先日ご紹介した中央区の芸術・文化施設「砂丘館」には、開館当初から20年にわたり、すべての装花を担当しているお花の先生「桜井瑞華」さんがいます。先生がお花の入れ替えに来られる日にお邪魔して、準備するところから、広間のお花を活けるところ、片付けをするところまでついて回らせてもらったのですが、先生の動きがあまりに俊敏で追いつけなくなりそうでした。質問には笑顔で答えてくださり、お花と向き合うときは真剣そのもの。そんな桜井先生に、いろいろとお話を聞いてきました。
桜井 瑞華 Zuika Sakurai
1939年新潟市生まれ。商業高校の部活動で初めてお花に触れる。社会に出てから、結婚後もお花を続け、華道の三大流派のひとつ「いけばな小原流」の研究会には数えきれないほど参加している。中央区の芸術・文化施設「砂丘館」のお花を一任され、毎週新しいお花を飾っている。
――今日は、どんなお花を用意されたんですか?
桜井さん:このところお花屋さんで「活けたいな」と思うお花を選ぶと、1本何百円もするんです。そこに消費税。あんまりいいお値段になるから、私は最近、直売所に行って決めておいた予算内でお花を買うようにしています。お店の人と仲良くなって「今日は、このお花がありますよ」って情報をもらって。でも、たまに間違ってちょっと古いのも買っちゃったりするの(笑)。物足りないときは、お友達にお願いしてお庭の草木を切らせてもらったり、自宅で育てているちょうどいい葉っぱを抜いてきたりしています。
――みるみるうちにお花が完成するので、びっくりしました。使うお花を選んで、器に挿してと、一連の動きがあまりに早くて。
桜井さん:昔ね、東京の「いけばな造形大学」に4年間通ったんです。それがとても楽しくて。造形を学びますと、工芸にも関係してくるでしょう。新潟市の展示会に作品を出して、賞をもらったこともあるんです。立体的に見せるとか、どの視点から見ても美しく仕上げるとかの手法は、そこからきているかもしれません。
――「お花を無駄にしない」とおっしゃっていましたね。
桜井さん:はい、無駄にはしません。ひまわりの元気がないようだったら、花びらをそっと外して、真ん中の茶色い部分だけを生かします。それはそれでシックな感じで、いいアクセントになるんです。お花は人に見られていると嬉しいんだと思うんです。だからなるべく無駄にしないで、誰かに見てもらえるようにしてあげたいんです。
――「もうこれで完成かな」と思っても、さらに手を加えられて。アイディアはどこから湧いてくるんでしょうか?
桜井さん:長年やっていることだからでしょうか。あとは、好きなようにやらせてもらっているから。
――桜井先生は、お花に緑を加えるのがお好きだとか。
桜井さん:緑の添え方は意識していますし、お花を活けるときは必ず緑も使います。まず芽が出て、緑の葉になって、それから花が咲くわけですから、お花と緑の相性は抜群です。下からこう、自然の力で植物が伸びていくような力強さが感じられます。
――毎週の「砂丘館」さんのお仕事は、開館から20年続けていらっしゃるそうですね。
桜井さん:家にいると、たまに調子が出ないときがあります。でも時間になって「砂丘館」さんで手を動かしはじめると、もう、楽しくてしょうがないの(笑)
――玄関に置かれている大きな作品から、テーブルに飾る小さなお花まで。先生が準備するお花は、30箇所くらいはあったと思います。
桜井さん:だいたいそれくらいだと思って、お花を揃えています。お花を活けながら「ちょっと組み合わせがイマイチかしら」と思ったら違うものを選ぶこともあるし、思い通りの出来にならなくて、もういっぺんやり直すときもあるんです。
――どんなことを意識されて、お花を活けているんですか?
桜井さん:やっぱり、その場所に合うようにすることが大切だと思います。例えば、広いお部屋では四方から見られることを意識して丸く仕上げるようにしたり、掛け軸があれば、それと調和した色を選んだりします。館長さんがリクエストをくださるので、「玄関はあのお花がいいかな」「あそこの角はこれにしよう」って、自宅でちょっとだけ考えてくるの。
――社会に出て、そして結婚されて専業主婦になられてからもずっとお花を続けていらしたそうですね。お花のどんなところが好きですか?
桜井さん:雑然としたところには、お花を置きたくありませんでしょう。お花を飾って、そこをきれいにするまでがひと続きだと思うんです。お掃除を終えると、スッキリして気持ちがいいじゃないですか。家庭に入ってからも、ずっとそうして暮らしてきました。「飾る場所は整えていたい」って、自然とそう思えるところがお花のすごさです。
――先生にとって、お花はどんな存在?
桜井さん:どう言ったらいいんでしょう……。本を読むよりも楽しい(笑)。新聞はさっと読んでしまいますけど、お花は納得できなかったらもういっぺん活け直します。それだけ気持ちを乗せられる存在です。
――今日は私、先生のお手伝いを少しだけさせてもらいました。先生が活けた小さい花瓶をみっつお盆に乗せて2階に運んだんですけど、あまりの重量にバテてしまいそうでした。桜井先生のパワーの源をぜひ聞きたいです。
桜井さん:私だって、たまに花瓶ごとひっくり返して、水をジャバっとこぼします(笑)。パワーの源だなんて、特別なことは何もしていません。ただ花のいいところを見つけて、いい向きにして活けて。どなたかが見てくれたとしたら、それがいちばん嬉しいこと。それが、活力になっているのかもしれないと思います。
桜井 瑞華