「和」を現代の暮らしに。
草木染めデザイナーの袖山さん。
ものづくり
2026.05.22
奈良で着物作りを学び、そこで染織の魅力を知ったという袖山香奈子さん。現在は草木染めデザイナー「Kanako Sodeyama」として、オリジナル作品を展開したり、オンライン講座やワークショップを主催したりしています。取材の日、袖山さんが着ていたシャツもご自身で草木染めしたものだそう。手作業とは思えないほど、美しく均一に色づいていました。
袖山 香奈子
Kanako Sodeyama
1994年新潟市生まれ。奈良県の専門学校で着物作りを学び、卒業後も奈良で友禅染の仕事に携わる。2018年に新潟に戻り子育てに専念。2023年から草木染めデザイナー「Kanako Sodeyama」として活動をスタート。自家製の梅干しや梅酒、味噌などを仕込む「手仕事」が好き。
まるで魔法使い。
染織の持つ魅力と可能性。
――袖山さんは、専門学校で着物作りを学ばれたそうですね。
袖山さん:子どもの頃は剣道をしていましたし、それまで地元の伝統芸能「神楽舞」やよさこいといった日本の伝統文化にも触れてきました。なので、「和の文化、和の心、和の装いが好き。着物が作れたら素敵だな」と、奈良県の専門学校へ進学したんです。3年間の寮生活で和裁と織り、染色などを勉強しました。
――卒業後はどうされたんでしょう?
袖山さん:学校の先生のつながりで、友禅染のひとつの工程である「糸目糊置き」を請け負っていました。卒業後も学校の設備を借りて、そこで作業させてもらっていたんです。
――就職するなどの選択肢もあったと思います。
袖山さん:当時は、着物をはじめ日本文化が廃れていると感じていて。少しでも若い人に届く「何か」を作ることができないだろうか……と、ずっとモヤモヤしていたんです。どうしたらいいのかわからないけれど、私がここに関わっていなくちゃいけない、という勝手な使命感で奈良に残りました。
――和裁なども学んだけど、友禅染の仕事をされていたということは……。
袖山さん:当時から、染めることに魅力を感じていたんですね。染めていると、魔法使いになったような気分になるんですよ(笑)。「何かを生み出したい。でもどうしたら……」と迷っていたとき、染めでこれほどの表現ができるんだと、大きな可能性を感じました。

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キッチンからはじまった
新しい染織のかたち。
――新潟に戻ってきてからのことも教えてください。
袖山さん:夫と相談して私の地元の新潟に移ることに決めて、しばらく子育てに専念していました。そして、3年ほど前から「草木染めデザイナー」の肩書きで活動をはじめました。
――どういった活動をするか、いろいろなアイディアがあったと思います。
袖山さん:「作りたい」「表現したい」という気持ちは学生時代からずっと持っていました。でも奈良にいた頃と同じような作業、つまり化学染料を使った着物づくりは、子どもがいる環境では難しいと思ったんです。化学染料を扱える道具も設備もありませんし、細かい粒子が部屋の中で舞ってしまうのもよくないので。「子育てをしながら、今までと同じことはできそうもない。でも諦めたくない」と考えたのが、自宅のキッチンで、ご飯を作る延長のように作業ができる草木染めでした。
――草木染めならではのおもしろさもあるんでしょうね。
袖山さん:化学染料はグラム単位で色を調整できて、複数の色を組み合わせた染色もできます。でも植物を煮出して染める草木染めはそうはいきません。それぞれの植物がどのように発色するのか調べた上で染めるんですが、それでも思った通りの色にならないんです。しょっちゅう予想が裏切られるけど、まれに期待以上のできあがりになることもあって。自然がもたらす現象をとても楽しんでいます。
――「キッチンでご飯を作るように」という言葉の通り、いつも決まった味にならない家庭料理みたいな感じがしますね。
袖山さん:そういうところが、私に合っていたんですね(笑)。大雑把なものづくりというか、このときの気分、この瞬間だけの風合いに出合えることを「楽しい」と感じたんです。計算し尽くされた色とはまた違う魅力があって。しかも植物由来で安全なので、特別な設備は要りません。日常の生活を送りながら、草木染めができることが子育て中の身にぴったりでした。
――もしかして、今、袖山さんが着ているシャツも草木染めですか? あまりに美しい色なので手作業とは思えなくて。
袖山さん:ありがとうございます(笑)。これは、桜の枝とインドアカネで染めました。草木染めは独学ですが、学生時代から勉強してきたこととやりたいこと、求められていることが、バランスよく実現できている、と思っています。
――袖山さん特有の技法みたいなものはあるんですか?
袖山さん:ポップなデザインを展開しているところだと思います。草木染めならではの渋さを残しつつ、でもポップで明るい色柄が得意です。
――それは独自に編み出したわけですね?
袖山さん:独自かどうかはわからないんですけど、「こうしたらどうなるんだろう」というひらめきから作業に移ると、すごくおもしろい仕上がりになることがあるんですよ。たとえば生地に植物染料を加えて加熱する工程に、雪を使ってみたり。「必ずこうしなくてはいけない」ではなく、ゆるく楽しみながら作業しています。

