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海辺の古民家で南欧料理が味わえる、村上「Casa del Faro」。

県北・村上市の海沿いといえば瀬波温泉、笹川流れが有名ですが、その2大観光名所を結ぶ海岸線のちょうど中間あたりに位置する閑穏とした一集落に佇むのが、今回紹介するイタリア・南欧料理のレストラン「Casa del Faro(カーサ・デル・ファーロ)」です。周囲の鄙びた景観に溶け込みながら、どこかスタイリッシュな雰囲気を湛えた外観のお店に入ると、オーナーの鈴木さん夫妻が笑顔で迎えてくれます。料理はイタリアンをベースにした南欧料理で、本格的な煮込み料理から庶民的な洋食、ドルチェまで、幅広いメニューを提供しているとのこと。おふたりにお店のことについて詳しく伺ってきました。

 

 

Casa del Faro

鈴木 睦美 Mutsumi Suzuki

1967年村上市柏尾生まれ。「Casa del Faro」代表。美大進学で上京し、卒業後は建築関連の事務所に就職。30歳で独立し個人設計事務所を開業、都心でマンションや店舗の設計・内装・インテリアデザインを手掛けてきた。料理人の夫・正夫さんとの出会いも仕事関係。2018年、帰郷して正夫さんとともに地元に同店をオープンした。二級建築士でもある。

 

 

Casa del Faro

鈴木 正夫 Masao Suzuki

1967年東京都足立区生まれ。 「Casa del Faro」シェフ。イタリアンのシェフとして都内の店舗で腕を磨き、2001年にそれまで料理長を勤めていた杉並区「Trattoria Il Faro」を引き継ぎオーナーシェフに。同店を承継して妻・睦美さんの地元・村上市に移住し2018年「Casa del Faro」を睦美さんとともにオープンした。趣味はスポーツ観戦と釣り。

 

「50の壁」を前に、建築士とシェフの夫妻が首都圏から移住し開店。

――本日はよろしくお願いします。……あの、豪雨は大丈夫でしたか?

睦美さん:すごかったですね……。この地域も避難指示が出たりしたんですが、幸い特に被害はありませんでした。ただ、友人知人には家やお店が浸水の被害を受けたり断水や停電になったりした人もいるので、お水を運んだり片付けを手伝ったりしていました。ここ上海府をはじめ旧村上市内はほぼ普段通りの状況なので、ぜひ安心して来てもらえればと思います。

 

――ご苦労様です。さっそくですが、お店は古民家をリノベしたとお見受けしますが。

睦美さん:そうです。元は私の同級生のおうちが管理していた築70年ほどの純日本建築の住宅で、空き家になっていた物件です。私は本業でずっとマンションや店舗の改装をやっていたので、このお店もその経験を活かしてリノベしました。でも元々の雰囲気がとても良かったので、実はそれほど中は手を加えていません。大きなものでいえば畳を板敷きに張り替えたり、壁を塗り直したりしたくらいで。柱や梁もそのまま活用しています。

 

 

――へぇー、本業はそちらだったんですか。どおりで、ところどころにセンスを感じます。そういった方がなんでまたここでレストランを?

正夫さん:最初に移住を言い出したのは私の方なのですが、生まれてから東京で暮らしてきて、仕事もずっと東京で、ちょっと飽きてきたというか息苦しくなってきたというか、「どこかまったく違う環境でやってみたい」という気持ちが 50を前にムクムクと湧いてきて。

 

睦美さん:私も「50を過ぎちゃうときっともうずっと東京で暮らすことになるな、それでいいのかな」なんて思えてきちゃって。50を前にライフスタイルをチェンジするのも悪くないな、と思い、夫の願望に乗った感じです。

 

正夫さん:率直に言えば、たとえ失敗して借金を抱えたとしても、その後の人生をかければ何とか返せる、そのギリギリのラインが50歳だと思っていて(笑)。

 

――……それはまたシビアな話を(苦笑)。ではその地にここを選ばれたのは? やっぱり睦美さんの地元だからですか?

正夫さん:言い出しっぺとはいえ、自分は本当にどこでもよかったんですよ。何なら海外でも。とはいえ結果的にはここでよかったです。食材は安くて美味しいし、なんなら自分たちで作ってますし(笑)、同業や業者の方も温かいし、とてもやりやすいです。

 

睦美さん:首都圏から環境を変えたいわけだからできるだけ田舎がいいなとは思っていて、なら私の地元でいいじゃん、みたいな(笑)。というのは半分冗談にしても、せっかく移住して開業するのに中途半端に街場を選んでも東京のときと同じになっちゃうな、と。物件を色々探した結果、ここがふたりともすごくピンときたというか、「ここなら面白いお店ができそうだな」と思ったのも決して小さくない理由ですが。またここはさっきも言った通り同級生のおうちが管理していたので「なら話が早そうだぞ」と思ったのもありますし(笑)

 

食材に近い環境で、肩肘張らない料理を。

――率直に、食事をしにふらりと立ち寄るような場所ではなく、しかも地域的にあまり馴染みのないジャンルの料理で、勝算はあったんでしょうか?

