国内外に向けてプロフェッショナル用理美容バサミを製造・販売する「有限会社コスモ・スミス」。理美容師の細かい要望をくみ取りながら作られる理美容バサミは、日本国内はもとよりアジア・欧米各国の業界関係者からも支持されています。今回はそんな同社の代表取締役社長である栗林さんに、モノづくりへの考え方などいろいろとお話を聞いてきました。
有限会社コスモ・スミス
栗林 達也 Tatsuya Kuribayashi
新潟県三条市出身1972年生まれ。有限会社コスモ・スミス代表取締役社長。
――まずは有限会社コスモ・スミスを創業するまでの経緯を教えてください。
栗林さん:私は18歳から約4年間機械メーカーで働いていて、機械オペレーターとして自動車部品の加工を担当していました。その後、23歳になる年に利器材(ノミ、カンナ、包丁等の刃の材料)を販売している山村製作所に入社しました。
――その頃から既にハサミの材料販売は始まっていましたか?
栗林さん:私が入社した頃にはもう着手していて、理美容バサミにも目をつけていました。ただ会社の事業としてはまだ始めたばかりで、理美容バサミのことを研究しているような段階でした。そこで私がその役割に任命され、入社して半月で東京にある老舗ハサミメーカーに1年半修業しに行くことになるんです(笑)
――おっと、いきなり。修業先ではどうでしたか?
栗林さん:元々いた自動車部品の加工会社は大きな会社で、最先端の機械を使って加工をしていました。修業先では小さな道具を使って手仕事で加工を行っていたので、簡単にできるんじゃないかと最初は思っていたんですね。ところが機械と違って自分の手がいかに思うように動かないのかを思い知ることになりましたね(笑)。手仕事の奥深さを知りました。
――それはどう乗り越えたんですか?
栗林さん:とにかくできるようになるまで続けたような感じですね。手を動かすのも大事ですけど、イメージトレーニングも大事だと思っていました。今回はここがうまくできなかったから、次はここを意識して加工しようとか、1本1本に課題を持ちながら進めていきました。先輩に「お前やる気あるか?」なんて言われたことありましたよ(笑)。考えている時間って、はたから見たら何もやっていないように見えたんでしょうね。
――理美容バサミは自動車部品とはやはり違いますか?
栗林さん:前職で行っていた自動車部品の加工は、人の命を左右するような繊細さが求められるパーツですよね。理美容バサミだって決して安い商品じゃないので、どちらもミスなんて許されないと思っています。
――感覚的な面ではどうですか?
栗林さん:人間の舌だって美味しい料理を食べれば覚えていますし、そこが基準になって他の食べ物と比較しますよね。刃物に関しても同じで、だから「切れ味」「持ち味」っていうんだと思うんです。道具も触覚なので、味覚とかと同じように感覚の部分が強いんです。一度、切れ味・持ち味の良い刃を使った人はその感覚を忘れないと思います。
――ところで修業期間はどのくらいだったんですか?
栗林さん:1年半、そこの会社で修業して、戻ってきてからも作ったものを見てもらったりしていたのでそういう期間を含めるとだいたい2年ちょいくらいですかね。
――その後はどういった経緯で独立されるんですか?
栗林さん:その後は山村製作所に戻ってきました。でも私はどちらかというと決しておとなしいタイプの人間ではないので……(笑)。雇われながら働く熱量と、独立して経営者として運営していく熱量を比べたときに絶対に後者の方がいいと思ったんです。ましてや職人業で自分が職人の筆頭としても動かないといけないわけですし。
――やるからには本腰入れて行いたいという気持ちが強かったわけですね。
栗林さん:まったくなにもないゼロからのスタートです。従業員もいないので人も集めないといけないわけですよ。資本金も300万円積みましたけど一瞬で取り崩して機械や道具に変わりました(笑)。マイナスからのスタートじゃなかっただけよかったと思います。
――立ち上げ当初はどうでしたか?
