企業のイベントや結婚式まで呼んでいただきましたね。とにかく多くの人にマグロや魚に関わる職業への興味を持ってほしいんですよ。

 

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「マグロ職人 鮪吉」として、
マグロの魅力を広く発信していきたい

――「鮪吉」として活動をはじめたのは、いつ頃からなんでしょう?

鮪吉さん:4年前です。テレビ番組やYouTubeの製作をしている高校の同級生が、市場の音声を録音するために来たんです。そのときに僕の仕事への向き合い方に共感してくれて、YouTubeで配信をやってみないかと誘われました。

 

――はじめるにあたって不安はありませんでした?

鮪吉さん:多くの人に自分の顔を晒すことになる不安はありましたが、マグロをはじめ魚の魅力を伝えたいという思いで引き受けることにしたんです。魚と真剣に向き合う姿を見てもらうことで、魚関連の仕事に興味を持ってもらったり、魚の魅力を知ることで魚料理が好きな子どもが増えてくれたら嬉しいなと思いました。

 

――反響はいかがだったでしょうか?

鮪吉さん:町や市場で「見たよ」って声を掛けていただいたり、子どもからお手紙をもらったりするようになって嬉しいんですけど、私生活で変なことをしないように気をつけるようになりました(笑)。自分だけじゃなく家族や職場、なにより一緒に番組を作っている人たちに迷惑を掛けられませんからね。

 

――番組を見る人が増えれば、魚の魅力も多くの人に届くでしょうね。

鮪吉さん:僕が目利きしてさばいたマグロを食べてみたいという声に応えて、「ツナキチ商店」という通販サイトもはじめました。市場のお客様である魚屋さんのご迷惑にならないよう、通信販売というスタイルを選んだんです。僕のマグロを少しでも多くの人に「体感」していただきたいと思っています。

 

――最後に、これからの夢があったら教えてください。

鮪吉さん:いつか自分の店を持ってみたい気持ちが、あったりなかったり……。目の前で食べているお客様から「美味しい」と言っていただく経験をしてみたいんです。そしてお客様とマグロの美味しさを共有したいですね。

 

――それは素敵な夢ですね。

鮪吉さん:あ、あと「ツナキチチャンネル」のテーマソング『口福(こうふく)』を歌っているんですけどNHK紅白歌合戦に出場したいです(笑)。冗談はさておき、これからも皆様の元に「口福」を届けていきたいですね。うんめもん食えば誰でも笑顔になるじゃないですか。

 

ツナキチ商店

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