睦美さん:確かに周囲からは「やめた方がいい」とも言われましたし、開店後に飛び込みで入ってこられたお客さんに「なんだ、和食じゃないのか」なんて言われたこともありましたが(笑)、脱サラで未経験ならともかく、夫はずっと飲食店を切り盛りしてきた経験もありましたし、そのへんの心配はあまりしていませんでした。さっきも言った通り、せっかくならむしろこれくらい極端な方がいいかな、と。実際、夫のお客さんが東京からいらしたときなんかはとても喜んでくれていますよ。非日常体験というか。

 

――実際にオープンされてみて、いかがでしたか。

睦美さん:まったく宣伝せずにスタートしたんですが、物珍しさからか開店当初はどっとお客さんがいらして。いきなりだから対応しきれなくて、キッチンの夫と毎日のようにケンカして……地獄のような日々でした、ホントご迷惑をおかけしました(苦笑)。それでもだんだん落ち着いて対応できるようになってきて、お客さんの顔も見えるようになり、常連さんもできて……どんどん面白くなっていきましたね。

 

――料理はイタリアン・南欧料理とのことですが、南欧料理ってどんなものなんですか?

正夫さん:イタリアンをベースに、スペインやギリシャなど、ざっくりとヨーロッパの南の方の料理、という感じです。まぁカレーとかオムライスとかも作りますし、いわゆる洋食と思ってもらえれば。イタリアンとだけ銘打ってあまりかしこまられても本意ではないので、より間口を広くして、あまり肩肘張らずに楽しんでもらえるようなニュアンスを加えているつもりです。自分のスタンスとして、あまり敷居を高くしたくないんですよ。価格も抑えていますし。

 

――料理人として、こちらに来て何か変わったことはありました?

正夫さん:そうですね、なんというか食材に近くなった気がします。最近は牡蛎なんかもそうですが、採れたものをその日のうちに出せたりもしますし、なんならオーダーが入ってからキッチン裏手の畑まで野菜や香草をもぎに行っても間に合っちゃいます(笑)。また地域には魅力的な生産者や同業者の方も多いですし、直売所とかにもすごく面白い食材があったりするし、とても刺激になっています。

 

将来はオーベルジュも視野に、地域全体を楽しむ体験の提供も。

――コロナの影響はいかがでしょうか。

睦美さん:確かにお客さんがゼロの日もあったりしましたが、もともと大人数の宴会をするようなお店ではないので、そういうお店に比べたら痛手は最小限で済んでいるのかもしれません。コロナをきっかけにテイクアウトやオードブル、地元の業者さんが始めた冷凍食品の自販機へのメニュー提供などもするようになり、痛しかゆしの面もあります。

 

正夫さん:仕出しとか冷凍食品とかコロナ以前は考えもしなかったことでしたが、実際にやってみると様々な発見があります。自分のお店以外のところで食べてもらうってことに新たな可能性を感じますし、いろんな方にお声がけや協力をしてもらいながら、社会情勢や地域特性に合わせて自分の料理を提供していくことの面白さを感じています。

 

――最後に、今後の展望を教えてもらえれば。

睦美さん:瀬波温泉と笹川流れのちょうど中間あたりに位置することもあり、お客さんからもよく「泊まれないのか」って聞かれるんですけど、ゆくゆくは民泊とセットにしたオーベルジュのようなこともできたらいいなと考えています。

 

――おおっ! 田舎体験の宿泊施設というのは割とよく聞きますが、そういった施設で和食でなく洋食のオーベルジュというのはあまり聞いたことがなく、面白そうですね。

睦美さん:まだまだアイデア段階で、コロナで中断してしまっている面はありますが、このお店だけでなく、地域全体を楽しんでもらえるような体験を提供したいな、とはずっと思っていて。飲食店として地域に新しい可能性を起こし、貢献していけたら。実現できた暁にはまた取材をお願いしますね(笑)。

 

――ぜひ! 本日はありがとうございました。

 

 

Casa del Faro

〒958-0004 村上市柏尾1761

0254-50-3550

Lunch 11:30-L.O.14:00

Caffe 14:00-16:00

Dinner 17:00-22:00(L.O.21:00)

水曜定休、木曜に不定休あり

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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