1枚の妄想図から誕生した空間、上古町の「複合施設SAN」。
カルチャー
2022.01.13
昨年12月、上古町にオープンした「複合施設SAN」。複合施設といっても、いったい何と何が複合しているのか、名前だけではよくわからない……ということで、Things編集部は早速取材を申し込むことに。現地に行ってみると、入り口に張られているパネルには各フロアの名前が書かれていたのですが……「1階がenjoy floorで、2階がiroiro floor、それと奥庭+α?」……まだよくわかりません。そこで、副館長の金澤さんに、いったいどんな施設なのか、オープンまでの経緯や今後の目標なども含め、いろいろとお話を聞いてきました。


複合施設SAN
金澤 李花子 Rikako Kanazawa
1993年2月26日生まれ。大学進学で上京し、卒業後、雑誌編集を6年間、広告制作のプロデュース業を2年間務める。2020年末、妄想図「踊り場」をフリーペーパーにしたところ、「hickory03travelers」の代表であり上古町商店街理事長でもある迫さんの目に留まり「複合施設SAN」の改修プロジェクトをスタート。
常に人をワクワクさせるための工夫を。
――まずはじめに、ここはどんな施設なんですか?
金澤さん:子供からお年寄りまでいろんな人が上古町に集まれる、そんな場所が欲しいなと思って、館長の「hickory03travelers」代表の迫さんと私とで始めました。ここは、もともと地元の人に愛されてきた「@foodelic(フーデリック)」というお店があった場所なんです。

――フロアの名前が、なんかワクワクしますね。
金澤さん:1階の「enjoy floor」はお花屋さんや食材研究所、喫茶店が入っていて、ポップアップのイベントなんかもできるフロアです。2階の「iroiro floor」は、自由に読める本棚が置かれていたり、小さい子のためのキッズスペース、デザインオフィス、レンタルスペースがあったりします。でも実はこの「複合施設SAN」は、まだ完成しきっていないんですよ。
――あ、まだ未完成なんですか?
金澤さん:「奥庭+α」はまだ作っているところで、春に完成する予定です。そこには遊具を置いて、喫茶メニューをテイクアウトして楽しめることもできる公園のような場所にしたいと思っています。


「踊り場」の妄想図。すべてはそこから始まった。
――金澤さんがこの施設を作ろうと思った経緯を教えてください。
金澤さん:一年前に私が「踊り場」の妄想図をフリーペーパーで作って、以前あった「BOOKS f3」という本屋さんに置いてもらっていたんですよね。
――あの、ちょっとすみません。「踊り場」の妄想図というのは?
金澤さん:1階の「enjoy floor」に「踊り場」というフリースペースがあるんですけど、そこはもともと私が「新潟にこんなところがあったらいいな」と思って、どうしても作りたかった空間なんです。私が妄想で描いたその「踊り場」を、フリーペーパーにしたもののことです。それを「BOOKS f3」に置いてしばらくした頃に、当時まだ面識のなかった迫さんがご自身のInstagramに私のフリーペーパーを載せてくれたんですね。そのあと私の方から連絡をして、迫さんと会っていろいろとお話をしたら「じゃあ、やりましょう!」となって、本当にオープンすることになったんです。まさか「踊り場」の妄想図を作ってから、たったの1年でお店を開けるとは思わなくて……人生って何が起こるかわからないです(笑)


――「複合施設SAN」や「踊り場」の名前にはどんな由来があるんでしょうか?
金澤さん:「SAN」は古町三番町や白山神社の「参道」、迫さんが運営している「hickory03travelers」、「三方良し」とか「参加」とか、いろんな言葉の「さん」からとりました。「踊り場」は私が高校生の頃に体験していた、上古町での日々から由来しているんです。いまはもうなくなってしまったお店もありますけど、上古町にいた大人たちは本当に面白い方法で自己表現をしていたんですよね。当時の私は、その「表現」を「踊り」と捉えていました。それで、自己表現できる場所、踊れる場所、という意味で「踊り場」という名前を付けました。