栗林さん:やっぱりそんな簡単に売り上げは上がらないですよね。途中で注文が絶えるわけです。平成9年に立ち上げて、まだ理美容業界は元気のよい方で、ハサミの価格相場も高値で安定していました。ただその分、私よりも先に創業した人たちも多くて競争は激化していたような時代ですね。
――厳しい期間が続くんですね。
栗林さん:営業したりカタログ作ったりいろいろしましたけど門前払いばかりでしたね。皆さん必ずどこかとお取引されているわけなので、半分ゴミを配っているようなものですよね。でもやらないことには始まらないし、とにかくひとつひとつの案件を大事にしながら行っていきました。それを続けることでクチコミとかが広がって徐々に売り上げも上がりました。
――使ってもらえれば分かってもらえるっていう気持ちがあったんでしょうか。
栗林さん:よいモノを提供しようっていう気持ちは当時から大事にしていました。おかげさまで一度お付き合いしてもらえれば、スパンの長いお付き合いになる方が多くなりました。今でも創業当時からお付き合いのある会社さんもたくさんありますよ。
――地道に続けることで結果がついてきたんですね。
栗林さん:職人として完璧なモノを作り続けていくと、商品自体が営業してくれるようになるんですね。売って安心使って安心なモノを供給できる会社になる、っていうところを使命感を持って続けていました。
――海外へも販売をされているようですが。
栗林さん:うちはかなり早い段階からHPを作って販売を始めました。当時は自社ページを持つのはかなり高かったですけど、それにかけてみようと思ったんです。その当時は業界でHPを持っている会社はほとんどいなかったですね。
――大きな決断だったんですね。
栗林さん:HPを作ったおかげで海外からの注文が増えていきました。韓国、香港、中国、台湾などアジア圏が多いですけどね。あとは工場出荷でお客さんと直接の取引ができるっていうのは運営をする上でとても大きなメリットですね。
――ずっと直販を目指していたんですか?
栗林さん:いわゆる美容ディーラーへの営業もしましたよ。でも新参者でまったく相手にしてもらえなかったですし、中には名刺を返されるようなところもありました。そこへの反骨精神もあり、じゃあ直接お客さんに販売する仕組みを構築しようと考えました。販売する人間が強くて、作ってる人間が下に見られることに違和感がありましたね。
――それもやっぱりモノづくりに対する自信の表れですよね。
栗林さん:うちは販売したお客さんからハサミが帰ってきたことは一度もないです。その代わり短い納期で要求してくるお客さんに対しても、職人がひとつひとつ丁寧に作って最高の状態で納品したいことをしっかり伝えて理解してもらった上で取引をしています。
――コスモ・スミスさんの強みはどこにあると感じていますか?
栗林さん:実際に美容師さんたちがハサミを使っているのを見ると、ハサミの改良点が見えてくるんです。切れる感じとか切れ味って、数値で表せなくてあくまで感覚でしかないんですよ。そういった数値にできない部分で使い手の方たちが感じていることを、切り方や会話を通じて汲み取って具現化するっていう作業ができるのが強みだと思っています。
――感じる力、ですね。
栗林さん:手の大きさ、指の太さ、握力どれをとっても使う人がみんな違うわけです。その辺の調整を意識しています。特に刃物は重みの部分はとても重要ですね。この業界は特にこだわりを強く持っている方が多いし、そういう人ほどうちのハサミを使ってもらえると長くお付き合いしてくれます。
――今後の目標は?
栗林さん:会社を大きくしたいっていうのはありながら、職人が世の中に認められるような伝え方をしていきたいですね。「モノづくり」=「難しい・大変」となることが多いと思いますが、モノを作ることによって世界から注目されます。担い手が少ないのでそういう志を持った人を増やせるような会社作りやチーム作りを行っていきたいです。海外にも販売店や分身的な技術者をチームとして広めていきたいですね。今はコロナで対面で人と会うことが減りましたけど、やっぱり人間は顔の表情からくみ取れることってたくさんあると思うんです。そういう対面での付き合いを大切にしていきたいです。
有限会社コスモ・スミス
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