桐たんすや生活家具を取り扱う会社として1950年に創業した「朝倉家具」。「世代を超えて長く愛される家具を作る」という創業当初からのポリシーをもとに、桐材だけでなくブナや栗などの無垢材を使った家具製作事業を拡大し、面白い企画を次々と展開中です。今回はそんな朝倉家具の専務取締役の倉茂さんと工場長の大矢さんに、いろいろお話をお聞きしました。
株式会社朝倉家具
倉茂 円 Madoka Kurashige
新潟県加茂市出身 1979年生まれ。朝倉家具 専務取締役。
株式会社朝倉家具
大矢 裕一 Yuichi Ooya
新潟市南区出身 1974年生まれ。朝倉家具 工場長。
――工場長の大矢さんが入社された頃のお話を教えてください。
大矢さん:私は入社して30年になりますが、当時は桐たんすの製造販売がメインで、他の家具は仕入れたものを販売していました。うちの会社はひとりが1~10までを担当するのではなくて、分業というかたちで担当しています。例えば木材を各パーツに加工する担当、加工されたパーツを組み立てる担当、組み立てたものに塗装・金具などを取り付ける担当、というかたちで分かれていて、私は一番最初の木材をパーツに加工するセクションを担当していました。入社した頃は1日5台分の桐たんすのパーツを加工していましたね。組み立てる人間が4人いたので、その4人分のパーツをすべて加工して準備しなきゃいけないわけです。それを私はひとりでやっていたので、かなりの量でした。技術というかもうただただ生産に追われていましたよ(笑)
――専務取締役の倉茂さんはいつ頃入社されたんですか?
倉茂さん:私が入社したのは2012年で、そのときも桐たんすの製造がメインでしたが、桐たんす以外のインテリアもちょうど自社で作り始めたような頃だったと思います。桐たんすは時代の流れとともに出荷量が減ってきていて、自分たちの技術や知恵を別のかたちで何か伝えられないかと思っていました。他社様が作った素敵な家具に触れ、知恵を授かることで、自分たちでも作れるんじゃないかと考えるようになっていったんです。徐々に自分たちで作れるものを増やしていこうとしていたのが2010年代初頭で、そこからしばらくは転換期になります。
――職人さんも、それまでの桐たんすから、別の素材を扱うことになったわけですね。
倉茂さん:ショップの販売を行いながら、自社職人さんの技術を近くで見ていたので、最初は「これだけの技術があれば、こんな新しいこともできるんじゃない?」っていう感覚でお願いしました(笑)。我が社の職人たちは桐ばかりを扱ってきたので、桐よりもものすごく堅い木材を加工しなければならなくなるわけです。そこの部分ができるできないで職人さんたちと悩みに悩みました。
――桐材以外での家具製作の話を聞いたときはどうでしたか?
大矢さん:それを聞いたときには「本当に言ってるんですか?」って感じでしたよ(笑)。でもまぁ食べていくには変化していかないといけない、その必要性も感じていたのでなんとかしなければなと思いました。作っている方に聞きに行ったりとか、桐たんすの機械でどこまでできるか自分たちでもいろいろ試行錯誤しながら失敗を重ねて徐々にっていう感じでしたね。
――無垢材加工はどんなところが大変なんですか?
大矢さん:天然木なので木目とか伸縮を考えて加工する必要があるんです。天然ということは木材自体が唯一無二で、個体差があるので、このあたりは感覚だったり経験で木の動きを読みながら木と向き合わなければいけないんですよ。これは天然木を扱う宿命みたいなもので、いくら教科書で学んでも実体験がなければできない世界ですね。しかも日本には四季があるので気候でかなり変化します。梅雨時期は特に大変です(笑)。「木が動く」っていうのは今までの桐たんすではなかったことなのでそこがいちばん悩みどころでした。ブナっていう木材なんかは、組んだあとに平気で1cmくらい縮んだりするんですよ。びっくりするくらい(笑)。今では十数種類の木材を使っていますが、それぞれ数をこなしていくうちに動きのクセなんかが分かるようになってきました。
――企画なども自社で行っているんですか?
