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僕らの工場。#27「株式会社五十嵐プライヤー」のモノづくり。

昭和15年に創業した「株式会社五十嵐プライヤー」は、国内唯一のプライヤー専門メーカーです。……とは言いつつ、みなさんは「プライヤー」という工具をご存知でしょうか。Things編集部は、初めて聞いた工具の名前でした。今回は、そんな「プライヤー」の正体から、会社の歴史、これからもモノづくりについてまで、代表取締役の内山さんと製造部長の吉村さんにインタビューしてきました。

 

株式会社五十嵐プライヤー

内山 航洋 Koyo Uchiyama

1992年三条市生まれ。専修大学文学部英語英米文学科卒業。都内のアパレルブランドで勤務していた頃に、燕三条のモノづくりの偉大さを再確認して帰郷。株式会社五十嵐プライヤー4代目代表取締役。音楽とファッションが好き。

 

株式会社五十嵐プライヤー

吉村 哲治 Tetsuji Yoshimura

1960年長岡市生まれ。1983年4月に株式会社五十嵐プライヤーに入社。現在は製造部部長として、プライヤー製造の中核を担っているベテラン。畑と田んぼが趣味。

 

「プライヤーって何?」。まずはそこから聞いてみた。

――「プライヤー」って言葉を初めて聞いたんですけど……。どんな工具なんですか?

内山さん:掴むことに特化した、汎用性が高い工具です。ピボット(支点部分)がスライド構造になっているので、大きな物を掴むときに先端部分を大きく開き、対象物を平行に保持することができる特長があります。ペンチだと大きな物を掴むとき逆ハの字になってしまいますよね。なので、プライヤーは多くの作業現場やDIYで利用されているんです。

 

――ってことは、ペンチはプライヤーではないってことですよね?

内山さん:英米では、ペンチを含む挟み工具全般を「pliers」と呼んでいるけど、日本ではスライド構造の物だけがプライヤーになるようです。ただ、ペンチもニッパーも大きなくくりとしては、プライヤーですね。ちなみに、日本人は知らない人がほとんどですが、ペンチは英語で「pinch (意味:挟む)」が「ペンチ」に聞こえた和製英語で、海外では通じません。

 

吉村さん:ちなみに、プライヤーは「コンビネーションプライヤー」と「ウォーターポンプライヤー」の2種類があります。それぞれ「スライド部分が瓢箪穴になっている」「口開きが三段階以上調節可能」という特徴があって、用途によって使い分けられているんですよ。

 

 

――ふむふむ。プライヤーにも種類があるんですね。

吉村さん:そうなんです。で、そんなプライヤーを、いろんなサイズや用途に合わせて製造しているのが、私たち「五十嵐プライヤー」なんです。とてもニッチですよね。現在は自社製品のIPSブランドで、約80種類ものプライヤーを製造しており、私は製造部長として製造全体を管理しています。

 

――そんなにたくさんの種類があるんですね。「五十嵐プライヤー」のようなプライヤー専門メーカーって、他にも国内にあるんですか?

吉村さん:それが……ないんですよ。だから「五十嵐プライヤー」は、日本で唯一のプライヤー専門メーカーなんです。Made in Japanにこだわって、品質にこだわって、確かな技術で職人たちがプライヤーを作っています。ちなみに、ひとつの材料がプライヤーになるまでに、20~30工程もあるので、完成までに3~4ヵ月もかかるんですよ。

 

 

――そんなに工程と時間が……。唯一の国産メーカーとして、しっかりとプライヤーの製造技術を伝承していかないとですね。

吉村さん:はい。でも、技術や品質を伝承していくだけじゃなくて、「プライヤーを知らない人たちに、プライヤーの存在を知ってもらい、国産の本物を使ってもらう。本物を日本に残す」というミッションもあります。そうでないと、プライヤーという工具を後世に残していけないですからね。最近は、海外製の安価なプライヤーも日本で買えます。プライヤーだけじゃないと思いますけど……Made in Japanを守れるのは日本のメーカーしかないんです。

 

「五十嵐(イガラシ)プライヤー」の歴史。五十嵐なのに内山の謎。

――内山さん……ちょっと聞きづらい質問があるんですけど……。「内山」なのに、どうして社名は「五十嵐」なんですか?

内山さん:それ、よく聞かれます。不思議ですよね(笑)。実は……2代目社長の子どもは女四姉妹でした。その長女を嫁にもらった僕の父は、私が産まれた年に、県内で務めていたアパレルメーカーを辞めて「五十嵐プライヤー」に入社。その9年後に「会社の後を継がないか」と声がかかり、3代目社長の内山が誕生しました。これが「五十嵐」なのに「内山」の答えです(笑)

 

――そういうことだったんですね。いやー、スッキリしました。「もしかして買収したのかも」とか、妄想が止まらなかったもので(笑)。ではでは、会社の歴史について教えてください。「五十嵐プライヤー」は、どんな成り立ちなんですか?