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オンラインで広がる、
草木染めの輪。
――現在は草木染めデザイナーとして、どんな活動をされているんですか?
袖山さん:活動の軸は主に3つあります。ひとつは「the HARMONY」というオンラインの草木染め講座です。あとはイベントやオンラインでの作品販売、それからワークショップの開催をしています。草木染めの楽しさをできるだけ多くの人に届けたいと思っているんですよね。植物が持つやさしい色合いに触れると、忙しい毎日の中でもほっとひと息つけるような気がしていて。そういう時間を作ることも、活動の目的です。
――オンライン講座ということは、参加者の皆さんは全国各地に?
袖山さん:日本全国北から南まで、ドイツやオーストラリアにお住まいの方もいらっしゃいます。場所と時間に関係なく開催でき、パソコン1台でつながれるのだからびっくりですよね(笑)
――講座をはじめて、どんなことを感じましたか?
袖山さん:AIやSNSが当たり前になっている時代ですが、自ら何かを生み出す「手仕事」には、デジタルでは得られない醍醐味があります。そういう感性を持ったみなさんが集まってくれているので、「もしかして今、草木染めがブームなのでは?!」と早とちりしてしまうほど、私の周りは草木染めの話題でもちきりです(笑)
――そういえば袖山さん、最近は梅干しや味噌作りもしているとのことでしたが、そういうことに関心を持ったのは、草木染めをはじめたから?
袖山さん:草木染めをはじめる前から、ですね。私の家は農家で、ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんも一緒に暮らしていました。季節の花や植物が庭にたくさんあり、毎日旬の採れたて野菜が食卓に並ぶ家庭で育った影響もあると思うんです。子どもが産まれてから、代々おばあちゃんがしてきたような「季節ごとの手仕事」に目がいくようになりました。そうして自然に「草木染め」にたどりついたのかもしれません。


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日本の貴重な文化を
次の世代へつなぐために。
――風呂敷のオリジナルブランド「HUG me FUROSHIKI」も展開されています。どういったきっかけでこの商品が生まれたんでしょう?
袖山さん:学生の頃から学んできた日本特有の文化を、後世に伝えていきたい、継承したい、という気持ちがあって。でも現状のままでは、今の暮らしに合いません。それで、ただの風呂敷包みではなく、より現代にフィットしたものを、と考えたのが「HUG me FUROSHIKI」です。アート要素もあるし、エコバッグみたいにも使える風呂敷です。
――生地のデザインも素敵です。
袖山さん:生地は広島県のクリエイティブデザイナー「PORTE design」さんが手がけてくれています。シルクスクリーンのハンドプリント生地に、私が草木染めをする「コラボ風呂敷」ですね。
――いったいどういったご縁でコラボをすることに?
袖山さん:SNSを通じてメッセージをいただいたのがきっかけです。「PORTE design」さんのものづくりの姿勢や現代のスタイルに寄り添うように日本文化を伝えたい、という考えに共感しました。すぐにオンラインで打ち合わせをして、制作をスタートしたんです。
――活動の幅を着実に広げていかれていますね。今はどんな気持ちですか?
袖山さん:「こんなに共感できる仲間が見つかるんだ」という喜びと、「私の作品や講座が少しずつ広がっていっている」という驚きがあります。学生時代は「私にできることはなんだろう」とモヤモヤしていました。それが今は、草木染めや風呂敷など、日本特有の文化を次世代のみなさんや海外の方に伝えることができつつあります。「私の取り組みは今の時代に合っているな」「思いをかたちにできているぞ」と思えて、純粋にとても嬉しいです。
――今後、目指していることはなんですか?
袖山さん:未来の子どもたちに、日本人らしい心や日本ならではの手仕事を伝えていきたいです。草木染めはきっと日本以外にも広がっていくと思うので、いつか海外でもワークショップを開催してみたいですね。こうした輪が少しずつ広がっていけば、もっとやさしくて平和な世界になるだろう、という願いを込めて活動しているので。

Kanako Sodeyama
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