倉茂さん:社長と私が主に企画、図面製作、営業を担当しています。他の社員は製造部になります。今では販売しているものの9割は自社で作っていますね。以前は桐たんすなどでもデザイナーさんにお願いすることもあったんです。ただ自分たちとしては今までお客様と直接関わりながらお声を聞かせていただいたものを「まずは一回かたちにしてみよう」ということで、現在はデザイナーさんにはお願いせずに社内でデザインしているようなかたちになります。
――けっこうマルチですね。
倉茂さん:それでいうとうちの職人は仕入れた家具の納品もしているんです。納品時にはお客様からいろいろ聞かれたりしますし、ある程度商品のことも知っておいてもらっています。自分たちが作ったもの以外の商品も説明できるという、ちょっと変わった職人集団なんです。
――ということは職人さんが工場から出ちゃうわけですね。
大矢さん:やっぱり自分が作ったものを自分で納品して喜んでもらえたときの感動はありますね。直に喜びを感じることができるんです。購入した家具はもちろんなんですけど、お家にある既存の家具の修理なんかをお願いされることもありますよ(笑)
――じゃあ、お客様にもメリットがあるんですね。
倉茂さん:あと工場しか知らない職人と違って、お客様の笑顔を知っている職人はモチベーションがやっぱり高いですね。無茶ぶりしても「そんなの無理だよ」ではなくて、「なんとかやってみよう」っていうマインドでいてくれるのはすごくありがたいです。お客様のところへ納品する際にこんなこと聞かれるだろうなっていうところまで想定して製造できたりとか、お客様がどんなお部屋で使うのか想像しながら作ったりとか、かなりの強みだと思います。言われて作らされているのではないのがうちの強みです。
――商品のラインナップはどのようになっていますか?
倉茂さん:家具は2シリーズ展開で、経年変化を楽しんでいただく栗で作った「Patina」シリーズと、新潟のブナであるスノービーチで作った「Sara」というシリーズがあります。生活雑貨を扱う雑貨部門も最近はちょっとずつ増えてきています。お弁当箱、お皿、酒器なども近々発売開始の予定です。
――企画を考える際にどんなことを大切にしていますか?
倉茂さん:お店に立っているとお客様って「木って良いね」って言ってくれるんですよ。でも実際「なんで」「どんなところが」とかっていう質問をしてみると結構曖昧だったりすることがあって、私自身も明確な答えはないんですけど、やっぱり感覚的に「木って良いな」って思ってくださる方って結構多いんです。でも木のものって意外とお家にないかもっていう方も多くて、そういった方々の「良いな」って思う気持ちと「持っていない」っていう事実のミスマッチをどうにかしたという気持ちから企画しています。
――確かに具体的な良さが分かれば使いどころも見えてきますね。
倉茂さん:「木」とひとことで言っても樹種はたくさんありますし、それぞれに長所と短所もあります。その中で生活の中でここに木があったら良いなとか、ここに木の特性が活かせるなっていうポイントを探してそこに当て込みながら企画を考えています。例えば酒樽に使われている木を使って酒器を作れば酒樽からお酒を飲んでいるみたいに木をダイレクトに感じながらお酒を飲めたりとかするわけです。こういう面白いことを考えて「木って良いな」っていう気持ちと「木の商品を持っているよ」っていうことをつなげていきたいという気持ちでやっています。
――大矢さんはモノづくりをする上で大切にしていることはありますか?
大矢さん:うちは元々桐たんすのメーカーで、その工法を取り入れながら他の木の加工も行ってきました。桐たんすは、昔は娘が嫁ぐときに持たせるお祝いの品だったので、縁起物という意味を含めて作っていました。こういったお祝いの品だったり縁起物を作っているんだっていう気持ちは木材が変わっても一緒なので、そのあたりはしっかりと若手に伝えていきたいと思っています。
――実際に買いたい場合はどうしたらいいですか?
倉茂さん:ショールームは土・日・祝は営業していて平日は予約制となっています。平日ご覧になりたい方は事前にご連絡いただければ大丈夫です。雑貨は新潟伊勢丹さんの越品とか、新潟駅のぽんしゅ館などに並んでいます。オンラインショップでの販売も行っていますので是非お気軽にお立ち寄りください。
株式会社朝倉家具
TEL : 025-375-5111