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こども食堂やキッチンカーにも挑戦の幅を広げる「だしの風食堂」。

「だしの風」という言葉をご存知でしょうか。阿賀野市の安田地域に吹く強い風のことを昔から「だしの風」と呼ぶのだそうです。この地域では夏になると「ふるさとだしの風まつり」というお祭りも開催されています。そんな「だしの風」を店名にしたラーメン食堂が、国道49号線の「安田瓦ロード」入口そばにあります。今回は「だしの風食堂」の店主・五十嵐さんを訪ね、いろいろなお話を聞いてきました。

 

 

だしの風食堂

五十嵐 正人 Masato Ikarashi

1972年阿賀町(旧津川町)生まれ。愛知県にあるトヨタ自動車系列の会社で働いた後、新潟県競馬、笠松競馬場、南関東公営競馬で厩務員を経験。新潟に戻りラーメン店や老人福祉施設で料理の仕事に従事し、2018年に阿賀野市で「だしの風食堂」をオープンする。音楽が好きで、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTをよく聴く。

 

重機部品工場から競走馬の厩舎、そしてラーメン店へ。

——五十嵐さんは元々料理の仕事をしていたんですか?

五十嵐さん:まったく料理とは関係のない仕事をしていました。高校を卒業してすぐ、愛知県にあるトヨタ自動車の系列会社に就職して、フォークリフトのパーツを作る仕事をしていたんですよ。

 

——どうして、わざわざ愛知県まで行ったんですか?

五十嵐さん:僕はF−1が好きだったので、レーシングドライバーの中嶋悟さんが生まれたところで過ごしてみたいと思っていたんです。ただ僕が就職した年に、中嶋さんはレーシングドライバーを引退してしまったんですけどね(笑)

 

——それは残念でしたね。トヨタ自動車グループということは、待遇のいい会社で働いていたんですね。

五十嵐さん:そうなんですよね。でも将来が安泰なだけに、新しいことに挑戦する気持ちを感じられなくなってしまって退職したんです。

 

——うわー、それはもったいない(笑)

五十嵐さん:贅沢な悩みですよね。それで新潟に帰ってきてからは、新潟県競馬の厩舎で厩務員として働くことにしました。

 

——重機の部品工場から競走馬の厩舎ですか(笑)。これまた思いっきり舵を切りましたね。

五十嵐さん:自分が世話した馬がレースで優勝したら嬉しいんだろうなって思ったら、どうしてもやってみたくなりました。求人票には終業時間が「2時」って記入されてたから、昼過ぎに終わるなんて楽な仕事だと思ったんですが、いざ働いてみたら午後2時じゃなくて午前2時のことだったんです(笑)。労働時間も長い上に休みもなくてキツかったですが、とてもやりがいのある仕事でしたね。でも、残念なことに新潟県競馬が廃止になってしまったんです。

 

 

——あらら……。その後は?

五十嵐さん:リーディングジョッキーと一緒に岐阜の笠松競馬場でお世話になったり、南関東公営競馬で働いたりしました。

 

——わりと長い間、競走馬の厩務員を続けていたんですね。飲食業にはいつ頃から足を踏み入れることになったんですか?

五十嵐さん:新潟に帰ってくることになって、人を楽しませることができる仕事をしたいと思ったんです。そこで思いついたのが飲食業でした。ちょうど新しくオープンするラーメン店があったので、そこでアルバイトをさせてもらったんですが、あまりにスタッフ不足だったので、1年も経たないうちに正社員へ昇格して、そこから1年しないうちに店長へと昇格していました(笑)

 

店名の由来になった「だしの風」とは。

——「だしの風食堂」って、ちょっと変わった名前ですね。

五十嵐さん:いつだったか思い出せないんですけど、「だしの風」っていう言葉をたまたま目にして調べてみたんです。そしたら「船出に適した風」「挑戦する者を応援する風」という意味だと知って、どうしても店名に使いたいと思いました。昔から阿賀野市に吹く強い風を「だしの風」と呼ぶことも知って、お店をやるなら絶対に阿賀野市でやろうと決めていたんです。

 

——お店の立地にまで影響を与えるなんて、よっぽど「だしの風」っていう言葉が気に入ったんですね。

五十嵐さん:ラーメンも店名にちなんで「だし」を効かせなければと思って、煮干しだしのラーメンをメニューに加えたりしました。あと、この辺りにはあまりないラーメンを提供するよう心掛けています。

 

 

——例えばどんなラーメンですか?

