今年6月、新潟市中央区にある旧副知事公舎に「FRENCH TEPPAN 静香庵 別邸 涵養荘(せいこうあん べってい かんようそう)」がオープンしました。店内に一歩足を踏み入れると、歴史を感じられる内装と大きな鉄板、そして見事な庭園が目の前に現れ、思わず感動のため息を漏らしてしまいました。このお店は株式会社新潟グランドホテルが展開するレストランで、同ホテル伝統のフレンチと鉄板焼きを存分に楽しむことができます。今回は「別邸 涵養荘」の立ち上げから現場を預かる支配人の千原さんに、いろいろとお話を聞いてきました。
FRENCH TEPPAN 静香庵 別邸 涵養荘
千原 明 Akira Chihara
1969年新潟市生まれ。「FRENCH TEPPAN 静香庵 別邸 涵養荘」支配人。新潟工業短期大学を卒業後、自動車整備士として就職。その後、ホテルマンに転身し、「ホテルアクアピア新潟」にて勤務。27歳から現在に至るまで、株式会社新潟グランドホテルの料飲セクションに従事。メディアシップ内にある「FRENCH TEPPAN 静香庵」の開業準備室室長、支配人としての経験も持つ。学生時代はバスケットボール選手としても活躍。
——見事な洋館ですね。こちらは、旧新潟県副知事公舎の建物なんですよね。
千原さん:1921年に建てられた公舎で、今年でちょうど100年になります。洋間と和室は、当時の姿のまま残っていますが、それ以外は新しく建てました。旧副知事公舎なので、建物自体は新潟県の持ち物ですが、民間事業者がこの敷地を活用できる公募があって、去年の11月に新潟グランドホテルが借り受けることになったんです。
——100年前の建物なんて、ロマンティックですね。
千原さん:大正10年からの設えが残っているので、歴史を感じられるのもこのレストランの魅力だと思っています。
——思わず見惚れてしまいました。さて、この「別邸 涵養荘」はどんなレストランなんでしょうか?
千原さん:鉄板焼きとフレンチを楽しんでいただけるレストランです。新潟グランドホテルは、「静香庵」というブランド名で何店舗か飲食店を持っていて、その中でも最高峰に位置付けているのがこの「別邸 涵養荘」です。メディアシップの19階にある「FRENCH TEPPAN 静香庵」をモデルにしているので「静香庵 別邸」という冠をつけています。
——メディアシップにある「静香庵」、一度しか行ったことがないですが、とっても贅沢な時間を過ごせた思い出があります。
千原さん:それは、ありがとうございます(笑)。でも「FRENCH TEPPAN 静香庵」と今回の「別邸 涵養荘」の性質は少し違っているんですよ。「静香庵」は、30代〜40代くらいのお客様に記念日などでご利用いただくことが多く賑わっていますが、「別邸 涵養荘」ではもう少し落ち着いた雰囲気で、お料理とゆっくり流れる時間を楽しんでいただきたいなと思っています。
——よりシックな感じですよね。雰囲気づくりにはどんな工夫を?
千原さん:「別邸 涵養荘」は平屋なので、カウンターから見える庭景色をとても大切に考えました。不思議なものでここから庭を見ていると、ゆったりとした時間の流れを感じることができるんですよね。
——メニューや食材にはどんなこだわりがあるんでしょうか?
千原さん:お肉やお野菜には旬があるので、その時期に一番美味しいものを召し上がっていただきます。産地にこだわるんじゃなくて、今日美味しいものを選んでいる感じです。お肉は信頼できる指定牧場から仕入れて、海鮮は調理場の生簀で生きた状態で飼っているんですよ。ちなみに、メニューは旬に合わせて2ヶ月ごとに変えています。
——ところで、先ほど、洋間と和室は100年前に建てられたまま残っているとのことでしたが、お料理はそのお部屋でいただけるんでしょうか?
千原さん:目の前に鉄板があるカウンターでお食事を召し上がっていただきます。洋間と和室は、食後に甘いものやお酒を楽しんでいただくデザートルームとして使っています。
——へ〜、カウンターで食事をして、歴史のあるお部屋でデザートをいただくなんて、スペースの使い方も贅沢ですね。
千原さん:食事だけでなく、ここで過ごす時間もご馳走にしていただきたいと思っているので。他にも場面に応じて、館内を使い分けできるようにしているんですよ。ウェディングパーティのための控え室もありますし、和室をステージのようにして芸妓さんに踊りを披露してもらうことも可能です。
——ところで千原さん、背が高いですよね。何かスポーツをされていたんですか?
