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季節の移ろいを感じながら味わう、小千谷市「蕎麦割烹 まるいち」の蕎麦。

  • 食べる | 2023.08.13

小千谷市の真人地区(まっとちく)にある「蕎麦割烹 まるいち」。飲食店の少ない山間部で50年、ずっと地元の方々に愛され続けているお蕎麦屋さんです。こちらでは小千谷産のそば粉を使った、こしがあって歯切れのいいへぎそばを味わえるんだそう。今回は「有限会社 まるいち」の2代目である羽鳥さんに、蕎麦へのこだわりや、お店を続けるなかでの楽しみについて聞いてきました。

 

 

有限会社 まるいち

羽鳥 清 Kiyoshi Hatori

1965年小千谷市生まれ。「有限会社 まるいち」を経営し、食堂や民宿などを営む父親の姿を見て育つ。大学卒業後、東京のホテルや寿司店などで経験を積む。平成元年に実家に戻り「まるいち」を手伝う。平成5年頃より蕎麦を中心にした店にリニューアルし、現在は2代目として「蕎麦割烹 まるいち」を営む。写真が趣味で、最近新しいカメラを買ったばかり。

 

小千谷市の真人地区で50年続く、歴史あるお蕎麦屋さん。

——まず、「まるいち」さんの歴史を教えてください。

羽鳥さん:法人にしたのが昭和49年なので、今年でだいたい50年目くらいですね。「まるいち」は私の父がはじめた店で、最初は小さい食堂をやっていたんですよ。田舎では珍しかったんでしょうね。当時は焼き鳥や野菜炒めのおつまみが200円の時代で、それでもひと晩で7万ほど稼いだそうなので、きっと流行ったんですよ。

 

——山間地なこともあって、地域にとって貴重な飲食店だったんでしょうね。

羽鳥さん:お客さんがつくようになって「もっと大きい部屋を作ってくれ」という声が出てくるようになりました。最初は古民家の2階だけを移築しようと話をしていたんですけど、解体の方が「広間の古い冊子や柱に価値がある」と言ったので、建物をそっくり移築することにしたんです。

 

 

——雰囲気のある内装だと思いました。

羽鳥さん:だけどこの場所が崖だということもあって、増築にかなりの金額がかかると分かりました。お金を借りるためには飲食業だけじゃなくて、宿泊業の許可も取らなければいけなくなったんです。それで3年目には民宿としても営業するようになりました。

 

——へ~、民宿もされていたんですね。

羽鳥さん:当時は宿屋の需要があったんですよ。ところが上越新幹線や関越自動車道が開通すると、日帰りできるようになって、宿泊需要が減少していきました。そこで父親がその新幹線を利用して、東京に手打ちそばを覚えに行ったんです。道場で免許を取って、それを私が引き継ぎました。それから宿泊業よりも蕎麦を中心にした店にして、平成5年頃に蕎麦屋としてデビューしました。

 

 

——いろいろなことにチャレンジするお父さんを見て、当時の羽鳥さんはどう思っていたんでしょう。

羽鳥さん:好奇心と不安ですよ。ただ、この古い建物は好きでしたね。時代が経つほど求められる空間になるのかなと思っていました。

 

——じゃあいつかはお店を継ぐつもりで?

羽鳥さん:そういう気持ちは常にどこかにありましたね。大学を出てから東京のホテルやお寿司屋さんで働いて、手に職をつけたんです。平成元年に帰省して、店を手伝うようになりました。

 

小千谷産の一番粉を使った、こしが強く歯切れのいい蕎麦。

——「まるいち」さんで食べられるお蕎麦の特徴ってありますか?

羽鳥さん:うちで提供しているのはへぎそばです。麺に使っているのは小千谷産のそば粉だけ。それも「一番粉」といわれる玄そばの芯の部分だけを使ったそば粉を使用していて、それと布海苔でうつんです。一般的にはつなぎで2割程度小麦粉を入れることがあるんですけど、うちは一番粉のそば粉10割を布海苔でつないで製麺しています。更科系の「へぎそば」ですね。

 

——一番粉を使うと、どんな味わいのお蕎麦になるんでしょう?

羽鳥さん:一番粉を使うと、きめ細やかで白っぽい麺になります。それと小麦粉なしで麺状にするためにしっかり圧をかけるのと、グルテンがないぶん、こしが強いんだけども歯切れのいい蕎麦になるんです。

 

——つゆにもこだわりがあると思います。

羽鳥さん:小千谷産の醤油をブレンドして本返しを作っています。それを寝かせて、複数の種類の鰹節を入れてじっくりと麺つゆを仕上げていますね。

 

 

――冬場はラーメンも提供されているそうですね。どうしてラーメンもはじめることに?

羽鳥さん:以前は蕎麦の他にラーメンも出していたことがあったんですけど、この地域に住民の出資で温泉が建つことになって、そちらでラーメンをやると聞いたんです。狭いところでバッティングするのもどうかなと思ったのと、自分たちも出資する側だったので応援する意味もあって、一度ラーメンはやめることにしました。

 

——そんな背景があったんですね。

羽鳥さん:でもしばらくしてその温泉施設がなくなることになって、この地域ではラーメンを食べられるお店がなくなってしまったんですね。それで地域の方から「またラーメンもやってよ」と言っていただいたんです。夏はおかげさまで蕎麦で忙しかったので、冬の3カ月間だけラーメンの提供をすることにしました。それが7、8年前ですかね。

 

——どんなラーメンなのか気になります。

羽鳥さん:スープには鶏や豚骨の他に鰹節をたくさん使っていて、あっさりしているんだけどコクがあるというのが特徴です。醬油ラーメン、チャーシュー麺、豆乳担担麵、肉味噌ラーメンがあります。親と一緒にやっていた頃に作ったものをベースにしています。

 

食事と一緒に、季節の花々を楽しんで欲しい。

——お店続けるなかでの、羽鳥さんの楽しみってありますか?

羽鳥さん:仕事とプライベートの垣根がだんだんなくなってきているんですよ。コロナ前は「蕎麦割烹」という名前の通り蕎麦と割烹料理でやっていたんですけど、コロナ禍になってからは夜も時間ができて、料理の写真を撮ってSNSで発信するようになって。そこから趣味でカメラをはじめたら、すっかりハマってしまったんです(笑)

 

——お店のアカウントで発信するとなると、写真も頑張りがいがありそうですね。

羽鳥さん:仕入れで柏崎に行けば季節によって魚が変わったり、夏になれば近所の農家さんが夏野菜を持ってきてくれたり、春には山菜が出たり。その旬の食材を調理して、写真に撮って、SNSで顧客の皆さんにご案内をする。そうやって日々違うことが共有できるというのは、こういうふうに自分で店をやっていなければ経験できないことなのかなと思います。

 

 

——季節の変化を感じながらお店の情報を届けられるというのは、きっと楽しいですよね。

羽鳥さん:それから、数年前から店の周辺に季節の花を植えているんです。この広間の窓から見えるのも桜の木なんですよ。春にはライティングするので、桜を楽しみに来てくれる方がたくさんいらっしゃいます。去年も今年も新たにいろんな花を植えました。

 

——お店に入るときに、いろんな植物が植えられていて綺麗だなと思いました。

羽鳥さん:最近は地域の方から藤の花をいただきましたし、この前はしだれ桜を植えました。四季を通じて来る方に、食事と一緒に季節の花を楽しんでもらいたいと思っています。場所柄堅苦しいことよりは、田舎らしさと季節感を楽しみに来ていただけたら嬉しいですね。

 

 

 

蕎麦割烹 まるいち

小千谷市真人町794-1

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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