五十嵐さん:「ニュータンタン麺」は他県で人気のあるお店のメニューをインスパイアしたものです。「鰆(さわら)煮干しラーメン」は前職でお世話になった乾物屋さんから勧められて鰆の煮干しを使ってみたら、うま味が強くて独特の風味が楽しめるラーメンになったんです。今では乾麺として製品化して「道の駅あがの」「ラポルテ五泉」、ネット通販やキッチンカーでも販売しています。

 

 

——自宅でもお気軽に「鰆煮干しラーメン」が食べられるんですね。他にもおすすめメニューってありますか?

五十嵐さん:あとは「ジャンボ餃子」ですかね。ここは以前中華料理店があったんですよ。そこでは「ジャンボ餃子」が名物だったらしくて、お客様からリクエストがあったんです。だったら前よりも大きい餃子を提供してやろうということで、さらに大きなサイズの餃子になりました(笑)

 

様々な挑戦を続けるラーメン食堂の店主。

——店内にチラシが貼ってありますけど、このお店では「こども食堂」をやっているんですか?

五十嵐さん:ずっと前から、子どもはもちろん、ひとり暮らしのお年寄りにも利用してもらえるような地域食堂を公民館を使ってやってみたいと考えていたんです。でも自分のお店を持つことができたので「ここでやればいいじゃん」と思って、この店で毎月第2木曜日に開催しています。最初は子ども1食100円、大人1食300円で食事を提供していたんですが、新型コロナの拡大防止対策で、現在は1食100円に統一したお弁当を販売しています。

 

 

——それは地域の方々に喜ばれますね。少し前には、地元の遊園地の「サントピアワールド」さんとコラボした企画も話題になりましたね。

五十嵐さん:ああ、あれですか。新型コロナ対策で支払われる時短協力金を、みんなに喜んでもらえることに使えないかと思ったんです。ひとり親家庭がコロナ禍で苦しんでいるということを知ったので、遊園地で思い切り遊んで笑顔になってもらえたらいいなと思って、お店の常連さんでもある「サントピアワールド」の園長さんにご協力いただいて、100人分のフリーパスに昼食をつけてもらえることになったんです。

 

——でも100人分のひとり親家庭を調べるのって大変そう。

五十嵐さん:そこで阿賀野市にも協力していただきました。ひとり親の対象家庭に参加申込書を配布していただいたんです。皆さんのご協力のおかげで企画を実行することができ、本当に感謝しています。少しでも子どもたちが笑顔になってくれたら嬉しいですね。

 

 

——素晴らしい試みですね。ところで、さっきお話のなかでキッチンカーという言葉が出てきましたよね。

五十嵐さん:コロナ禍で落ちた売り上げを回復するために、こちらから出向いてラーメンを販売してみようと思ったんです。キッチンカーを自作している「窯焼きピザCaldo(カルド)」の吉古川さんに教わりながら、軽トラをベースに手作りしました。とはいっても、ほとんど古川さんに作っていただいたんですけどね(笑)

 

——自分たちでキッチンカーを作っちゃうって、すごいですね。

五十嵐さん:製作過程を毎日SNSに投稿していたんですよ。バズったらいいなと思ってやっていたんですけど、まったくバズらなかったですね(笑)

 

——(笑)。どんなところで出店しているんですか?

五十嵐さん:「ラポルテ五泉」や「デンカビッグスワンスタジアム」の他、地元の「瓦ロード」でも何回か出店しました。印象に残っているのは、障がい者就労支援施設におじゃましたときですね。あまり外食の機会がないのか、目をキラキラと輝かせながらラーメンを食べてくれる姿に感動しました。今後は老人施設にもおじゃまして、お年寄りにできたてのラーメンを味わってほしいと思っています。

 

 

 

だしの風食堂

阿賀野市寺社甲22121 千歳ハイツ1F

0250-47-7332

11:00-15:00/18:00-20:30

水曜休

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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