見附の商店街の交差点に、歴史を感じさせるお菓子屋さんがあります。その名も「谷信菓子店」。お菓子屋さんはお菓子屋さんでも、メイン商品はアイスクリーム。店頭に並べられたメニュー札を見てもその種類の多さがうかがえます。今回は三代目店主の谷江さんからお店の歴史やアイスクリーム開発秘話を聞いてきました。
谷信菓子店
谷江 昌登 Masato Tanie
1965年見附市生まれ。燕市にある和菓子店で3年間修行した後、東京の洋菓子店で6年間修行し、見附に戻って谷信菓子店を継ぐ。旅行好きで、ホテルや旅館に泊まるのが好き。
——こちらのお店はいつ頃から続いているんですか?
谷江さん:私のおじいさんから続いているので、私は三代目です。戦後間もなく、市場で手作り飴を売っていたのが始まりだったようですね。昭和25年頃になってから、自宅に店舗を構えて飴や和菓子を作って売るようになったんです。
——アイスクリームを売るようになったのはいつからなんですか?
谷江さん:私の父が修業先の和菓子店から戻ってきた昭和35年頃から、かき氷と白アイスをやり始めたんです。本格的にアイスクリーム専門店として始めたのは、昭和44年に現在のイナリ町店ができてからです。まだかき氷屋しかなかった時代でした。たくさんの種類のアイスクリームを販売する専門店として始めたのは、うちが新潟県内で最初だったようです。
——新潟県初のアイスクリーム専門店ってすごいですね!谷江さんはいつからお店に入ったんですか?
谷江さん:私はもともと店を継ぐつもりだったので、その前に少しでも知識や技術を身につけたいと思って修業に出たんです。最初は父親が修業した和菓子店で3年間お世話になりました。その後、東京に出て洋菓子店で6年間修業しました。和菓子と洋菓子どちらもやってきたことは、とてもプラスになっていると思ってます。材料の配合を見るだけで、だいたいの味や食感がわかるようになりました。
——お店ではアイスクリームを含めてどんな商品を売ってるんですか?
谷江さん:アイスクリームはだいたいいつも30〜35種類くらい売ってます。寒い季節になるとアイスクリームはあまり売れなくなるので、和洋菓子の販売も始めるんです。中でも「あん切」っていう和菓子は看板商品なんですよ。
——それにしてもアイスクリームの種類が多いですねぇ。
谷江さん:毎年1〜2種類は新商品を出してますから、種類が多すぎて自分でも忘れている商品もあるんです。お客さんから「あれはもう作らないの?」なんて聞かれて思い出したりね(笑)。だからうちのメニュー札はバラバラで統一感がないんですよ。
——それだけ長い歴史を感じます。谷信菓子店さんのアイスってどんな特徴があるんですか?
谷江さん:うちのアイスクリームは、ソフトクリームと「ハーゲンダッツ」アイスクリームの中間くらいの固さなんですよ。ソフトクリームって溶けやすいけど、うちのは固めに作ってあるから溶けにくくて長持ちするんですよ。
——その場で食べずに持ち帰る時はありがたいですね。アイスクリームを作る上でこだわっていることってありますか?
谷江さん:自分が美味しいと思うものしか出さないようにしています。よくミント系のアイスクリームは出さないのかって聞かれるんだけど、私が好きじゃないから出してないんです(笑)。だからおすすめを聞かれると困ってしまうんですよ。みんな自分が美味しいと思ってるアイスだから。
——なんだか聞きにくくなってしまった質問をします…。ズバリ、おすすめを教えてください(笑)
谷江さん:(笑)。そうだなぁ…。まずは「アヅキ」かな。自家製の小豆を使っていて、甘過ぎずあっさりと食べられるんです。ある代議士の方が絶賛してくれたアイスクリームなんですよ。「見附レディ さつまいも」は見附市からの依頼を受けて作ったアイスです。見附市が力を入れている「見附レディ」という品種のさつまいもを使って、何かアイスを考えてほしいって頼まれて作ったんですよ。
——どちらも美味しそうですね。では人気のあるアイスクリームってどれですか?
谷江さん:女性に人気があるのは「チーズケーキ」ですね。試作している時によくかき混ぜなかったのか、チーズのつぶつぶが残ってしまったんですよ。私は失敗作だと思ったんだけど、それを食べたうちの奥さんが美味しいっていうから店に出してみたんです。そしたら人気が出たんですよね(笑)。そのつぶつぶが結果的にはよかったみたいですね。
——アイスクリームにもいろんな裏話がありますね。
谷江さん:いろいろありますよ。「プレミアムバニラ」っていうアイスにはバニラビンーズが入っていたんだけど、当時はまだ地元でバニラビーンズを知ってる人も少なくかったから「ゴミが入ってる」なんてクレームが来ちゃったりしました。それから「ビルベリー」を作ってた時は、産地の東ヨーロッパで動乱が起こってしまってビルベリーが手に入らなくなったんです。やっと手に入るようになったら、今度はユーロ高になってまた手に入らなくなったりとか…。歴史に翻弄されることもありましたね。
——今までお店をやってきて大変だったことってありますか?
谷江さん:大変っていうか、不便なのは店のスペースが狭いことですね。以前は2階に飲食していただけるスペースもあったんですけど、冬場にケーキを作り始めたので、材料置き場になってしまったんです。
——では、うれしいことは?
谷江さん:親に連れて来られていた生まれたての子どもが、結婚して自分の子どもを連れてきてくれたりすると、うれしいですねぇ。この店が人の思い出に刻まれているんだなって思えます。
——歴史のあるお店ならではのエピソードですね。では最後にこれから作ってみたいアイスクリームを教えてください。
谷江さん:この春に高級砂糖の和三盆を使ったアイスを作ってみたんだけど、なかなかうまくいかなかったんですよね。でも今後は諦めずに、今までになかったようなアイスクリームに挑戦していきたいと思ってます。「たこ焼きアイス」とかね。
長い歴史の中でたくさんのアイスクリームを作ってきた「谷信菓子店」の谷江さん。過去のレシピを受け継ぐだけじゃなく、新しいアイスクリームに挑戦する気持ちを持ち続けています。見附市を訪れた際には、ぜひ交差点にある「谷信菓子店」に立ち寄ってみてください。もしかすると、今まで食べたことがないようなアイスクリームに出会えるかもしれませんよ。
谷信菓子店
〒954-0057 新潟県見附市新町1-7-7
0258-63-1360
10:00-20:00