とんかつをはじめ、ステーキ、ハンバーグ、すき焼きといった肉料理をメインに営業する、新潟市秋葉区の老舗レストラン「箱岩(はこいわ)」を取材したのは、もう6年前のことです。現在は三代目にあたる息子さんが中心となって営業しているようなので、その後の「箱岩」を取材してきました。
箱岩
箱岩 賢 Ken Hakoiwa
1998年新潟市秋葉区生まれ。新潟市内の調理師専門学校を卒業し、ステーキハウスで経験を積んでから家業の「箱岩」で働きはじめる。好物は鶏の唐揚げで、いつかは鶏肉料理の店にもチャレンジしてみたいと密かに思っている。
——箱岩さんが家業の「箱岩」を継ごうと思うようになったのは、いつ頃からなんですか?
箱岩さん:高校生の頃ですね。それまで続けてきた野球部を引退して、将来を考えたときに家業を継ごうと決心しました。
——じゃあ、わりと最初から「箱岩」を継ぐつもりで考えていたんですね。
箱岩さん:そうですね。だから専門学校で1年間勉強した後、新潟市内のステーキハウスに就職しました。
——肉料理を学ぶには、ぴったりのお店ですね。
箱岩さん:ところがホールスタッフが足りなくて、調理ではなく接客の仕事をやることになってしまったんですよ。ただ、当時は戸惑いましたけど、接客を学んだことが今ではとても役に立っています。
——どんなことが役に立っているんでしょう?
箱岩さん:お客様と接する経験をしたことで、調理をするときにもお客様のことをしっかり考えるようになりましたね。
——例えばどんなふうに?
箱岩さん:「とんかつ定食」のオーダーひとつとっても、誰が食べるのかで使う部分やつくり方が変わってくるんです。例えばお年寄りが食べるのであれば、脂身の少ない肉を使って、噛み切りやすいように筋切りを多めにしています。
——食べる方にとってはありがたいことですね。
箱岩さん:あと家族連れやカップルの料理を、できるだけ一緒に出すよう心掛けています。ただコンロの都合もあって、それぞれが違った料理だと難しいこともあるんです。そんなときは、食べるのに時間がかかるお子さんや女性の料理を優先させるようにしています。
——なるほど〜。それだと同じタイミングで食べ終わることができるんですね。
箱岩さん:そうなんです。そのためにも、できるだけお店に入ってきたお客様の顔を見るようにしています。お客様から「席数を増やしてほしい」という要望もありますが、この席数だからこそお客様に目を配ることができているんですよね。
——お店を営業する上で、難しいと思うこともあるんじゃないですか?
箱岩さん:自分が事故や病気で厨房に立てなくなったら、代わりがいないことが心配ですね。いざというときのために、弟子を入れた方がいいのかなと思うことはあるんですけど、自分の性格上難しいかもしれないです(笑)
——それは、どういうことですか?
箱岩さん:自分と違うやり方をされちゃうと、気になって仕方がないんですよ(笑)。自分とまったく同じ人間はいないので、ある程度の我慢が必要なことは承知しているんです。母からも「そのこだわりを何人のお客様が気づくの?」って言われています。でもお客様がこの店を選んでくれるのは、そのこだわりがあるからだと思っているんですよ。
——なるほど。なかなか難しい問題ですね。
箱岩さん:そうなんです。もし弟子を入れるのなら、調理経験どころか専門学校にも通っていない、包丁も握ったことがないような素人がいいですね。へんに癖が付いていない子と一緒に頑張っていけたらと思っています。そして、いつか弟子が立派に独立してくれるのを見たいです。
——難しいことではあると思いますけど、いいお弟子さんを育てていただきたいです。他に難しいと感じることはありますか?
箱岩さん:食材の値上がりは深刻ですね。でもクオリティを落として価格を下げることはしたくないんです。お客様は値段が安いから食べに来てくれているのではなくて、うちのクオリティやこだわりを信用して食べに来てくれていると思うんです。その信用を失わないよう心掛けていきたいですね。
——最近だと米不足が問題になっていましたよね。
箱岩さん:うちも仕入れ値に大きな影響がありました。かなり厳しい状況でしたが、知り合いの農家から仕入れることができたので何とかしのげたんです。来年からは農家と直接、年間契約をさせていただく予定なんです。
——いちばん人気のあるメニューは、やっぱり「とんかつ」でしょうか?
箱岩さん:「とんかつ」を追い抜いて、いちばん人気なのが「肉丼」なんです。以前はあまり人気がなかったのでメニューから消えたんですけど、復活してから人気が出ました。
——へぇ〜、人気が出たのはどうしてなんでしょう?
箱岩さん:うちの店もグローバルな時期があって、夜になるとカウンターに外国人が並んでいたんです。彼らはスパイシーな味を好むので、テーブルに置かれていたコショウを「肉丼」にかけて食べていました。それにヒントを得て、コショウをかけて提供してみたら人気が出たんです(笑)
——トッピングされた目玉焼きもビジュアル映えするし、豚肉のしょっぱさをマイルドにしてくれますね。
箱岩さん:そうなんですよ。以前、目玉焼きをトッピングした丼のコンテストに、新潟代表として声をかけていただいたことがありました。残念ながら新型コロナの拡大で取り止めになってしまいましたが、いつか「箱岩の肉丼」が新津の名物になったらいいなと思っています。
——新津へのこだわりが強そうですけど、中央区への移転や二号店オープンは考えていないんでしょうか?
箱岩さん:新津のこの場所で営業することが大事だと思っています。やはり創業以来55年続いてきた歴史がありますからね。これまで培ってきた信頼もあるし、地元に刻み込まれた歴史もあると思うんです。カップルで来ていたお客様が結婚して子どもが生まれて、今では家族連れで来てくれています。それって変わらず続けてきたからできることですよね。
——老舗としての歴史を変えたくないということですね。
箱岩さん:ときどき新メニューを期待する声も聞かれますが、変わらない味を提供し続けていくことを大切にしたいんです。だから新メニューを考えるのは二の次で、まずはとんかつを日々グレードアップすることに力を入れています。「店を受け継ぐ」というのは、そういうことだと思っているんです。
箱岩
新潟市秋葉区新津本町3-11-10
0250-22-4516
11:30-14:00/17:30-21:00
水曜休