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価値のあるお酒に出会える、亀田の「新し屋酒店」。

今回は江南区亀田にある酒屋さん「新し屋酒店」にお邪魔してきました。取材してみて感じたのは、「うーん、お酒ってすごく奥が深いなー」ということ。お店の4代目にあたる聖太さんの、これまでの経験や、こだわりと誇りを持って取り組んでいるお酒の仕事のこと、いろいろとためになるお話をたくさん聞いてきました。

 

新し屋酒店

塚本 聖太 Shota Tsukamoto

1992年江南区生まれ。専務取締役、東京の酒屋での経験や海外留学を経て、家業の新し屋酒店へ。趣味は食べ歩き。美味しいものを食べながらでも、ついついお酒のことを考えてしまう。

 

プロ野球選手の大谷選手じゃないけれど、お酒の二刀流も面白いんじゃないか。

ーーそれではまず、新し屋酒店さんについて教えてください。

塚本さん:創業は1955年で、私の祖父の代からの酒店になります 。

 

ーー塚本さんは、跡継ぎということになると思いますが、それを決めたタイミングは?

塚本さん:実際に継ごうと考えたのは大学3年のときです。でも、自分の性格的に、あらかじめ敷かれたレールを行くのは絶対にいやだったので(笑)。なので、やるって決めたときには、まず自分自身でお酒のことを学んでから入ろう思って、それで面接を受けて内定をいただいたのが、東京の大手業務用酒販店でした。

 

ーーお酒の販売のことをまず、外部から学ぼうと。

塚本さん:逆算的な考えなんですけど、大手の販売ノウハウだったり、東京の市場を知るって意味で営業を希望したんです。就職活動の面接のときに「3年後には、家業を継ぐので辞めます」って正直に言って。今思えば、よく内定いただけたな、と(笑)。それでも、本当によくしてもらって。営業でも、自分ひとりで120店舗を担当していたんですけど、そこで人生をかけて仕事をしている方々のお手伝いをさせてもらったこと、販売現場の空気感だったり、そういうことを学べたのはすごく貴重な経験だったと思っています。

 

ーーなるほど、販売というプロの世界を経験してきたってことですね。

塚本さん:そうですね。それでも、自分が新潟に戻ったときに、「日本酒の知識だけだとベテランの人には絶対に勝てない」って思ったんです。そこで「もうひとつ専門知識が欲しい」って考えたんです。父親に相談したら、「ワインに詳しい人はいるけど、日本酒もワインも詳しい人ってなかなかいないよね」って話になって、そう考えたときにプロ野球選手の大谷選手じゃないですけど、お酒の二刀流も面白いんじゃないかって(笑)。それで、ソムリエの資格も取ったんです。

 

ワインのことを極めるために、単身フランスへ。

ーー日本酒から、ワインへ。学びの幅がぐんと広がったわけですね。

塚本さん:そうしたら、やっぱり極めたくなっちゃって(笑)。ワインで日本一のところって思いつかなかったんですね。それで、せっかく勉強するなら世界でいちばんの場所へ行きたいと。ワインの本場、フランスに留学しました。

 

ーー行っちゃったわけですね(笑)

塚本さん:父親の古くからの友人で、日本人で初の和食でミシュランの一つ星をとった「あい田」のオーナーシェフである相田さんのお店で修行させてもらえることになったんですよ。正直、フランス語も英語も分からなかったんですけど(笑)

 

ーーどうでしたか?

塚本さん:逆境だらけのスタートって感じでした(笑)。もちろん、言葉の部分もそうですけど、ソムリエとしてのレベルが圧倒的に違いすぎて。正直、日本でソムリエの資格を取るために学んだことじゃ、全然、歯が立たないというか……。ワインの知識はちゃんと持っていたんです。でも、お客様にサービスをするときにアウトプットができない。そのレベルの高さ、こなしてきた場数の違いがすごくて。なので、最初はひたすら、言語、ワイン、サービスの勉強をしていた感じです。

 

本場で実感した、プロフェッショナルな流儀。

ーー本場のソムリエはどのくらい違ったんですか?

塚本さん:先ほど言ったように「場数が圧倒的に違う」というのが一番大きいです。お店に置いてあるワインのことをみんな熟知しているんですね。シェフが作るお料理にどう合わせていくか、というのがソムリエの基本的な仕事なんです。例えば、銘柄とか知識だけでなくて、そのお料理に合うワイン選び、グラスの選び方、お客さんに出すタイミングとか、そのすべてにこだわりがあるんですよ。例えば、同じブドウ品種で、造り手も、年代も一緒のものであっても、畑の場所が違うだけで、グラスの大きさを変えて提供する。そこまでワインのことを知っていて、本当に細かいところまでこだわりを持ってやっていて。

 

ーーそれは、本当にすごいですね。

塚本さん:すごすぎて、自分がソムリエの資格を持っているって、恥ずかしくて言えないくらいでしたね(笑)

 