地元・上古町にワクワクできる場所を。
――上古町での日々とおっしゃいましたが、このエリアには思い入れがあるようですね。
金澤さん:ここが私の地元だからですかね。もともと親が転勤族で、小さい頃はあちこちの県へ移り住んでいたんです。中学生のときに新潟へやってきて、上古町に落ち着きました。思春期を過ごして、いろんなことをここで教えてもらいました。自分もこの街の一員として何かしたいというその気持ちが昔からあったんです。

――そうだったんですね。
金澤さん:大学から東京に出て、就職もむこうでしました。2020年はコロナ禍でテレワークが増えたので、月の半分くらいは新潟に帰って働けるようになったんです。それまでは仕事が激務で、なかなか余裕を持って帰ってくることができなくて。それで去年久しぶりにゆっくり古町を散歩したんです。
――久しぶりの地元はいかがでしたか?
金澤さん:上古町のワクワク感が薄まっている気がしました。もしかしたら、私が大人になったからなのかもしれないんですけど。昔はすべてがキラキラしてみえたけど、今はそうではない。そう感じて、すごく悲しかったんですよね。でもだったら、私がワクワクする場所を作ればいいと思ったのも、この施設ができた理由のひとつです。
これも編集だ! 解釈を広げたものづくり。
――東京ではどんなお仕事をされていたんですか?
金澤さん:大学を卒業してからは雑誌の仕事を6年間と、広告の進行管理業務を2年間していました。高校生の頃から政治に興味があって、法律とか、世の中の仕組みについて勉強したいなと思って上京して。そのあと、それを伝える情報発信側の、マスコミとか雑誌とかに関心を持つようになりました。
――発信することは、やはり「SAN」でもいかされているんでしょうか?
金澤さん:いかされていますね。一般的に雑誌の仕事って、人に光を当てて、それを本やWEBにして発信するじゃないですか。「複合施設SAN」の場合はその表現をリアルで行っているだけで、モノの配置とか、何を作ればいいとか、人をつないでイベントをやるとか、そういったものはすべて「編集」の仕事になるんじゃないかと私は思っています。東京での雑誌や広告での経験があったからこそ、編集の知識や考え方の土台ができたんだと思っています。


――現在も冊子などの編集はされているんですか?
金澤さん:今は新潟で一番歴史のある銘菓といわれている「浮き星」をいろんな角度から紹介した冊子を制作中です。「SAN」にある喫茶店でもそのお菓子を出していて、たくさんの人に「浮き星」の魅力を感じて欲しいです。今後は新潟のことをテーマにした本なんかも作っていけたらなと思っています。

――完成を楽しみにしています!それでは最後に、今後の目標を教えてください。
金澤さん:お店をやっていく上で欠かせない「はじめる・続ける・出会う」という3つのワードがあって、今は「SAN」を「はじめる」ことができ、いろいろな人と「出会う」ための場所を作ることができました。でも、一番難しいのが「続ける」なんです。これから10年、20年この歴史のある商店街でお店を続けていくには、他のお店との共存やコミュニケーションが必要になります。「続けられるというのは人に愛される」ということだと思うので、いろんな事情や大変なことも全部込みで、街の一員として、人を大切にしながらやっていきたいです。

金澤さんのお話を聞きながら、ある人の言葉を思い出しました。「あらゆるクリエイティブは編集だ」これは、編集者・秋山道男さんの言葉です。金澤さんは編集のノウハウをいかし、冊子だけでなく、空間としても人を楽しませるクリエイションを創り出しています。その発想とそれを体現する熱い想いが、人を動かし、そして面白いものを生むのだと教わりました。皆さんもぜひ足を運んでみてください。きっと面白い出会いが待っているはずです。
複合施設SAN
文化商店 踊り場
新潟市中央区古町通3番町653
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