千原さん:学生時代はバスケットボールに夢中でした。かなり一生懸命に取り組んでいましたよ(笑)。「新潟でバスケができる」という理由で、新潟工業短期大学へ進学したんです。
——バスケから、どんな経緯でホテルの仕事を始めたんでしょう?
千原さん:短大では、自動車整備の国家資格が取得できるので、自然な流れで整備士になりましたね。でも、整備士になりたかったわけじゃなかったし、人と接することが好きだったからホテルマンに転職したんです。
——今でも現役ホテルマンだから、もう大ベテランですね。
千原さん:そうなりますね。新潟グランドホテルに務めてからは、もう25年くらい経ちます。ずっと「料飲セクション」と呼ばれる、レストランや宴会場などのサービス部門で働いてきました。
——25年のキャリアで、特に印象に残っていることはありますか?
千原さん:8年前、メディアシップにある「FRENCH TEPPAN 静香庵」の開業準備から関わったことでしょうか。お店の開業なんて未経験だったので、何から始めたら良いかさっぱり分からずに悩んだ記憶があります。
——まったく新しいチャレンジだったわけですね。
千原さん:ええ、分からないことだらけで苦労しました。でも、設計業者さんだったり、施工業者さんだったり、いろんなパートナーさんがいらっしゃるから、プロフェッショナルたちに助けてもらいながら、無事にお店をオープンすることができました。
——じゃあ「別邸 涵養荘」が2度目の開業準備なんですね。何か違いはありましたか?
千原さん:最初と違って、不安な気持ちはあまりなかったですね。ノウハウがあるから開業するための準備はできると思っていました。ただ、お店が成功するか失敗するかは、やってみないと分からないですね。
——営業してからじゃないと見えないものがある、と。
千原さん:その通りです。お客様をお迎えしてから分かることの方が、圧倒的に多いですよ。これが良いと思ってやってみたけど、ちょっと違うな……と思ったら、すぐに路線変更したりやめたりします。そういうことは結構多いですね。
——すごく柔軟ですね。
千原さん:そう、柔軟に変えることって大切だと思います。こちらの意図が伝わらないと、ただの独りよがりになってしまうんですよね。例えば、お食事の後に別の部屋にご案内するのは、雰囲気を変えてデザートを召し上がってもらうためですが、その意図をお伝えできていないと、お客様は「移動が面倒だ」と思われるかもしれません。そうならないように、しっかり説明してからご案内するようにしています。
——常に最上級のサービスを届けられるように最善を尽くしているんですね。支配人さんとしての覚悟が伝わってきました。
千原さん:長くホテルマンとして働いてきましたが、メディアシップの「静香庵」と「別邸 涵養荘」の開業に立ち会うことができなければ、こんな刺激的な経験なんてできなかったでしょうね。とても幸せなことですよ。
——ところで、このコロナ禍で新規出店をしてどうなんだろう、ということが、どうしても気になってしまうのですが……。
千原さん:飲食業界もホテル業界も厳しい状況が続いていますが、「別邸 涵養荘」の出店はホテル業界に留まらない新しいサービスを生み出すことでもあります。新型コロナウイルスが収束しても、これまでのような100人規模のブライダルは減るのではないかと予想しています。「別邸 涵養荘」は、大切な家族・友人で特別な時間を過ごすためにも最高な場所ですから、ホテルでのブライダルに変わる新しい事業展開のひとつでもあるんですよ。
——なるほど。コロナ禍でだからこそ力を入れていきたい新しいサービスなんですね。
千原さん:今は料理人さんを含めてスタッフの確保をスムーズに行うことができます。結婚式や宴会などでのニーズが減少した分、人材を活用する面でも利点があるんですよ。
——確かにそうですね。最後に、これから考えていることがあれば、教えてください。
千原さん:「別邸 涵養荘」のまわりには、新潟市の歴史を辿れる場所がたくさんあるんです。スイスの建築家が設計したカトリック協会とか、史跡だとか、新潟市にとって文化の宝庫のような場所なんですが、あまり知られていないんです。ここも旧副知事公舎ですから歴史がありますし、少し先の話になるかもしれませんが、周辺をめぐるバスツアーなんかができたらいいなと思っていますね。
FRENCH TEPPAN 静香庵 別邸 涵養荘
新潟県新潟市中央区営所通2-692-6(旧新潟県副知事公舎)
TEL: 025-211-7703