吉村さん:三条市のペンチメーカーで工場長を務めていた創業者の五十嵐末一郎が独立して、当時日本では製造されていなかったプライヤーを作りはじめたのがスタートです。1940年に新潟県三条市で創業して以来、国内だけでなく、海外からも高い評価を得られているんですよ。

 

 

――五十嵐末一郎さんは、どうしてプライヤーを選んだんですか? ペンチメーカーで働いていたなら、ペンチを作ればよかったんじゃ……。

吉村さん:「恩師と同じ工具は作らない」と決めていたから、国内では誰も作っていなかったプライヤーを選んだそうなんです。その結果、日本製プライヤーの品質の高さが認められて、車載工具として採用されるなど、国内外から高い評価を受けられるようにまでなりました。

 

――本当なら、今まで経験を積み上げてきた技術を活かすところを、あえて「同じ工具は作らない」と。職人って感じで、カッコイイですね。

内山さん:「同じ工具は作らない」という考えは、現在まで受け継がれていて。2代目は「何か変わった物を世に出せないか」という考えから、掴んだ物を傷つけないプライヤー「ソフトタッチ」を1980年代に開発、3代目はお客様の声をもとにデザイン性と機能性の追求し、現在のIPSブランドの商品群を確立。そして、4代目の私は作業工具製造業では先駆けて、SNSやクラウドファンディング、SDGsなどに取り組んでいます。今後は、「本物を日本に残していく」ことを世界に伝えていきながら、「五十嵐プライヤー」にしか出来ないことに挑戦し続けます。広義な意味で「掴む」にこだわった新規事業も考えていますよ。

 

創業80年工具メーカーが手掛ける”本気の日本製キャンプ工具”

――新規事業というと、どんな展開を考えているんですか?

内山さん:新規事業の一つとしてキャンプ業界に進出します。「Campdrunk(キャンプドランク)」は、新潟県燕三条で創業したMade in Japanのモノづくりを80年間追求し続けている「五十嵐プライヤー」が作り上げた、機能美を兼ね備えた本気の日本製キャンプ工具です。「Makuake」では、皆様のご協力のお陰で800万円を超える金額の応援購入をいただきました。「いいモノを永く使ってもらいたい」という理念から、持ち手は本革グリップを採用しています。経年変化していき、使うごとに味が出て、馴染んでいきますよ。素晴らしいMade in Japanのキャンプギアは数多くある中で、「工具」と呼ばれる類のものは意外と世の中にないんですよ。妥協を許さないプライヤーづくり80年の技術が織りなす多彩な使い心地をご堪能いただきたいです。今後もこだわり抜いた新商品が登場する予定です。

 

モノづくりは、人づくり。これからの「五十嵐プライヤー」。

――「本物を日本に残していく」というのは?

内山さん:情報や物が溢れている現代では、ファストファッションのように安く大量生産された物が蔓延っています。そうなると、昔みたいに良い物に当たり前に触れる文化が薄れてきて、日本のモノづくりは衰退していくことに。私たちが今までに培ってきた技術や品質、そして人の手をかけて作ってきた、人を大切にした意味での「本物のモノづくり」を時代と共にアップデートさせながら、日本に残していきたいんです。

 

吉村さん:モノづくりの姿勢には、人柄がよく現れます。ただただ機械を動かして、物を作っているだけじゃ豊かな経験や体験は積めないし、それが無いと「気持ちが乗っかったプライヤー」は作れません。鍛造からはじまり、機械加工、熱処理、研磨、表面処理、組立、検査、そして出荷まで、私たち「五十嵐プライヤー」の社員それぞれがお客さまのことを考えて、一つひとつ80年以上積み重ねてきたからこそ、今があります。

 

――人があり、気持ちがあるからこそ、「五十嵐プライヤー」のモノづくりは続いているし、残していかなくてはいけないんですね。

内山さん:そうですね。「理念が無いモノ」「気持ちが乗っかっていないモノ」は今後、間違いなく入れ替わっていきます。残りません。目まぐるしく変化する世の中で、変わることのないもの。変えてはいけないもの。これからもお客様、従業員をはじめ、私たちのプライヤーに関わる世界中のみなさまの気持ちを大切にしてこれからも「本物」を残し続けます。

 

 

 

 

株式会社五十嵐プライヤー

新潟県見附市坂井町1-4-3

0258-66-5445

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