ーーでもその経験は大きかったんでしょうね。

塚本さん:そうですね。まず、酒屋とレストランという違いはあるんですけど、そのサービスに対するこだわりや姿勢など、すごく学ぶことができました。そのお店では、ワインのブランドに媚びないスタイルがあって、例えば、誰もが知っている超有名なワインでも、年代で造り方が変わったりすると、「味が濃くなったから、もうそれは店で出さない」って判断をしたり。そういったプロフェッショナルな世界で、「一流じゃなくて、超一流を目指しなさい」って言われたことがあって。そうやって、一つ一つすべてにこだわりを持って仕事をする大切さをすごく勉強させてもらいました。

 

ーーじゃあ塚本さんも、そのプロフェッショナルのこだわりをお持ちなんですね。

塚本さん:なので、うちで取り扱うワインは、一つ一つしっかりテイスティングをさせてもらっています。「これならお客様に自信を持ってお出しできるな」と思ったワインだけを取り扱わせてもらっています。

 

蔵人としての経験と、父親に感じたこと。

ーー帰国後のことも教えてください。

塚本さん:地元の酒蔵「石本酒造(代表銘柄「越乃寒梅」)」の社長さんから「酒造りを一緒にやってみないか? 」というオファーをいただきまして。そんな貴重な経験はそうできないと思って、二つ返事で「お願いします」と言って、2年間、お酒造りを学ばせてもらいました。

 

ーー今度は、日本酒の造り手も経験されたわけですね。

塚本さん:そうですね。実際、それまでも酒蔵の営業の方とは関わる機会はありましたけど、実際に造っている蔵人と関わる機会って滅多にありませんし、まして、その「蔵人」を経験することなんてありませんから(笑)

 

ーー作る、売る、現場。これまでお酒のすべてに関わってきたんですね。

塚本さん:そうですね。本当にありがたいというか、よい先輩方に巡り会えたと思っています。

 

ーーそういう経験を積んでから家業に入って、感じたことはありますか?

塚本さん:まず、はじめに驚いたことは、父親もこだわりを持ってお酒を取り扱っていた、ということです。正直、学生の頃はお酒のことをまるで知らなかったので、家業のことをよく分からなかったんですよ(笑)。でも、こうやって学んで戻ってきたときに、取り扱っているお酒の種類や銘柄を見て、すごいなって思いました。例えば、フランスのお店でもワインと言えば「最終的にブルゴーニュのワインに辿り着く」って言われるほどなんですけど、戻ってみたら、そのブルゴーニュの有名生産者のワインが何本もあったりして。日本酒でも、「結局はお料理の邪魔をしない、淡麗辛口のお酒に辿り着くよね」って言われてきた中で、その系統のお酒が揃っていまして。

 

ーー戻ってきて、はじめて分かった社長の「すごさ」だったんですね。

塚本さん:そうですね、父親とはあまり仕事の話はしなかったんですけど(笑)。こうやって一流って言われている環境の中で勉強をさせてもらって、戻ってきたときの驚きはたくさんありました。あとは、品質管理、温度管理が徹底されていたことも感心しました。うちの店は、光が入る窓って入口しかないんですね。これは、お酒を取り扱う上でとても大切で。お酒は少なからず、光や温度で味が変わってしまうんです。でも、このお店の構造を見たときに、温度管理や品質管理としては完璧な状態で。そういった、本来、造り手が伝えたかった味をそのままの状態でお客様に伝えることを大切に徹底している、その部分にこだわりを感じるな、と。

 

「お酒の価値」をこれからも丁寧に発信していきたい。

ーー塚本さんのおすすめのお酒を聞いてもいいですか?

塚本さん:そうですね、今は日本酒っていろんなスタイルのお酒が流行ってます。それはそれでいいことだと思いますし、大切なことだと思うんですけど、個人的には、新潟の伝統的なお酒、「越乃寒梅」「八海山」「麒麟山」の淡麗辛口がやっぱり、この土地のお料理に一番合うと思います。自分を主張しすぎないでお料理の邪魔をせず、まわりを引き立てる、その奥ゆかしさや、あとに残る余韻の長さを考えたときに、おすすめですね。ワインでいえば、僕のおすすめはフランス産のワインかなと。いろんな産地のワインがあるなかで、フランスのワインって、こだわりを持って作られている絶対王者みたいなところがあって。そういった、生産者や気候や土地、風土のこだわりを、この店から発信して伝えていきたいなと思っています。

 

ーー飲まないと分からない、っていうところで、ちゃんと前もって説明してくれる人がいると助かります。

塚本さん:ありがとうございます(笑)。あとは、ワイン会や日本酒会っていうのも主催させてもらっていて、参加してくれた方からは「ワインや日本酒に対する価値観が変わりました」って喜んでもらったりしています。

 

ーー最後になりますが、今後の目標を教えてください。

塚本さん:やっぱりお酒って嗜好品だと思っているんです。だから、価値のあるものや美味しいと思えるものしか残っていかないんです。だからこそ、取り扱っているお酒にはこだわりたいなと思っています。一つ一つ厳選した上で、これからもそういったお酒の価値を丁寧に発信していきたいですね。

 

 

「新し屋酒店」には、ここでしか買えない限定の日本酒や珍しい年代物の日本酒もあります。新し屋酒店プライベートブランドの「亀田三昧」(酒米の王様と言われる「山田錦」というお米を100%使用した普通酒)を買うこともできますよ。お酒が好きな方は、ぜひ!

 

新し屋酒店

新潟県新潟市江南区袋津4丁目2−21

025-382-2345

 

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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